やりたい事。始めたい事はいっぱいあるのだけれど…
次回の更新は明日の20時です。
新生ファルスティンのお城…
と言うかお屋敷?は広い。
なので、お屋敷に私の私室として用意された場所も無駄に広いスペースが確保されていた。
それでもリラーナは言う。
「ここはエルゼリア様が「一時的」にお使いになる仮住まいのような場所です。
愛着を持つなとは言いませんが、エルゼリア様のお作りになる「夢」は
この場ではない事は覚えて置いて下さいませ」
それは、いかに快適に暮らせるように作ったとしても、
いつか判らないけれど私はこの場を去る事になると、忠告しているのだった。
言っている意味は理解できる。
私は、ライセラスお兄様から託される新しい都市の基礎が、ある程度
完成したらその場に移らなくてはいけない。
それは言い換えれば、私が根を張り育てる場所はここではないと、
優先するべき場所は別の場所であると言っている様だった。
確かにその辺りの線引きは重要な事だと思う。
あまり考えて来たわけではないけれど、私は一つの都市を任され、
その都市を育てる為に仕事をするのだ。
私の下に、明確に人が付くという事を考えなくてはいけないという事だ。
身内であっても、私が必要と思えるものは要求する事になるだろうから。
「守るべき部下を抱える」事になると自覚しなくてはいけない。
任命式を受けて責任が生まれた事は理解していたつもりだったけれど、
言われれば言われるほど、私の心構えは足りていなかったのかもしれない。
今しがた行われた私のお仕度…と言うかお着換えは、
私室として割り当てられた寝室の一角に設けられている場所で、
リラーナと二人で騒がしさに疑問を抱きながら行ったのだ。
リラーナから見れば私の態度はとっても呑気に見えたのかもしれない。
考えるまでもなく、昨日の任命式の後に帰って来たのがこの部屋で、
リラーナに案内されてドレスを脱いで入浴すれば、後は近くにあった
ベッドに入って朝なのだ。
朝起きて周囲を確認した時にはここは何処なのかと悩みそうになったくらいだ。
第2皇子殿下とのやり合いと緊張感からの解放とか色々あったのだけれど、
あの重苦しいドレスから解放された事と夜遅くに入浴できた事が、思いのほか
私の気持ちを軽くしていたのかもしれない。
やるべきことが決まりその権利を手に入れて、「言いなり」になるのではなくて
「自由」に動く事が出来る事、反抗して対抗する事を許された事は、思いのほか
私に自由を実感させていたのだろう。
夜眠りに付いてからリラーナに起されるまでは、
その自由に浮かれていた私もいたのだから。
二人だけのお仕度が終わり一番にしなければならない事が、
服飾関係の責任者を選定する事と言う事から、
私はドレスから逃げらないと改めて痛感した。
同時に、これはチャンスでもあると強く思わずにはいられなかった。
王国に対する明確な敵対行動を取ると言う意味でも、
この分野は徹底的に育てるべき所だ。
ふと準備が終わって周囲を見回せば、
この空間は私の為に用意された空間ではないと改めて思わずにはいられない。
私自身で選んだ小物をどんなにこの場所に揃えても、
たぶん私の場所にならない様に私室と決められながら、私がこの場を
私色に染められない様に全てがズレて用意されていたのだった。
新しく使用する家具も用意されベッドだって昨晩使ったのが初めてだけれど、
私の好みから外れる様に「気に入らない部分」が用意されている。
港湾都市から帰って来てからは「お客さん」扱いだったから、
別室に用意された場所で任命式までの僅かな時間は過ごした。
その場所もやっぱり染め切らない「お客様」の場所だったのだ。
そして今私がいる所もまた、プライベートな空間なのだけれど、
私色に染められた場所じゃなくて、
他人から見た私の為の私室と仕上げられていたのだ。
この部屋の内装を用意したはリラーナだから、
私の意に沿う形で用意も出来るはずなのに。
その好みをワザと外す辺りリラーナの心遣いにはどう反応したモノか…
悩みそうにもなる。
この屋敷を建設する時から、内装等のイメージは使用者に合わせて
用意する事が出来るはずなのに、
最後まで最適解をリラーナが用意しなかった理由は、
ちょっと思考を捻れば簡単に出てくる。
私をこの場にとどめておきたくないのと、
それ以上に私の名前を冠する都市にこそ私が求める最高の部屋を作るべきだと、
暗に訴えて来ているのだから仕方がない。
何度も周囲を見渡して確認するようなそぶりをし続ける私に、リラーナは
にっこりと笑いながら話し始めたのだ。
「全てズレていますでしょう?
修正しようとすればその違和感を無くす事は出来ますが、
いかが致しますか?」
私の回答も解りきった上で、そう尋ねてくる辺り、
彼女も意地が悪いって少々思ってしまうけれど、
それ以上にリラーナは確認したいのだろう事は理解できる。
これから決めていく事に関して、主である私の考えと誤差を無くすため
彼女が答えを求めて来ている事ぐらい、私にだって理解できてしまう。
「特別な傍付き」という役職だからこそリラーナはミスをする事は許されない。
その重圧も彼女はちゃんと理解している。
「もちろんこのままで良いわ。
リラーナの言う通り、この場に根を下ろすつもりは無いもの」
私の回答に彼女は笑みを浮かべながら、深々と一礼した。
ただ、それでも思うのだ。
例え一時的とはいえ、それでも年単位で私はこの場所で生活する事になる。
それなのにリラーナは、その若干の使いづらさを許容できるのかなとも。
彼女の事だからそれすら織り込み済みなのは理解している。
本音は私に自分だけの屋敷を持ってもらいたいと思っている事だけは、
私自身も心にとどめておかないといけないのかもしれない。
私の「特別な傍付き」として、既にリラーナは私の「色」を纏い特別なメイド服は、
私と同じように式典用のメイド服が多少簡略化した程度の物。
もちろん背中には鞄を背負っていて、
その中には私が必要とする物を常時持ち続けている。
鞄も式典用に使っていた鞄とは違い装飾された部分は少ない。
けれどその代わり大きく作られていて、
より多くの危ない物を所持しているみたいだった。
身に着けているエプロンも一段階厚く、装飾こそ省かれているみたいだけれど、
その代りにただの汚れから守る布ではなくて、
鎧の様な固さを持っているみたいだった。
一見式典用のメイド服に比べれば質が落ちた様にも見えるけれど、
用途別と言う意味で質は落ちていない。
私と同様にリラーナもこれから見られる側の人間となるのだから、
私の盾と言う以上に自身を守る事も重要になってくる。
紛れもなくリラーナは「特別」なのだ。
新都市の行政区画には、私が生活をする為の場所は既に確保されており、
都市の基本設計はもう既にお兄様と叔父様とお父様で決められている。
立派な「入れ物」が作られる事は既に決まっていて、
私がやらなくてはいけない事は、その入れ物に「何を入れていくか」となる。
商業と文化の都市を作り上げると言う意味でも、まずは学園都市とするべきで、
何を学ばせるのかと言えば、将来ギネヴィアとライセラスお兄様の元で、
立派に働く事が出来る人間は当然として、芸術の分野も育てなくてはいけない。
そうなれば服飾関係の養成校も当然必要で、
楽器を扱える文化も育てなくてはいけなくなる。
人はそう簡単に育たない。
特に音楽文化は、時間がかかる事は承知で推し進めなくてはいけないと思うと、
ナカナカ骨が折れそうな気もして来る。
ヴァイオリンを弾く奏者は人生を費やして育てる者だと聞いた事もある。
独自の文化の形成と言えば聞こえは良いけれど、この分野で認められるのは
「時間」を消費する事が求められる事だから。
はてさてどうなる事やら。




