私の貴族としての証は一つだけれど六個となるらしい。
次回の更新は明日の20時です。
私とお揃いで作られたギネヴィアの「祝福の宝石」も、
物凄い物となっている為に、あのボルフォードですら「公爵家に相応しい」と
言って持っていく事を許さざるを得なかったのだ。
無くしたくない物はそれ位しかないから、整理も簡単に終わってしまう。
…ともかく私の「所有物」は少ないながら運び込まれていて、
大半は「学園」の寮で使っていた筆記用具程度の物で、後は王都で買った
花瓶とかの小物。
何かの参考になるかと思って仕舞って持って帰って来たけれど、
まったく参考にならず結局は私がお気に入りにしなければ、
廃棄する事になる物ばかりだったのだ。
学園に「良い想い出」が出来ていれば大切にしたかもしれないけれど、
特にそんな物もなく…
改めて大切にしまっておかなくてはいけない物が「祝福の宝石」だけだったのが、
複雑な心境にさせられた瞬間でもあった。
しかもその祝福の宝石は、乙女ゲームの設定の為に用意された物だって
解っているから、なおさらお父様が用意して下さった大切な物と
解りつつも引っかかる所ではあるのだ。
一応だけれど貴族としての証だから「学園」に入学するまで必要とされた物で、
あるキャラクターのイベントで、貴族と証明する為に
皆で見せ合う為に使われる物だったの。
よくある(?)暗殺者イベントで、本当の貴族なら持っているはずの「祝福の宝石」を
仲間同士で見せ合った時にね?
国の指定した形にカットされていなかった宝石を持っていた
犯人を、侵入者として捕まえるというイベントが乙女ゲームではあった…
あったはずなのだけれど…
そう言えばそんなイベント起きていない様な?
…はて?あれは確かカーディル関係のイベントで、カーディルが忠義に厚い
影を手に入れるか、その暗殺者とソフィアがお話して改心するイベント…
…まぁ、いいわ。
いいの、よね?
他国と内通とかそう言ったダーティーな話のとっかかりとなる、
ソフィアが歯を食いしばりながら王国の闇と戦う決意をする重要な話…
…なんて無かったわね。
忘れましょう。
もう私には関係の無い話なのだから。
貴族の子としての証明が終われば学園に入学してしまうから、
それ以降は無くしても問題は無い物なので、
価値としてはそんなに無い物だしね?
因みにこの「祝福の宝石」は言うまでもなく乙女ゲームの名残の様な物で、
各キャラクターの色を元に、まあなんだ選ばれた物だったみたいだった。
当然の様にエルゼリアの「祝福の宝石」は何だったかと言うと…
乙女ゲームの悪役令嬢にはもちろん与えて貰えない。
そんな「祝福の宝石」を用意できるほどの余裕はファルスティンにはないからね。
だから、「ボルフォード」に与えられた装飾品用の宝石を「祝福の宝石」と
言い張るシーンがあって…。
それはそんなのは「祝福の宝石」じゃない!って、
ソフィアに断罪されるイベントで打ちのめされるんだ。
悪の令嬢を成敗!みたいな感じでね。
悔しがるエルゼリアに、弱小貴族だけれど
ちゃんと愛されて両親から手渡された「祝福の宝石を見せるソフィア」が
貴族としての正当性を示し、決め台詞を宣言する訳なのだ。
「男爵家の私だって!ちゃんと祝福の宝石は持っています!
エルゼリア様みたいに豪華な偽物を使って誤魔化したりしません!
私の両親をバカにしないでください!」
なんて言ってね。
祝福の宝石を持っていないエルゼリアが、必死に誤魔化して用意した物を
否定するのである。
実に正義のソフィアらしい正当性を示せるイベントでもある。
何とか持っていない事を誤魔化そうと画策してその真実を暴かれるという。
真実を暴く側からするととてもスカッとするイベントだけれどね。
で、ゲームはともかく「私」は、お父様が「張り切った結果」の宝石なのか…
私の宝石は大き目のタンザナイトを国の指定した形にカットした宝石が、
6個嵌められた首飾りだったりする。
そう…私の祝福の宝石は1個なのに6個という意味不明な物なのだが、
間違いなく1個の宝石だよと言われたのだった。
未だに謎な6個で一つの首飾りだけれど、
6個嵌められた意味は宝石言葉を考えれば理解出来る。
ともかく、私室で起きた私の傍には既に着替えたリラーナが立っていて、
すぐさま私は新しく用意された普段着に袖を通す事になるのだった。
ドア越しでも聞こえてくるパタパタと走る足音と、少々大き目の声でしゃべる
声にはカシャカシャと金属が擦れる音も聞こえているから、
護衛の騎士達もいるのだろう。
そのどれもが一定の方向に向かって動いている様には感じられず、
右往左往している様にも感じるまばらな足音が部屋に響いていた。
それもそのはずで…
「少なくともライセラス様とターシャ様が寝室からお目覚めになる前に、
警備システムは全て動く様にしなければいけません。
エルゼリア様が港湾都市の視察に赴く一足先に、
ライセラス様とターシャ様の「特別」は揃えられ、その「特別」の下に付く、
「使用人」と「兵士」と「騎士」も選ばれております。
ライセラス様周りの体制は、既に今朝ライセラス様が動かれる時に
完璧に動きます。
今はその最終チェック中なのです。
決まっている所は慌てる必要がありませんが、
そうでない場所は最後まで
最善の配置を考えているのです」
ですから、騒がしいのは今日だけです。
とも付け加えられたのだ。
扉の外でバタバタしているのは、とどのつまり、
私とギネヴィアの周りで動く「特別」と「使用人」の選定がまだ終わっていないから。
とリラーナは言いたいみたいでもあった。
それは私に対しての催促と言ってしまっても良かった。
お着換えが始まっても今日は特別な傍付きのリラーナしかいない。
それは私の私室に入れる許可を持っている侍女もメイドもいないから。
別に着替えに数人いる必要もないし、
学園でも着替えは一人でする事になっていたから、
二人で着替えるのは時間はかかるけれど出来ない事もない。
けれど私の世話を全てリラーナにやらせると、
リラーナが動けなくなる。
彼女はもう一人の私なのだ。
彼女の役目は私と同じ場所に立って私と同じ物を見る事なのだから。
「つまるところ、リラーナの下に付ける者を選んで、
私が動く許可を与えなければいけないという事なのね?」
「その通りです。
ですがエルゼリア様の場合、その選ぶ事が大変な事となります」
私はそのリラーナの言葉で嫌な予感を感じないではいられなかった。
いや、ズバッっと言い切る事が多いリラーナが、ここまで言い淀むなんて
相当難しい判断を下したに違いないのだ。
「リチェルチェ姉様もリリー姉様も求められる人材は解っています。
ですが、エルゼリア様がこれからなさろうとする事を体現する為に動く
手足に何を求められるのか、申し訳ありませんが解りませんでした。
なので「ある分野」に特化した人間をある程度ピックアップしました。
その中から好みの者を選んでいただければよいのですが…」
仕事関係に関して言えば、リラーナはベストではないけれど
ベターな判断をしてくれたみたいでほっとした。
だが、それはワンクッション置いた言い訳だったのだ。
「問題は服飾関連の方なのです…
エルゼリア様付きの針子となる事を望む者も多く、
デザイナーも複数人の立候補者が出ていますが…
エルゼリア様が求めるデザインは私には解りません。
なので全員呼びつけてあります。
ご自身でお選びくださいませ」
時間をかけながら、
じっくりと普段使い用として着せられたドレスは、
昨日着せられた式典用のドレスを「緩く」着せられただけだったのだ。
オースヴァイン王国伯爵令嬢用と定められた規格によって作られたドレス。
それは今の私なら楽に着こなす事が出来る物だった。
嫁いでいようと家にいようと、学園を卒業した以上は大人の令嬢。
だから国の定める正式なドレス姿で生活するのが当たり前になったのだ。
「これからは、私室以外ではこの格好が基準なので仕方がありませんね」
「そうね」
「では、早速招き入れますか?」
「…良いわ。始めましょう」
結局体制が新しくなったと言っても、
私自身で決めなくてはいけない事が、
多くあり過ぎるのだった。
仕事を始める前に、まずは身の回りの「決め事」を決めてしまわない事には、
お兄様の要請のあった仕事にも取り掛かれないのだから。
エルゼリアの「祝福の宝石」が1個なのに6個の訳。
もちろん叔父様が関与している。
というか叔父様が錬金して作った原石です。
ライセラスにアクアマリン
ギネヴィアにルビー
エルゼリアにタンザナイト
の巨大な原石を送ったのでした。
で、国の宝石加工屋に。
「これは1個の宝石だからね。6個に分割しながらカットしてくれ」
と依頼したのでした。
元の原石が巨石だったがために、6分割された「祝福の宝石」になった訳です。
まぁ叔父様がロマンチストかどうかは解りませんが、
叔父様は宝石言葉の数だけ「祝福の宝石」を子供達の送りたかった訳です。




