事態は私が考えているよりもきな臭い方向に進んでいるのかも
次回の更新は明日の20時です。
「それでお兄様は、私の意志を聞いてこれからどう対処なさるのですか」
「基本決めていた方針は変えない。
向こうが「譲歩しろ」と先に「攻撃」を仕掛けてきたのだ。
もう、友好的に接する必要はあるまい」
「そうですね」
私としてはまだまだ準備期間のつもりではいたのだけれど、
それを差し引いても王国は私に物理的な攻撃を考えているのだ。
こちらも容赦する必要はないという事なのかもれない。
「初めは前線を押し上げてやるつもりだ。
父上が誤射しない為にも」
それは簡単に言えばこの食糧危機を利用して王国に対する、
ファルスティンの為の盾を作ると言う意味だった。
言うなれば王都を中心に形成されている王国の忠犬と同じ様に、
その王国の忠犬とファルスティンの間に一枚の防衛ラインを引く。
現状は此方に味方しなくても良いのだ。
敵にさえならなければ。
このまま戦争に突入すれば、
楽しい殺し合い(遠距離からの一方的な砲撃)が始まる事は当然。
王国としても最終的には実力行使に出る理由をさがすだろうし。
けれど侵攻される側としては自身の領地を蹂躙されるまで、
待つ必要はないしタダで殴られるのは癪であるって事みたいだった。
「ゼファード殿の・投射兵器は異常だ。
その性能を使わないのはもったいないとも思ってもいる。
少なくとも王国の考えている「魔法と戦争」の形も、
変わってしまうだろうからね。
王国に突き付ける剣は大いに越した事は無いからな。
小麦のラベルを張り替えて恩を売るのは別に「オースヴァイン」と言う、
名でなくともよいと思わないか?」
義姉様の方を見ながら言って来るお兄様のその言葉の意味には、
ルクレインへ大量に小麦を支援してそこを起点に、
食料を通して周囲の領地を懐柔して行くつもりなのだと。
けれど、それでは矢面に立つのは義姉様の実家であるルクレイン領。
私達の戦いの真っただ中に置かれる事になる。
それでもかまわないとでも言うのだろうか?
いくらお姉さまの実家と言えど今は王国側ではないのだろうか。
「義姉様はそれでも宜しいのですか?」
「既に私の実家であるルクレインはファルスティンに付いているのですよ。
王国から適切な距離を置いていますから大丈夫なのです。
むしろファルスティン側に付かない理由がありません。
「王国」を見限っている貴族と言うのは案外辺境には多いのですよ。
ただ、王国を見限ったとして、その先が無いからただ現状を維持しているだけ。
ライセラスが北の盟主として立ち、
本気で王国と戦うのであれば協力を惜しまない…
いいえ、惜しめないでしょうね」
冷静にニコニコしながらそう話す義姉様は慌てない。
ファルスティンの味方になる事は無いかも知れないけれど、
敵として王国の先兵となって戦いを挑んでくる貴族領地は思いの外少ないらしい。
長年の歪みの蓄積なのか貴族達は自分達の領地を守る事に固執する方向に、
動いてしまっているみたいだった。
口では王国の為に団結すると言っても、
その先に王家と協調して派兵できるかどうかは別の問題であって、
そもそも構造的に限界が近い王国の何処に軍を動かせる余力があるのかって、
現実的な問題があるのだそうだ。
現に王国は隣国に隣接する辺境の領に対して支援をほとんどしていない。
王国を守っているのは現実を知り血なまぐさいいざこざをやり続けている、
辺境の領主達だ。
彼等は外敵に戦争にならないいざこざを受け続けている。
それは言い変えればこちらからは絶対に手を出せない。
侵入者を見つけては自分自身の領地内で、
迎撃戦をつづけていると言う事でもある。
それは田畑を犠牲にする戦いでもあるのだ。
敵が浸透して来てどこから現れるか解らない以上戦う場所は選べない。
どんなに大切な穀物を育てていてもそれを守る事は叶わないのだ。
収穫時期を狙われれば被害は甚大であり、領地の運営にも支障をきたす。
それでも王家は動かない。
浸透圧が強くなって手遅れになる寸前まではぎりっぎりまで何もしないのだ。
我が国の辺境は強い。貴族としての誇りもある。
だからそう簡単に弱音は吐けないし吐かないのが当然なのだ。
そうやって王家は突き放すだけ突き放して、辺境を守る貴族の領地が、
荒らされつくし全てを出し切って死ぬまで支援しないのだ。
領主の一族が絶滅し荒らされつくした後に新たに貴族を任命して、
土地を綺麗にする所まで一掃して新しく領民を呼び込み、
領地を再生するのだ。
そこから始まる新しい貴族と新しい領民の領地生活。
けれどそれがいつまで続けらるのかは外敵の進行度合いが大きい。
王家は国を領地は見捨てない。
けれどそこに住まう「領民」も「貴族」も助けたりはしないのだ。
だからこそ領主となった貴族は高貴な伝統なんてかなぐり捨てて、
生きぎたなくとも領地を守る事を信条として領地を運営するのだた。
それが正しいかどうかなんてどうでも良い。
学園でいくら「正義」を教えられても辺境で役に立たない理由がそこにある。
けれどどんなにもがき苦しんでも辺境の現実を知る、
領主と貴族のこの構造は変えられない。
変えられると言うより逃げられるとすれば、
それは上位貴族と懇意になって貢物をしまくり辺境の一領主から、
上位貴族として引き上げて貰い領地を交換するしかないのだ。
けどそんな方法はまずありえない。
そもそもギリギリの防衛線を行っている辺境の領地に賄賂を贈れるだけの、
稼ぎを作り出す事は不可能だ。
その辺り、ファルスティンは叔父様という反則染みた存在がいたから、
どうにかなってしまったけれど、そこでファルスティンを捨てて新しく、
中央に行くと言う判断を良しとしなかったのは、やはりゴミ溜めとして、
扱われ続けたからって言う所もあると思う。
アネスお父様は、王国にしがみ付くという選択肢が無かったから、
ゼファード叔父様も楽しく領地を発展させる事ができたのだろう。
ファルスティンを頼らせなかった事が今の自立に導いたと思えば、
王国も役に立ったと言えたのかもしれない。
「既に私達はまだ勝てないが負けない所まで来ている。
父上と叔父上の悪戯で王国の台所事情は、
思いの外苦しい事にできそうなのだからな」
たかが小麦。
されど小麦。
食べなければ死んでしまう王国国民は中央から離れれば離れるほど台所事情は、
苦しくなる事が明確だった。
その上、食糧事情が回復していた(ファルスティンの食糧支援)状態は、
数年単位で続いていたのだ。国内の食料生産状況は明らかに悪化している。
その上で安く買える小麦の供給が断たれるとなると、
その経済的苦しさは測りしれない。
農業大臣の功績となった虚偽の報告で調査さえしなかった王国の、
穴の開いた貯水槽となったバケツの中身の状態は思いの外深刻だったのだ。




