お兄様は王国の思い通りには動かない。
次回の更新は明日の20時です。
認めて権限を渡したと言っても、命令する権利は王国が所持し続けている。
未だファルスティンの扱いは王国の「一領地」と言う、
「立場」が王国内もで王族内でも確立しているという事なのだ。
ファルスティンは領地を「国家」として運営する権限は手に入れた。
もちろん将来的には独立する力を手に入れる事が出来る。
けれどそれを行使する権限を手に入れても「王国」は上位者なのだから、
ファルスティンを従わせる「権利」を王国は放棄した訳じゃない。
だから「王国」からの「命令」には従う義務がある。
たとえどんな理不尽な命令であっても従えと。
いわゆる立場の確認とも言える上下関係をこの王太子とお兄様の間で、
決定したいという意味も込められていそうだとの事だった。
けれど、結果なんてもう出ているのだ。
王国の命令にファルスティンの代表者となったライセラス・ファルスティンは、
素直に従うのかなんて既にありえない。
これ以上不利益な事はないしお兄様としても次代の者となる人々の教育は、
全て領内で行う様にするつもりなのだ。
だって既に開きすぎてしまった経済構造に今更王国の教育機関で、
学ばせる意味がない。
奴隷として頭を地に擦り付けて、
「王国の貴族様方私達ファルスティンの民を飼って下さいお願いします」
なんて状況を作り出す教育を次代の者に受けさせる意味もない。
教育と言う意味では、ファルスティンの中核を担う人物となるなら、
きっとリラーナやリリーの様なゼフィラの一族に教えて貰う方が、
数万倍も未来のファルスティンの為になる。
もはや王国そのものがファルスティンとしては不要になりつつあるのだが。
いや必要とされていないと分かっているかこそなのか…
「だが国王と王太子はそれでファルスティンが動かない事を理解している」
「そう、ですよね?既に王国との分断は始めていますから」
「そこで2通目の第2王子殿下からの手紙という事になる」
だから2通目の手紙が必要となるのだとお兄様は話し始めた。
1通目の手紙を真実であり事実であると認めさせたい王国は勿論、
一通目の王太子の手紙に「実行力」を持たせたいに決まっているのだ。
そうすると始めから目を付けられていたのが「私」と言う事だった。
ファルスティンからボルフォードへ私が嫁いでいたのなら、
この2通目の手紙は要らなかったらしい。
順調に時が流れ私がボルフォードへ嫁がされればそれをとっかかりに、
王国はファルスティンに対して命令できるという事だった。
それはボルフォード家にてどんなに力を手に入れてもその上では、
王家がボルフォード家に負荷を与え続けるという宣言に他ならない。
「それでも「今」のお前を見ていると、
ボルフォードとの関係を調整しながら、ファルスティンとの折り合いを付けて、
王国との関係を持ちこたえさせ続けそうで別の意味で怖いのだが…
父上は絶対にお前を見捨てられない。
ボルフォード家をどうにかする勝算はあったのだろう?」
「ええ、そうですね。ダメならダメなりにどうにかするつもりでした」
私には理解不能だったけれど王国にとってボルフォード家は面白いくらい、
利用価値がありそうだった。
王国の「伝統」の服飾関連を牛耳っていたのだから、
いくらでもボルフォード家を変化させようはあった。
もちろんボルフォード家のカーディルの母、
現夫人であるエディルネ・ボルフォードは最大級に抵抗するだろうけれど、
時間は私に味方するし、なにより周囲との折り合いに服飾関連の下地があれば、
叔父様の作り上げた「機械」を扱う下地は出来たのだ。
服飾をベースとしながらも機械産業の雛形を芽吹かせる土台が
「ボルフォード」には確かにある。
決して自暴自棄になる必要はないと…
前世持ち以前に「ゼファード・バルダー」を見て来た私には考えられたのだ。
ボルフォード家を足掛かりに確かな産業の基盤を作り上げる事が出来たなら、
そこから世界と戦える準備だって出来る。
私が今ファルスティン内でやろうとしている事をボルフォード内で行えば、
産業発展の起点がファルスティンからボルフォードに変わるだけ。
後は利権を調整しつつ王国内に「鉄馬」のレールを伸ばして貰えば、
人の流れをコントロールして「オースヴァイン王国での流通を抑える」
重工業である鉄馬の管理はファルスティンにしか出来ないから、
その時点で現在王国の持つ経済的な利権は、
新たな経済構造によって作られる利権によって意味の無い物とされ、
経済発展に乗り遅れた貴族は一気に王国内で淘汰される事になる。
私の体を矯正しまくって「美しい物」に仕上げたボルフォードが、
私を利用せずにお飾りにしたまま飼い殺しにするなんて事はありえないけれど。
私はファルスティンに支援を要請するし、
お父様もきっとそれに惜しみなく答えてくれる。
ボルフォードとファルスティンの強いつながりが出来れば、
王国はニコニコしながらボルフォードに多額の支援を要請してくるだろうし。
服飾関係で王家と黒い蜜月関係だったボルフォードはそれが怖くて、
王家の言いなりになるしかない。
ボルフォード一領地で抱えきれなくなった「支援」ほ補填する為に、
私がファルスティンに支援を要請する事になる。
私がカーディルとの間に子供を産んでいたら王国は効率的に支援させられる。
素晴らしい隷属関係が出来上がっていた訳だ。
…だとしてもその関係は長く続かなかったと思うけれど。
お父様は確実に王国を「削りに来る」でしょうからね。
時間がたてばたつほど叔父様の作り上げた産業と兵器は王国に、
牙を剥くでしょうから15年位時間をかけてもう1世代進んだら、
王国には何もできない状態にしてしまうでしょう。
もちろん王国はファルスティンが与えてくれる経済的利点を断る事も出来る。
ボルフォードもファルスティンから嫁がされる時、
お父様達に持たされる事になる「産業機械」を使わなくたって良い。
けれど、そうなれば今度こそ本当に王国は、
ファルスティンの育てている経済圏から一瞬で切り離されるのだ。
そうなればファルスティンはもう王国の一領地ではいられない。
私がいたとしても王国と付き合う意味が無くなってしまうからね。
王国から求められる「支援」を上回る速度で成長し始めて、
独立して北の大国として活動を始められてしまう。
王国は現在だって国際的な交通の要所を抑える形となりながら国土を守っている。
隣接する国に対して、虚勢を張りながら見せ掛けの軍を見せびらかせて、
無茶な防衛線を張り続けている。
既に見せかけの軍ですら重荷なのに「戦争にならない」小競り合いが、
もう一つ出来てしまうのだ。
戦闘を起こす事に躊躇いを持たないファルスティンとの国境にある、
あの魔改造された砦に対峙する様に王国の兵士が配備されれば、
王国は多大に兵士達を消耗する小競り合いに付き合わされ続ける事になる。
アネスお父様の「今」の動きを見ていれば「演習による不本意な誤射」が、
砦の近くで起きる事は確実だし耐えられなくなって発狂して突撃してくる、
貴族もきっと出てくる。
それはそれで外交的にも追い詰められる事になる。
―伝統ある貴族の結束の強い王国が「内戦」をする訳が無い―
―戦争ではなくちょっとした小競り合いなのだ―
団結しているから外国にとって王国は「脅威」という事になっているのだ。
そう言い張り続けて国境の軍は脅威だぞと狂言を続けていくしかない。
まぁ「ちょっとした」で済む訳が無いのだが…
そこから王国は内側からファルスティンに物理的な戦力が、
削られる事になる事だけは確かで。
軍事力的にギリギリの余裕のない状態が続いている「王国」にもう一つ、
防衛ラインを抱え込める余力はない。
外交圧力に耐えられなくなり王国は内部崩壊の未来しかないのだ。
ただし私が嫁いでいた場合は、
ファルスティン王国のボルフォード領
もしくは、
ファルスティン王国オースヴァイン領
としてなら王国の一部は無傷で残るかも知れないという違いは現れる。
とはいえ後10年も経てば現在の王国の王都は「抜け殻」になる事は確かで、
最善策は大人しくファルスティンを見守る事だけなのだ。
不用意なちょっかいは確実に国の寿命を縮める事はあれど伸ばす事はない。
王国は既に積んでいるのだ。




