自信作なのだろうから合格をあげたいけれど…そうもいかないわね。
次回の更新は明日の20時です。
リラーナが私に向かう様に言った場所は、もちろん絨毯の模様で作られた
中心で、そこに私が移動すれば、リラーナが直ぐにスツールを運んできて、
座りやすいように私のスカートを調えた。
それだけで「時間をかけても納得のいくものを選んで欲しい」と言う事が解る。
私の座った場所はこれから私が毎日使う事になる物も設置されていた。
その場所で効率よくお着換えが行われる為に物を置くカートも、
フィッティングルームの家具の印象に合わせて用意されていたのだ。
座った両サイドにある、アンティーク調の細かい彫刻が施されたカートの上には、
いくつもの小瓶が乗せられているが―――
上から光沢のある布を被せられていて、中身は全く解らなかったけれど、
相当な量が準備されている事だけは確かだった。
化粧用品だけでも相当な量が用意されたという事実が、ファルスティンの豊かさが
偽物でないと言う証明でもあり私は嬉しくなってくる。
「選択」する事。
つまり同一商品で「選ぶ」という行為が行える量が揃ったという事は、
これから品質の向上を目指して動いてくれる「場所」が
出来たという事なのだから。
それは私が積極的に動かなくても、ゆっくりとだけれど
確実に種は撒かれていて、成長する段階になっていると言うことなのだから。
私は次のステップを用意する段階なのかもしれない。
そして眼前に並べられた6着のドレスは、
どれも印象的で、別々の個性を持った一品へと仕上げられていた。
そのドレスに圧倒される私にリラーナは、
「どのデザイナーも「新しい」ブランドとなれる物だと思われます。
エルゼリア様が、専属とするかどうかは考えて戴かなくてはいけなせんが、
全て「王国」の「規格」は、クリアー出来る腕を持った者達だけを
この場にご用意した形となっております。
どのデザイナーを選んだとしても、
エルゼリア様を辱めるドレスは創らないと断言できると同時に、
エルゼリア様の下に置いておける者達です」
その言葉だけで、リラーナがファルスティンで育った者達だけを
選んだ事を理解した。
ボルフォードの下で修行して帰って来てから、
ファルスティンの中で新しく芽吹いた価値観で作られたドレス。
それはボルフォードの考えに捕らわれない形の、
ドレスを作れると言う証明でもあるのだ。
ここにいるのは次世代のデザイナー達だって事だった。
目の前に置かれたデザイナーさんと針子さんの力作は、
完全に「対」ボルフォードを見据えての、剣であったのである。
私の色と刺繍をふんだんに使ったドレスは、サイズの調整をするだけで、
王国の用意する正式な式典に着ていける出来なのだ。
けれど一本の剣で王国に戦いを挑む無謀を私はするつもりは全くなかった。
「皆様本日はお集まり頂きましてありがとう御座います。
色々言いたい事も要望もありますが…
私から言えることはただ一つです。
足りません。
今までは貴方達は対王国を考えて、技術を磨いてきたと思いますが…
これから相手をするのは王国だけではありません。
多様性と個性を磨いて下さい。
王国にこだわる必要はもうないのです。
あなた方の実力はもう王国を凌駕しているでしょう。
おそらく数年のうちに我がファルスティンは、
王国等より強力な勢力と戦う事になるでしょう。
その時の為に技と実力を磨いて下さい」
私のその宣言に、デザイナーと針子達はざわつくしかなかった。
私は一人のデザイナーや針子を特別扱いする気は全くなかった。
王国程度を捻り潰して満足されては困るのだ。
ボルフォード家の行ってしまったキツイ服飾関連の鎖国政策は、「伝統の衣装」を
守るのには最高に良かったかもしれない。
けれど、外国に高い関税を掛けて良い生地の流入を阻止までして、
伝統の工法を守らせ続けるボルフォードのやり方ではいずれすり潰されるのだ。
ボルフォードに嫁入りする事が決定して教育を受けたからこそ解る事だった。
その事には感謝しなければいけないと同時に「王国」が保証できなくなれば、
他国に服飾産業が潰される事になると明確にわかってしまうのだから。
ボルフォードは公爵家だ。
国は「伝統のボルフォード家」を守るだろうけれど、
それでもそれは永遠じゃない。
何時までも守っていられない。
特にカーディルとソフィアを認めた王国の歪みは金でしか解決できないのだから。
けれど、その金だっていつまで続くか解らない。
王国の服飾の保護は近いうちに終わりを告げる。
その伝統から解放された時、ボルフォードが独占してきた場所に、
ファルスティンの服飾関連業者が滑り込めるかどうかはまた別の問題なのだ。
ファルスティンの服飾産業を更に強化するには、まだまだ地力が足りていない。
やっと芽吹いた「オリジナル」なのだ。
潰すのは惜しい。
だから…
「ここにいる全てのデザイナーと針子をあなた方が望めば、私の専属とします。
そして「組織」として2チームに再編したく思います。
それが許容できる者は残りなさい。
独自の道を究めたいと思う者はそれでもかまいません。
納得のいくデザインをして私に認められる物を作りなさい。
色々な利害関係もあるでしょう。
ここ数年後にやってくる最大のチャンス。
私は逃がす考えはないのです。
変革は私達に有利に働きます。
いいえ。
働かせます。
ですが、その変革の波に乗る為には地力の強化は必須。
あなた方がどの程度を想定していたのかは解りませんが、
私だけでなく万人に認められる物を作らねばならないのです。
私達に残された時間は僅かしかありません。
そして先頭を走る事になる私達は潰される訳にはいかないのです」
私はその場にいた全員が納得してくれるかどうかなんて解らなかった。
けれどファルスティンとして「オリジナル」を作る為には、
どうしてもこじんまりとした小さな組織ではだめなのだ。
デザイナーと針子達の心情はこの際考慮しない事にする。
もちろん全員が辞退するのならそれはそれで構わない。
「さて、結果としては今述べた通りです。
それとは別に作品を見せて戴きましょう。
覚悟は良いですね?」
全員が静かに頷くのを確認して、
私は丁寧にリラーナとそのドレスの出来を確認し始めるのだった。
どんなに丹精込めて作っても、最後に物を言うのは好みなのだ。
出来を否定するつもりもないし、こうして作成されたドレスは、
既に私のサイズになる様に作られている。
だから私は用意されたドレス一着一着を確認して、明日から
順番に身に着けるとも宣言した。
それは、表面だけではなくて着心地やしっかりした作りであるかは、
使ってみなければ解らないからでもある。
私が組織したい服飾のチームに加わるかどうかは、
デザイナーと針子自身に決めさせ、手直しが必要なら
この場で作業を開始していいとも付け加えたのだった。
もう「王国の規格」で作られたドレスを作れる、ボルフォードで修業を積んだ
お抱えのデザイナーと針子は、ターシャ義姉様が抱え込んでくれている。
私はそう言った意味でも新しい物を選ぶ様に求められているし、
そうでなければ私が若いデザイナーと針子を抱え込む意味がない。
普通のドレスはターシャ義姉様に任せる。
ターシャ姉様で足りないのなら、ギネヴィアに任せても良いのだから。
リラーナの人選はなんだかんだ言って、
私の求める技量を所持しているし、新しい才能の目は多い方が良い。
未来に芽吹く可能性を最大限残しつつ、洗礼されたデザインが出来上がるのを、
私は楽しみに待つ事にするのだった。
完成する新都市で、未来の講師となれるカリスマの芽が美しく咲く事を夢見て、
新しい可能性を育てるのだ。
既にエルゼリアは対王国を考えて、
文化を芽吹かせる準備を着々と続けているのでした。
用意されたドレスも袖を通しますが、
新生の仕立て屋はアイデアの宝庫ですが再現性が低い所もあるので、
纏めてしまって技術向上をさせるいわゆる小さな業界再編と言った所でしょうか。
敵は王国だけではありませんから。
エルゼリアは今自分にしか許されない「新しさ」を追い求める為の種と芽を、
探し続けているのです。




