理想を具現化した結果色々と無理がでてくるけれど現実を見ない国には相応しいわ。
そうなのだ。
オースヴァイン王国は自身の作り上げた「伝統」を基準に、
文化?の鎖国政策を進めていた。
それは「伝統」を磨き上げて「美しく」する効果は確かにあった。
国の為と言われれば、貴族は従うし、それに倣うように平民達の文化も作られる。
なんて便利な「鎖国政策」なのでしょう。
けれどファルスティンはオースヴァイン王国の内側に位置するのだから、
鎖国政策の影響は受けないのだ。
その点で叔父様のばら撒いた「小麦」は勢い良く広がったのでしょうけれどね。
その見せ掛けの豊かさのお陰で新しい服飾産業へとシフトする領地も出来て、
「ファッション」を楽しむ事が出来る土壌が王国内でも、
出来上がりつつあるみたいだけれど。
それを利用しない手は無いわよねぇ。
服飾関係から考えても領内では物として出そろって満たされた事から見ても、
領民は限界ギリギリの苦しい生活を送っていない証明でもある事だし。
今、現状でもオースヴァイン王国より「良い暮らし」はきっと出来ている。
だからこそその分野においては攻勢をかけてやるべきなのかもしれない。
デザイナーもきっと「飽きる」でしょうからね。
縦割り式にした「伝統あるドレス」の皮を被った、
「領外」へと放出する衣服を作らせるべきタイミングだと私は考えたのだ。
素敵な生地を使った安すぎるドレスを作ってあげるべきなのだ。
「ねぇギネヴィア?
ドレスって量産できるようになると思う?」
「そうね。デザインによるのではないかしら?
お父様が裁縫の一部を機械化してくれたみたいだし…
物によっては可能となるかもよ」
ギネヴィアの部分的にでもできるといわれた時点で、
私は自身の考えに無意識にゴーサインを出していたのかもしれない。
それはオースヴァイン王国の「平民」が着るドレス。
王国の「豊かさ」の象徴となってくれる事請け合いで、
町が新しい服飾で彩られれば、
あの「ボルフォード」も変わらないといけないわよね?
それから私は「重ね着するタイプ」のドレスを作らせる事にしたのだ。
そして構造を簡略化して着なれないドレスでも身に着けやすい様に、
構造を変更しながらコストダウンを図るのだ。
ついでにバスクの内側にコルセットを縫い付けて、
強く矯正で出来る物も当然用意して差し上げる。
スカートと一体化させたパニエ。
コルセットと一体化したバスク。
それだけで憧れ?の御令嬢のドレスを着ている気分には浸れるのだ。
そして腕と肩を隠せるボレロにそれに合わせたエプロンを身に付ければ、
良い感じのちょっぴりゴージャスな仕事着にも見せる事が出来る。
それを背中の紐以外に、脇の下に重なり合させた生地を配置して、
ある程度フリーサイズになる様にしながら仕上げさせあげれば、
同じ物を「量産」出来る様にして作り上げられる事を可能とするのだ。
そして総仕上げに、ギネヴィアに言って無理に用意してもらった、
刺繍の代りにやたらと技術力が向上していた染め物の印字技術を使って、
細かな刺繍をしてあるように見せたのだ。
その細かな印字を施しただけで見た目はゴージャスな物となった。
ともかく現在私が考えられる妥協とコストカットを尋常じゃないほど行った。
現時点で世界一安いドレスは完成させる事が出来た…
けれど…
ファルスティンで流通させたとしても誰も着ないでしょうけれどね。
基本的に気温が低いファルスティンの衣服は、
基本数枚の生地を重ねて厚く作るのが普通なので、
尋常じゃないコストカットの果てに作り上げられたこのドレスに、
納得できるデザイナさんも針子さんも当然いないのだ。
まともな服飾を考えて整えられた普段着を着て暖かく作り上げられる、
ファルスティンの普段着を知っているからこそ、このドレスを作らせ、
売ろうとする事が信じられないみたいだった。
デザイナーさんや、針子さん達のこんな「出来損ない」を着たがる人が、
いるとは思えないのだ。
「本当にコレ、お売りになるのですが?」
「流石に風邪をひいてしまいますよ?」
「大丈夫よ。
寒さに耐える必要の無い人が着るのだから」
「それにこれを普段着として使うには勇気がいります」
「こんな動きづらい…」
「大丈夫よ。
素敵な考えを持つ方々が使って下さるのだから」
相手は王国の「貴族」じゃない。
「平民」なのだ。
王国のルールに縛られない。
そして、安ければどんな物でも着てくれる方々なのだ。
破格のお値段(捨て値)で売りに出すのだから買わない訳が無い。
新品だからね。
作らせたこっちとしても色々と「ケチった」仕様なのだから。
簡単に言ってしまえば、作業着とかなら動きを阻害しない様にする為に、
余裕をもって作る最低限の余裕を持たせる部分ですら、
もちろんそんな余裕がある所はないし、
バスクと一体化して縫い付けた革のコルセットは、
縫い付ける事を前提として完成させたから、
もしもコルセットを一体化させたバスクから外してしまえばスッケスケとなり、
着れたもんじゃなくなるのだ。
もちろんスカートとパニエを一体化した部分も同じような妥協を盛り込んである。
キラキラと輝く袖口の部分はガラスの破片を細かく砕いた物を、
ガーゼの様な布に挟み込ませ、その裏側は使えない革を張り付けて、
一応肌は傷つかない様に作ったのだ。
一見キラキラと光を乱反射して綺麗なのでとても素敵な仕上がり…
に見えるだけの少なくともファルスティンの領民には着せたくない物がここに、
完成したのだ。
「正直、袖を通す人が可哀そうになります」
「これでは数回使っただけでもう着られなくなるかと」
「それで良いのよ。
だって、ファルスティンで使う物ではないのだから」
デザイナーさんと針子さんは量産が可能なドレスをみて、
ああ、そう言う事と納得してくれたみたいで。
それ以上作り上げた「モノ」の酷さについて何か言う事は無かったのである。
ある程度数が揃うまでに時間がかかると思ったのだけど、
叔父様はミシンまでしっかりと製作してくれていたのだった。
大まかなな部分と細分化されたやり方を組み立ててあげれば、
ドレスと言えども複雑な縫いは必要が無いのだ。
重ね縫いとかもしなくて良いし細かい所を手縫いにする程度で作られる、
デザイン性を最低限にして作り上げたドレスはどれも、
楽しいくらいに簡単に出来上がってしまうのだった。
生地の裁断もプレス機を使った事で何百枚と言う数を、
それっぽい形に切れるし、機械が介入している事によって、
この世界では信じられない規模のスピードで出来上がって行くのだ。
作り易さと「適当でよい」という指示の下作られた素敵なドレス達は、
オースヴァインの平民達に売りつけられるべくファルスティンから、
大量に出荷されたのだった。
もちろん平民達に買える「ドレス」は大好評だった事は言うまでもない。
それを皮切りに、ドレスに合わせる少々価格が高めのレースをオプションで、
別体販売してあげればそれも飛ぶように売れたみたいだった。
王国の服飾関係は更に発展していく事になる。
仮初の「美しいドレス」を身に纏った平民の女性の登場は、
王国に衝撃をもたらしたのだった。
そう…
新しい伝統ではない「形」をしたドレスが王国に流通してしまった事は、
王国にとって服飾のピラミッドが崩れた事を意味するのだから。
高貴な者が着たドレスを褒美として配下の貴族に流される。
そしてその配下のドレスはまた下の配下へと下へ下へと流れていくのだ。
だから最後はバラバラにばらされて、
この時代ならではのリサイクルとなる訳だけれど。
平民は「ドレス」を着られない事がこの王国の常識だったのだ。
その平民が自分達より「見かけ」は良いドレスを身に纏っていた場合、
どうなるのでしょうね?
貴族は「伝統」に抗ってくれるのかしら?
「伝統」があるからそれに即したドレスしか着られない「下級貴族」は、
それだけ平民との距離も近い。
みすぼらしい衣服を着る事しか許されない「伝統の衣服」を着続ける「貴族」
良い格好に見える「衣服」を身に纏う「平民」
その一場面だけ切り取れば立場が逆転している様に見えるでしょうね。
厳しい階級社会だからこそ逃げられない「貴族」と言う立場の人間は、
果たして貴族として振舞い続けられるのか…
そのプライドを保ち続けられるのか…
そして平民の特に女性は知ってしまった。
仮初とはいえ「豊かさ」を示せる「おしゃれ」をする、
楽しさをまた捨てる事が出来るのか。
豊かとなったと錯覚した「貴族」は領地で増税をするかもしれないわね。
けれど、みすぼらしい古着より新品のドレスの方が安いと言う、
ねじ曲がった価格設定なのだ。
捨て値で販売される狂ったドレスが売れない訳が無い。
生活が苦しくなれば苦しくなるほど、派手なドレスしか買えなくなるという、
逆転現象を引き起こせる価格で作る様にしたのだ。
満たされる衣類と足りなくなった食料で、
王国は更に愉快な事になるのでしょうね。
とても面白い事になりそうで楽しみだ。
それから数か月後案の定、王国は混乱が巻き起こる。
それは偽りの豊かさを本物の豊かさと勘違いした貴族達の、
大増税とそれを元にした高価格になった食料の奪い合いを、
王国内で巻き起こす事になる。
王国内は混乱せざるを得なかった。
物の価格が安定せず食料価格は高止まりする。
諸外国に向ける監視の目も緩まずにはいられなかった。
それはもろにファルスティンの監視をしている、
隣接している貴族の領地の足元を揺るがす事になるのだった。
王国はここ数年間順調すぎるほどに繁栄している。
何も心配する事は無い。
そう勘違いし切れるほど王国貴族の目には領地の素晴らしい発展が、
眼に写っているのである。
叔父様が作り上げた偽りの豊かさは、
私の手によって更に磨きをかけられた。
それは王国貴族に隠れた現実を直視させない様に、
いまだじわりじわりと進んでいるのだからたまらない。
王国の平民の生活は「綺麗なドレス」を身に纏った女性が笑顔で歩き回る、
豊かな国としてより強固に見える様になったのである。
その裏で食料が枯渇しかけている事に気付いている人もいるけれど、
色とりどりの衣服に身を包んだ人々の暮らす「豊かさ」を見せつける街並みは、
王国の不都合な現実を綺麗に隠してしまっていたのである。
その不都合さは町に品物を納入している農村の苦しさと言う形で現れ…
その「不都合な現実」は貴族の「魔法」によって、
綺麗に消し飛ばされたのである。
オースヴァイン王国は今日も繁栄を謳歌し続ける。
現在叔父様は補給が完了してまた別の場所へと順調に航海中…
あまりにも順調すぎてアリア叔母様も退屈気味…
もしかしたらギネヴィアに年の離れた妹が出来るかもしれない?
貞操帯は冗談の計画でしたが人を育てる為に、
エルゼリアは廃材を使って「綺麗なドレス」を作り上げてしまいました。
それは予定通り王国内にばらまかれ王国は更に繁栄したのでした。
ただし確実に「平民」の着たドレスはオースヴァインの作り上げた、
「伝統」にダメージを与えています。
そして国内の内部事情は確実に悪化して貴族の交戦意志を鈍らせています。
「王国の乙女の一大事」で高位貴族に。
今回の「平民のドレス」で下位貴族に確実にダメージを与えてしまっています。
高位の貴族はファルスティンをどうになしなくてはと、
傾きかけていますが「王国の乙女の一大事」の所為で、
ファルスティンの「現実」を知ってしまった貴族は確実に削られます。
その事を理解しているから簡単に手が出せなくなりつつまります。
時間がファルスティンに味方しているのです。
偽りの豊かさを何年もの間王国は見せ続けられました。
現実に戻りたくとも「甘い夢」から覚める事は嫌なのでした。
王国の配下の貴族はその力を奪われ始めました。
奪われている事に気付いていないかもしれませんが。
それでも徐々に漏れ聞こえるファルスティンの真実は脅威ですが、
脅威だとしても今は戦わずに、
権益や技術だけ奪い取る事だけで済ませたいと思っているし、
それが何時でもできると勘違いしているので王国はまだ動かないのです。
現在国家の規模からすれば50対50でファルスティンは、
負けませんが勝てません。
ですが、今回のエルゼリアの嫌がらせとアネスの防衛機構が完成すれば、
オースヴァインに対しては有利に戦えるでしょう。
しかしオースヴァインが守っている国境線と隣接する隣国を考えれば、
王国の対処次第で色々な状況に陥ります。
それを嫌ってファルスティン側から戦端を開く準備は出来ません。
あとは叔父様が持ち帰る情報次第でしょうか。




