お兄様と王太子殿下はとっても仲良し…な訳がない。
次回の更新は明日の20時です。
手紙を読み終わって愕然としている私に対して、
お兄様は頭を抱えながら天井を見上げていた。
その間に私は手が滑って王太子と第2王子殿下から届いた大切なお手紙を、
封筒に戻さずに私が腰掛けている椅子の背凭れに並べて置いてしまったのだ。
あまりに動揺していたから仕方ないね。
しかもその位置は私の後ろに控えているリラーナとグラファイスに、
見える位置でもあったのだ。
なんでミスをしてしまったのだろう。
しまったぁ。
部外者に本当は見せてはいけない王族の特別なお手紙を、
リラーナとグラファイスの眼に入る所に置いてしまったのだぁ。
「ブフォ…」「ぐうふぅ」
二人ともお手紙を読んでしまったみたいで、
とっても楽しい「音」を出してくれたのだった。
さて、こんなふざけた手紙を送って来た王国は一体何を考えているのか、
私の予測を超えて来た事で頭がクラクラになりそうだった。
これが一国の王族の出す手紙なのかって。
破り捨てて見なかった事にしたいし、ここまで電波な事言っているのなら、
それはそれで躍らせ続ければ良いんじゃないかって考えてしまう。
「素敵なお手紙ですね…」
「あぁ、素敵かどうかは解らないが、笑ってはいられないな。
特にお前に届いた手紙と同時に此方も届いている。
3通は絡んでいると思ってよいだろう」
私の意見とは裏腹に何かに気付いてしまったお兄様は、
深い苦悩のこもった反応を見せてくれる。
ライセラス御兄さまの顔色が優れない理由は3通の手紙が、
「まとめて」届いてしまった事という意味が解らなかった。
「私の所だけに届いた手紙だったら「外交的」に対応するだけで、
良かったのだが、おまえに届いた手紙を見て、
そうも言っていられなくなってしまったな」
「それは一体どういった意味なのです?」
「狡い手ではあるが3通の手紙は「3通出した事」に、
意味を持たされていると考えているよ」
お兄様の言う事には、私とお兄さまに送られた手紙の意味は1通1通なら、
そのまま捉えているだけで問題ないそうなのだ。
事実なんてどうでも良いのだ。
王国に流れ出ていたファルスティン産の小麦を、
王国産というラベルに張り替えて配れば、高騰している小麦の価格は抑えられ、
王国内の小麦の価格は普通の価格に戻す事が出来る。
王太子としては国王から出された課題をクリアー出来て、
ファルスティンの王国内の地位の向上をさせる事が出来てファルスティンに、
恩を売れれて一石二鳥ということらしい。
「何にせよ王国最大の間違いはな…
―ファルスティンが王国内で地位を得る事を望んでいる―
そう思われている事に尽きる。
確かに王国を利用すればファルスティンは王国内で大きな立場を得られるが…」
「今更ですね」
「ああ、その通りだ。
我々が幼い時にファルスティンの評価が「それなりの物」だったのであれば、
話は変わってくるのだが、そうではないからな」
外部に依存しない内部循環型の組織の雛形は、お父様の世代で形作られて、
私達の世代では既に完成の域に達している。
心細かった人口と言う点でも、王国から沢山支援してもらった(もちろん嫌味)、
開拓者達のお陰で一気に上り調子になり、お父様世代の開拓者達が、
私やお兄様達と同じ世代なのだ。
早ければお義姉さまの様に子供を既に生んでいる人だっている。
そうやってファルスティンの開拓者となった者達は十分にこの地に、
足を付けた生活を送っている。
既に血はファルスティンに染まり王国から派遣された開拓者などではなく、
ファルスティン人となっている。
王国が毎年捨てていく「開拓者」が打ち切られても問題はないし、
王国から必要な物を何も買っていないのだ。
人も経済も全てを内側で循環させるべく心血を注いだお父様と叔父様の、
作りあげたファルスティンの構造は簡単には揺るがない。
だから無理に王国との繋がりを維持しなくとも、
ファルスティンの独立した形は崩せない。
それをお父様は国に解らせたから今、お兄様の統治するこの領地は、
独立国家並みの権限を有している。
築き上げられた強固な組織はそう簡単には揺るがない。
理不尽や不条理を押し付けてくるのなら何時だってファルスティンは戦える。
そこまで仕上がっている。
それは言い変かえれば王国からの命令を「拒否する事」が出来るのだ。
その辺りを、王国は読み間違いしている様な気がしてならないのだ。
普通の貴族であるならば「王国の中枢」からの「命令」を、
拒否する勇気はないのだ。
単純に言ってしまえば、王国はまだファルスティンに「首輪」を嵌めた気でいる。
拒否は出来るが拒否した場合、待っているのは社交界での嫌がらせと、
政で国から出して貰える「支援金」を減額されたりと。
実生活で確実に不利となる事を王国は平気でやってくる。
叔父様もお父様もそれが嫌だから、内部循環型に切り替えたのだけれど、
普通ならファルスティンが内部循環型に切り替わる事などなりえない。
国王陛下は成長したファルスティンの姿を「報告」されているはず。
けれど実際に叔父さまの作り上げた、
異常な技術革新が起こったファルスティンは見ていない。
けれど忠臣から受けた報告で侮れない存在となった事だけは理解していたはずだ。
いや、はずだったのだ。けれど、それでも「何をしても許される」という、
根底の考えは変えられなかったからこそ私の婚約破棄のタイミングで、
ボルフォードと王家の取引で最後の手綱を自ら切ったのだ。
王家は仕えられる存在であり敬われる存在なのだという所から、
王家は脱却できなかったし、王家はお父様が王国を見捨てるとは、
思えなかったのだろう。
王国にとって真実や事実は自分達の都合の良いように「変えられる物」なのだ。
まるで出来の良い映画を編集するかのように良い部分だけを切り取り、
編集した結果が今回の王太子とお兄様は仲がよかった宣言なのだ。
手紙で回りくどく書いてあるが、
「王太子とお兄様は学園では大の仲良し」
という根も葉もないなんの根拠もない事を「手紙」を一通送っただけで、
「事実だった」という事に王国内を変えてしまったのだ。
そんな現実は無かったと私達が声を大にして言った所で、
うそつきのファルスティンと言われるだけ。
王太子の手紙の提案と言う名の「命令」はとどのつまり、
「食料を支援したくてたまらないファルスティン」から食料を集めて、
その食料を差し出したいと言って来たファルスティンから仕方なく受け取って、
王家がしっかりと中身を検査して「安全な小麦だ」とお墨付きを与えて、
王家から安く小麦を全国に配る事にしたから早く小麦を送れ。
でないともっとファルスティンの扱いを酷くするぞ。
と、言う脅しを友好的な形の手紙に見せているにすぎないという事らしい。
更に言うのであれば、お父様が勝ち取った独立国家並みの権限と言うのは、
王国の傘下にいるから有効なのであって独立するとなると、
権限を与える気はないと、国家として認めるつもりもないと言う意味でもあった。




