立場を正しく理解せずに参加する貴族が多いから
5月14日まで毎日更新します。
「任命式」は終わってしまった。
お兄様はファルスティンの正式な領主となり、
これから皆を導いていく立場へとなる。
けれど…
けれどそれでハイ終了と貴族達が帰ってくれる訳ではないのだ。
国家が規定する「式」事態は宣言さえすれば終われる。
けれどそれですぐ「はい御終い帰る」なんてもちろん許されない。
立場が切り替わり、ファルスティンの代表者と言う地位を得たお兄様は、
その瞬間より立つ場所すら変えられる。
つまりお父様達がいた一段高い位置へと立ち義姉さまもその隣へと移動する。
同時に新しい体勢に即した並びへと変わるのだ。
それを見せる事によってファルスティンの組織構造と配置された人員が、
対外へと公表されたことにもなる。
一番重要な事は傍付き達の顔触れ。
王家や上位貴族達の干渉を多く受けなければいけない領主なら、
その隣に立つ特別な傍付きは、上位貴族から派遣された顔触れになってしまう。
それはある意味その領地の首輪が嵌められている証明にもなるの。
だからお兄様と義姉様の二人の後ろの立った特別な傍付きの顔触れは、
王国としても重要な事なのだった。
だって、
そこに立つ人間がいなければすぐさま国から人を派遣して、
領内に内部干渉をする事が出来るようになるのだから。
もちろんそんな事はさせない。
領制に係る重大な意思決定の人物はお父様か叔父様が決めた人間しか入れない。
ライセラスお兄様の隣には家令としてもお兄様の片腕としても過ごして来た、
ライゼン・エストラが控える。
彼もこの領の出身でお兄様と共に生きてきた、
いわゆる乳兄弟でライセラス兄さまと、兄弟の様に育った間柄。
特別の信用を置くのも頷ける。
長い時間をかけて共に生きてきた人間に裏切られるならそれまでと、
裏切られるなら諦めの付く人選でもあった。
エストラもまた途絶える事の多かった領内の血筋の中で、
か細く長く、そして数々の犠牲と選別を見続けた血を持つ一族。
この過酷な土地に根を下ろして生き抜こうとして来た誇り高い一族だった。
ファルスティン領の歴史は意外と長い。
歴史と言う良い方であればそれは「ファルスティン領」となる前から、
この地では命を掛けた生存戦略が始まっていたとも言える。
王家が目障りと思う人間を「新領地の開拓者」と嘯いて、
その当時の国政に不都合な人間や政争に敗れた人間の処分場として、
人を送り込んだのがこの地に人が来る始まりとなったのだから。
追放の名目の下何度も送り込まれた人々は助かる見込みのない中、
前任者が全滅した「遺品」を探してそこで新たに生活を始めたのだ。
もちろん送りこまれ当時は、誰も生きられる環境じゃなかった。
けれどその過酷な環境の中で「選別」され「生かされた」人々が、
少ない生存圏内を使って命を繋ぐ術を磨き続けたのだ。
そんな生活基盤が出来るかできないかのギリギリの状態で、
初代ファルスティン領領主となる人が訪れる。
細く途切れそうな血の流れを初代ファルスティンの当主は守り抜いた。
そこから後にファルスティン領と呼ばれる領内の歴史は始まっている。
長い歴史の中領内に僅かにだけれど確実に残る細く続いた血を、
ファルスティン家は忘れられないし忘れる訳にはいかない。
生きる為に全力を尽くし基礎を作った、先人達が流した血の量を知っているから。
血を捨てる事は歴代のファルスティン家の人間には出来なかったって事だった。
王都で行われる貴族達の遊技の様な主従関係なんてこの場にはありはしなかった。
補充要員しか送って来なかった王家に対する評価なんて、
領内では聞くだけ時間の無駄なのだ。
見捨てられた土地で苦楽を共に過ごして来た結束はお父様の世代では固い。
選択を間違えれば全滅するという現実がそうさせていたのでしょうけれど。
ファルスティンに根を下ろした長く続いている家ほど、
ファルスティン家への忠誠心は高いから。
ターシャ義姉様の後ろにはもちろんリリー・ゼフィラが控えるのだ。
この地にやって来たターシャ義姉さまを守り教育出来るのは、
私を教育したリリーしかいないし、
特殊な環境の「新しい世代の伯爵夫人」の補佐を出来る人ともなれば、
領内でそれを熟せるのは他にはミーシェお母さま位でしょう。
並んだ二人は、この地の統治者として相応しく、
それ以上に着飾った両名を見れば文字通り「王族」に匹敵する衣装を着ている。
けれどそれを注意する事は、第2王子殿下と一緒にきた関係者には出来ない。
だって豪華に斬新に作られたそのデザイナーと針子さん達の力作は、
王国の伯爵位の規格に合わせて厳密に決められた所は守られているのだから。
王国は衣装に対する「法」を改変しない限りお兄様達の着ている物に対して、
ケチをつける事は許されないのだ。
それは、言い換えればどれだけボルフォードがデザインの進化を怠け、
古臭い生地でドレスを作り続けているのかと言う証明でもあるのだけれど。
それに気付けたとしてもボルフォードが努力をしなければ王国のドレスの出来は、
変わらないでしょうし。
もうボルフォードに新しい物を生み出せる力はないかも知れない。
そうやって特別な傍付きを控えさせた後ろに護衛の騎士達。
それも叔父様謹製の素晴らしい威圧的な武器を持った騎士が立ち、
新たに主となった君主の守りを固める。
1人1人の鎧は叔父様の素敵な技術が編み込まれた実用性豊かな物で、
お父様こだわりのデザインと、一人一人に授けられた武器に合わせて、
デザインすらワンオフで仕上げられた式典用なのに実戦で使える物へと、
仕上げられている。
それ以外の装具…マントや装甲に擬態させていたりする、
明らかに重火器に該当しそうな物が鎧の腰や背中に付いているのだから、
それらが火を噴けばこの場はあっという間に制圧されるでしょうね。
たぶん鎧に擬態したパワードスーツの様な気がするのよね…
たまに鎧から音が鳴り響いて…
―カシュン―
―シュイン―
って、どう考えても駆動音が聞こえるのだもの。
たぶん蒸気機関をアレコレしたのでしょうが…
私達にとっては騎士が特殊な鎧を着ているだけ。
決して可笑しなことではないのである。
他に上位者がいなければそれだけで良いのだけれど。
この場においては第2王子殿下がいらっしゃる。
普通であればもう一段高い場所と椅子を用意してお座りいただき、
新領主となったお兄様の挨拶を見守るという形が取られるはずだった。
現に御兄さま達が座る椅子よりより上位の人が座る様な椅子、
王家の紋章入りの椅子が一段高い位置に設置されていたのだから。
通常であるならばこの第2王子殿下の隣には引退したお父様夫妻と、
叔父様夫妻が並んで第2王子殿下の補佐というか話し相手になるのだ。
地位を譲ったばかりとは言え現地の最上位だった人間だからね。
お相手するには相応しい訳なのだけれど…
私とギネヴィアはそのままお父様達とは反対側に並んで控える事になる。
別に私達に話しかけてくる人間なんていないけれどそれを差し引いても、
領内の爵位持ちとして挨拶しに来た「貴族」の方々に礼の代わりに、
深々と頭を下げる役割があるのだから仕方がない。
今日この場においてこの場所の絶対王者となったお兄様はお礼を言ったとしても、
絶対にあたまは下げられない。
それがルール。
だからその代わりにこの「何もない辺鄙なファルスティン領」に、
来させてしまった愚かな人として頭を下げなくてはいけないのだ。
だってねぇ?
―王族が来るから仕方なく私達も挨拶に行ってやる―
―持て成すなんて出来ないだろうから許してやる―
―その代わり第2王子殿下と面会する時間を作れ―
参加したい?招待状を送れと言って来た貴族達のお手紙には?
だいたいその手の事が記載されていたのだから。
まぁ、これからもそう言った御付き合いをするだけだからいいけれど。
そこまでの暴言を吐かれながら此方は来て下さいと「要請」したのだ。
もちろん招待状を出した貴族はそれなりに選んでいるけれど、
選んだのは「お父様と叔父様」なのだ。
その意味を正しく理解できていないのならこれからの領地運営も、
大変な事になると思うのだけれど。
お父様と叔父様が、
―息子に地位を継がせたからお祝いに来てください―
なんて簡単な理由で呼ぶわけがない。
お父様達が作り上げた時限爆弾が爆発するのかもしれない。
それはきっとお父様と叔父様からの最後の慈悲。
―現状を正しく理解しろ―
―友好的にならないなら(ギネヴィアとエルザリアは)敵として対処する―
私達が舐められない様に残した最上級の脅しの様な気がするのだ。
呼ばれた貴族様はそれを理解できたのかしらね?




