領都の発展は私の知らない所で進んでいて…
次回の更新は明日の20時です。
ファルスティンの領都は思いの外狭い。
王国の王都を大都市とするのであれば、
ファルスティンのその広さは大きく見積もっても2/3程度。
中規模都市程度の広がりしかないのだ。
けれどその狭さと反比例するように今や王都並みかそれ以上の人口を、
その領都には抱え込んでいるのだからその密度は、
王都に比べれば信じられないほど高い。
理由は簡単で寒冷地であるためでもあるのだけれどファルスティンの領都は、
領主の屋敷を中心に熱を逃がさない様に行き渡らせる様に作り上げたからだ。
それを中心として作られた領都は綿密に絡み合うルートを作り出し、
都市の中核機能をコンパクトに纏め上げると事を目的として叔父様による、
強制的な技術のテコ入れの成果の果てに出来上がった、
いわば行き当たりばったりの拡張と修正の賜物で出来上がった、
奇跡の都市だったのだ。
ギリギリの際どい発達を遂げたファルスティンはつまるところ、
平面には広がらず縦方向に伸びてしまっていたのだから仕方がない。
その為の土木建築技術が強引に導入されたのだから多層構造をメインとして、
発展をつづけた領都は中心の領主の屋敷(城)を中心に、
強固な要塞化を成し遂げてしまっている上に、
拡張と修正を加え続けた結果、楽しいくらいに迷路の様に入り組んだのだから、
順路を知らない侵入者には侵攻を困難にして一部の階層の地面の部分は、
崩落させる事によって防衛側を有利にする素晴らしい場所さえある。
戦いになれば防衛側有利に働きはめっぽう強い持久戦を、
行う事が出来る様になってしまっていたのだ。
…結果的にだけれどね。
領主の屋敷を囲むように対魔法妨害用兵器が常時稼働している事から、
パーソナルナンバー?に登録が済んでいない者はその魔法妨害増装置によって、
大掛かりな術式は勿論発動する事を許さない。
攻め入るには「レベルを上げて物理で殴る」事をしなければいけない上に、
半要塞化した街並みは領民の強すぎる団結意識と自主防衛の高さから、
各所に設けられた扉を閉じられれば、それはそれは更なる困難が、
攻める側にはもたらされる事になる。
天然の防衛要塞都市と言うコンセプトはともかく発展し続ける領都の、
建設物をより高い方向に向かわせる事になってしまっていたのだった。
最長の建設物の高さは3階だったのか5階へと変更されたのは、
もともと5階建てに耐えうる構造で基礎を計算していたのにほかならず。
領都の成長と言う意味ではまだまだ余力を、
残しているっている事でもあったのだった。
とはいえ、高層階の暖気と言う意味で真冬は使う事が許されないから、
その用途は限られる事になるのではあるが。
不思議な物で上に伸びなければ下には伸びていき、
領都の最下層を示すエリアは地下4階にまで伸び、領民が暮らすエリアは、
地下3階までで、地下4階となるとそこは、都市のインフラ用の蒸気用パイプが、
縦横無尽に走り回り都市全体を一定の温度に保つための暖気用パイプから、
家庭内で使われる、小規模暖房器具と、キッチン用の蒸気コンロ等果ては、
謎原理で光る室内灯を点灯させる小型の蒸気タービンを回転させる為の、小型、
蒸気パイプまで通っているのだった。
領都のエネルギーラインと言う意味では蒸気が主流となり、
全ての家庭機器の動力源は蒸気機関で動いているのだから、
その生活風景はスチームパンクに相応しい世界となってしまっていた。
叔父様は電気と集積回路を直ぐに作れないと見切りを付けて、
別の方面で歪んだ?技術の発展をさせていったという事なのだろう。
ローテクな?ハイテク都市となってしまった領都は、
それでも発展が止まらなかったのだから、
叔父様の選択は間違いではなかったのだろう。
馬車から流れるその風景はそれを物語っていて、建物の武骨さはさておき、
強化発展の度合いを馬車の窓から見るのは楽しかったのだった。
けれど思うのだ。
前世持ちの私はこの発展の仕方にいつかは限界を迎え、
蒸気機関から別のエネルギー革命が待っているのではないかと。
そうするとファルスティンの正気文明は、
一気に陳腐化するような気がして次代に取り残されて怖くなるのだ。
「ねえギネヴィア、アルフィン?
領都ライセラスの開発は長くても数年で頭打ちになるのかしら?
それともその後にもまだ続く予定はあるの?」
人口の増加を支え続けている領都の発展が直ぐに終わらない事は、
理解しているけれど、それ以上に新技術の導入を考えているのかって事が、
頭の片隅で引っかかっていたのだ。
どんなにあらがっても新しいエネルギー機関が生まれてくれば、
インフラのシフトは行わなくてはいけない。
叔父様が高速で文明を進めた結果は自ずと、
投資しすぎたインフラが使い切られる前に新しいインフラの整備を、
始めなくてはいけないとなると、都市エルゼリアの基本インフラの整備は、
そこそこに新しいインフラの登場を待つべきなのかもしれないとふと、
思ってしまったのだ。
次代の節目技術の切り替わりを受け入れる土壌を作っていくべきなのかとも、
ちょっと考えてしまっていた。
「いいえ。領都の開発計画は通常建設階層が5階となる増築改修工事が、
終わったら次は、エネルギープラント(地熱発電関連)の増強を行って、
領都の人口増加のペースに対応する予定のはずよ。
地下4階の大掛かりな改装工事も入るでしょうし、
それで安定してきたら区画の修正をしてそれで一段落かしら?」
「ええ義父上がそれで領都は安定期に入れるはずで、
その間に技術を高めると仰っていましたね」
私としては蒸気機関が発展してもそのうちに内燃機関の発達が始まって、
動力源として蒸気機関が無くなる方向に向かうかもしれないと考えていた。
あくまで産業革命の初期であり最終的には蒸気より別の物をエネルギー源として、
シフトさせていくのではないのかって思ったのだ。
「現在の都市のエネルギーは「蒸気」だけれど、
それに代わるエネルギーが現れると思う?」
「既に電気を主エネルギーとして次代は羽搏くかもしれないけど・・・
それは十数年単位で来ないでしょうね」
「エネルギー革命は当分後の話になるでしょうね。
形になってしまいましたから」
「形?」
「そうよ、エルゼリアはあまりこっち(技術)の世界の事に深く関わる必要が、
無いから知っている必要はないけれど「大物」を蒸気で。
小物は「魔力」と「蒸気」の混合で事足りる事が多くてね。
物を作るのに必要とされる大きさと汎用性はもう手に入れているのよ。
今は効率化を上げる段階だから「安定」しているわ。
急激な変化を必要としなくなったの」
「ああ、そういう…」
ファンタジーの魔法はあくまで「攻撃」や「防御」といった、
いわゆる「お約束」の為の世界のエッセンス程度にしか私は考えていなかった。
けれどゼファード叔父様やその周囲のギネヴィアやアルフィンにとっては、
魔法はエネルギー源であって、動力源として価値のある物という事なのだ。
ギネヴィアはそれを当然と思いあまり深く考えていないみたいで、
今の蒸気関連の効率化と使う用途を増やしていくって事なのだろう。
確かに蒸気機関なら炎魔法で火を作り出して、水魔法で水を溜めれば、
蒸気機関は動かせるのだから。魔石に発動印を刻み込んで熱を発生させれば、
無公害な石炭とも出来るしね。
「エネルギーシフトは出来ない事は無いけれど、
お父様が言っていたわ「レアメタル」が足りないそうよ。
私達にはそれが「何なのか」解らないから何とも言えないけれど、
無い材料を補い続けるのは無理だし、なにより私の知らない施設?
「クリーンルーム」とか「半導体」とか良く解らない物が、
大量に必要とならしいわ。
「真空管」は作れるけどアレを大量に使う位なら「解析機関」の方が、
扱いやすいのだそうよ」
技術の根幹にあたる基礎の基礎の部分を叔父様が選んだ結果、
ゼファード叔父さまは蒸気文明の高度化を選んだって事なのだろう。
話の半分は理解出来なかったけれどそれでも、まだまだこの蒸気文明は、
終わらないらしい。
「都市インフラは少なくとも私達の代では変われないでしょう。
「私達」は変える気がないし、
また基礎の再構築をしていては次が作れませんから」
アルフィンもまた付け加える様に言ってきたのだった。
そう現在の世界の先端で技術を作り続けているの組織のトップが、
新しいインフラを構築する為の研究をしないと言うのであれば、
蒸気を使った基本的な生活環境は当分の間変わらないのだろう。
「義父上の残した「課題」が頭が痛いほど多すぎますしね」
軽く笑いながらそう答えてくれるのだが、
叔父様はどれだけの難題をアルフィンとギネヴィアに与えているのか、
ちょっと怖くて聞けなかったのだった。
この摩訶不思議な蒸気機関で支えられた領都は、
きっと姿を変える事はほとんど無いのだろう。
そうなると都市エルゼリアの中心に作られる動力関連はその発展形を
ベースとするしかないが、果たしてどうなる事やら。
技術の事は技術畑の人に任せて私は私のやるべきことを作り上げるだけ。
「先」を知っているからその事に備えて準備しておく事も重要だけれど、
オースヴァインとの戦いが近づいてきている現状、
シェルターとしても機能が求められる事になった都市エルゼリアには、
最先端を確保した上「未来への準備」までしている余裕はなさそうだった。




