今更前提を覆そうと動かれても遅いのよね
次回の更新は明日の20時です。
それが、積んでいない状況にできる方法が一つだけある。
それを実行する為の手紙が第2王子殿下から届いた理解不能な内容なのだ。
その2通目の手紙の意味はいたって単純。
愛しあう二人を邪魔するライセラスを説得するお手紙なのだ。
このお手紙の私と第2王子殿下が愛し合っている事なんて真意は、
どうでも良く、ただ王家はエルゼリアを王都へ連れて行きたいのだ。
何故かって?
それは当然ボルフォードが果たさなかった事をやる為だ。
―エルゼリアはファルスティンに言う事を聞かせる人質として―
―王都の第2王子の宮殿へ連れて行かれる事になる―
そこで待っているのはもちろん、愛し合う二人の幸せな生活なんかではなく、
おそらく宮殿の自室から死ぬまで出して貰えない監禁生活。
もちろん無理にでも「生かされる」だけの生ける屍となる生活が私を待っている。
手紙にも書いてあったけれど「宮殿に迎え入れる準備」とはそのまま、
私を「宮殿に監禁する準備ができた」って事に他ならない。
あの手紙はド直球で書けない事を、
恋文風にして誰に読まれても良いように色付けされた物で。
着色を消せば
―エルゼリアを人質として差し出せ―
―こちらはエルゼリアを飼う準備が出来た―
―さっさと諦めて、王国の言う事を聞け―
―引き渡しを確実にするためにエルゼリアに準備をさせて逃がすなよ。―
―お前らじゃエルゼリアを逃がしそうだから―
―受け取りに行くからな―
―準備が出来たら手紙を寄こせ―
なのである。
うへぇ…
言葉も出ない
「この2通は私に届いた脅迫状と捉えれば何ら問題はない。
あくまで私と王子達との「貴族としてのやり取りの範疇なのだ。
だから、私にとっても「想定内」だった…
お前に届いた3通目の内容を知るまではな…」
そう。
私に届いた3通目の手紙の内容の所為で、
お兄様のやり取りは一気にやばい物となるのだった。
あの第2王子から届いた「食料を支援してやる」と言う内容の手紙。
そして「話し合おうと言う」提案。
「私と第2王子が愛を確かめ合う良い機会」と主張する。
最後に「王族の力を見せつけられる」という脅迫なのだ。
これは言い変えればとんでもない手紙だったという事だ。
―僅かな小麦と引き換えにエルゼリアを売り渡せ―
―話し合いが終わり次第、王都に連れ帰るから準備しておけ―
と言う手紙になるのだそうだ。
ファルスティンは別に食料危機などではない。
けれど事実や真実なんて王国にはどうでも良いのだ。
王国が公式に発表した事が正しい事であり物理的に残された、
王太子と第2王子の書いた手紙が証拠となり、後の「正しい事実」となる。
私を何としてでも王都の自分の離宮に連れて帰り人質として生かし続ける。
そう言う手紙であって第2王子殿下は話合いに来るのではなく、
私を無理矢理にでも連れ去りに来るのである。
つまるところ私が愛されていようが何だろうかどうでも良い。
王族との会談だから断れない上にその会談会場は、
「愛し合う二人の密会の場」と二人きりになれさえすれば、
後は男女の体格さを利用して、
私に首輪でもなんでも嵌めてしまえば良いと考えているのではないかと。
後は私を人質にしてファルスティンから脱出すれば案外私の誘拐なんて、
簡単に行えるとでも思っていそうだった。
無理矢理連れてい行かれようが何だろうが、王都に戻って離宮に連れ込まれれば、
もう私の意見や声は外に漏らさない。
王国は私を王都に連れて帰った後こう宣言するのだ。
私はファルスティンに監禁され、ライセラス・ファルスティン伯爵閣下に、
結婚を反対されて愛しい王子様の所にいけない悲劇にヒロイン。
そう言う事にされてしまうのだそうだ。
あとは離宮で「大切に扱った事」にすれば民衆は納得してくれて、
王子との良縁である結婚を容認しなかった、
ライセラス・ファルスティン伯爵閣下は悪魔のような男なのだ。
その悪魔のような領地であるファルスティンから、
愛しいエルゼリアを救い出した第2王子殿下は素晴らしいお方なのだ。
と、噂をばら撒けばファルスティンの評価はそのままで正義の王国は、
これから無償で甘い汁が枯れるまでファルスティンから搾り取るだろう。
「これで解ったと思うが、おまえを人質にファルスティンから、
無限に搾り取れるだけ搾り取るつもりなのだろうな」
「考えが浅はかすぎますが…」
「使える「物」が、もう残り少ないのだろうさ。
だから、タダで使える所から搾り取ろうとしているのだろう。
もちろん「食料危機」ではあると思うが…、
奴等にとって食糧不足は大した事じゃないからな」
そう、王国にとって食糧不足など取るに足りない事なのだ。
だって苦しむのは平民であって贅を凝らした生活を送っている貴族達の、
生活になんら支障をきたさない。
「食料を求めての反乱」を平民が起こしたとしても別に気にする必要が無いのだ。
豊かな生活を送るのならその経済基盤を支える「平民」は必要なのだけれど、
ただの生活を送るのであれば「魔法」が使える貴族は「平民」に対して、
何処までも残酷に徹すれば良いだけなのだ。
王国貴族の横の繋がりは強い。
それは反乱を起こされたとしても、
その横の繋がりである「貴族同士の関係」さえ残っていれば、
数千人の平民がいくら集まろうとも一方的な虐殺が出来るからだ。
もちろん魔封じの魔石がある所ではその力は使えないが、
動物を狩って食べるという極めて原始的な生活を送るのであれば、
魔法を使える「貴族」は一人でどこまでも生きていけるのだ。
王国は貴族に優しく「平民」が素直に生きるには厳しい国なのである。
奴隷の様に休みなくあくせく働き続けて死ぬまで酷使される様な、
生活を送っている人々がいるからこそ、
産業革命前の中世ヨーロッパの文明レベルで貴族は「現代生活」並みの、
豊かさの中で暮らしていけて「乙女ゲーム」の、
非常識な貴族社会が残りながら「現代風」の生活感で生活できる「学園」が、
この世界に存在する事が許されたのだ。
あの学園があったからオースヴァイン王国が歪んだのか、
オースヴァイン王国が歪んだらあの学園が出来たのか解らないけれど、
乙女ゲームの不可思議な論理を押し通した弊害は、
何処までも広がって言っているって事だった。
ライセラスお兄様は深いため息を付きながらグラファイスの方を見た。
当然いままのでの話を聞けば、信じられないほど私の周囲の安全には、
気を使わなければならない事になる。
「お前の抱える計画を全て止めてでも1~2年は、
屋敷の中で静かに暮らしていた方が良いかもしれないと考えている」
「王国の動きが確定するまでですか?」
「そうだ、下手に動いて色々とこざかしい手を使われるより、
この屋敷の中で過ごした方が安全で、なにより父上も安心するだろう」
「それは、そうかもしれませんが…」
確かにその通りなのだろう。
けれど停滞は、王国の技術の追い上げを意味する。
動き出してしまえば、突き放す速度で走り続ける事が出来るけれど…
一度止まってしまったらまた動き出すのに何日かかるのか解らない。
それを考えれば止まって安全を確保し続けるのも愚策に思えてくる。
私は焦っているつもりは無いけれど遅くとも、少しずつでも進んでいないと、
落ち着けない様な気もするのだ。
ギネヴィアが言っていた20年は追いつけないという言葉。
この時代において20年と言う時間は果てしなく遠い時間だ。
けれど果てしなく遠かったとしても「魔法」という反則がある以上、
その20年を覆せるかもしれないと言う考えも捨てられない。
安全か、発展か…
けれどどんなに悩んだ所で答えは出ない事なのだ。




