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3年の学園生活後、領地へと帰ればそこはもう知らない風景の別世界。

「おかえりなさいませお嬢様」


城へと入城した私を待っていたのは、

大人数に増えていたメイド達だった。

発展しているのは知っていた。

そして私が王都へ向かい、

更に領都の発展にブーストがかかった様な気がしていた。

上下水道完備で温かい水が出る水道が完備され、

場所によっては鉄馬での通勤という概念まで生まれ始めていたのだから。

町の構造も変わっていく。


町のシンボルとして聳え立ってしまった領主の館。

王都で生活している間に変わりすぎた形になった我が家を見て、

その発展の凄まじさを痛感しなければいけなかった。

1人の天才?がいるだけ何処までも町は成長できるのね…

なんて感心していた私はその新しく雇われたメイドに聞いてみるのだ。


「町は随分と様変わりしたみたいだけれど、どんな雰囲気かしら?」

「はい!つい最近、新しい小物屋がオープンしてそこのアクセサリーが、

人気になっていますよ!

それに新しいお菓子屋さんも出来てみんな買いものを楽しんでいます!

それでですね…あとは…」


メイドの口からはそれはそれはたくさんの情報があふれ出て来ていた。

楽しそうに語ってくれたその情報はつまるところ生活必需品以外の、

お店が出来始めてそれが商いとして成り立ち始めているって事だった。

簡単に言えば少なくとも領都は豊かという証拠であって、

私はちょっとほっとしていた。

なんだかんだでエルゼリアとして生きてきて原作に巻き込まれたのだ。

その余波がこの領都にも押し寄せて来ていて、

とっても大変な事になるんじゃないかって密かに考えていたから、

少なくとも今はみな幸せそうみたいだから大丈夫かなのかな?


変な話ではあるけれど今は領内の好景気も手伝って、

犯罪とかも少ないのだ。

何せ働きたいと思えば、


「何時から来れる?」

「今から働いても良いよ」


レベルで人手が足りていない。

どこもかしこも人手が足りないのだ。

もう奴隷でもなんでも働いてくれればなんでもいいレベルで、

人も物も増え続けていた。

そんな勢いのある経済状態だって終わってしまうのかもしれないって…。


なんだかんだで王都から帰る馬車の中で、

婚約破棄された事で領都がめちゃくちゃになると、

歴史の修正力が働くんじゃないかって思って不安になっていた。

あれだけ大胆に婚約破棄されてその後はボルフォードにとって、

都合の良い噂がこれでもかって程流され続けたのだ。

大きな影響が出ていたっておかしくないなって思えて。

けれどそんな不安そうなそぶりを見せたギネヴィアは私を笑った。

何を不安に思っているのよ?

全然問題ないでしょうと。

私よりも頻繁に領地に戻っていてその実情を知っているギネヴィアは、

ニコニコ笑いながら話すのだ。


「王都がどう頑張っても直ちに政策を変えてファルスティンに追従しようと、

全力で取り組んでも私達には後20年は追いつけない。

簡単なお話よ。

人が用意できないのよ。

逆にファルスティンの人を良い金額で引き抜いたとしても、

意味はないの。

ファルスティン領内の道具がないとその効率的な仕事はこなせない。

だから人を引き抜くだけでは無意味。

ファルスティンの機械はファルスティンでしか作れない。

そして運び出せない。

機械も数年単位でファルスティンと同じ物は作れない。

コア技術はお父様の錬金でしか作れないの。

お父様抜きで自力で作るのなら恐らく30年コースね。

それからお父様が用意してきた事業がいま花開き始めたわ。

領内で私達同様に教育を受けた人達が働き始めたらどうなるかしらね?

ファルスティンに入り浸ったお父様の狂気の産物、

大量生産の価格破壊に王都の商人や貴族達は耐えられるのかしら?」


今はまだ序章に過ぎないとまだ始まってもいないのよ?

力強く説明するギネヴィアはまさしくゼファード叔父様の娘だった。


「だからね?エルゼリア。

私達は書類仕事をすれば良いのよ。

書類からは逃げられないのだから」

「そうね…書類は溜まると怖いものね…」


何故か私とギネヴィアは学生生活中に処理し続けた、

書類の数々を思い出す事になった。

そして領都に付いたらまた書類が待っているという事は、

考えなくても解ってしまうから…

涙が止まらない。


ゼファード叔父様は物を作り豊かにして、

大量の書類仕事を丸投げするのだ。

ギネヴィアは溜まっている書類仕事を、

母親のアリア叔母様が深夜までかけて処理している姿を見ていた。

だからこれから自分が領地に帰ったらどうなるか理解も出来ていたのだ、

母アリアと共に書類仕事をこなす日々が待っているのだと…


「可笑しいわね。

悲しくないけれど涙が出てくるわ…」


ギネヴィアの将来に幸あれ。


「逃がさないわよエルゼリア。

結婚しなかったら私と一緒に地獄(大量の書類仕事)に付き合ってもらうわ」

「それは早い段階で新しい婚約者が欲しくなる言葉だわ…」


新たに爽快な気分を覚えながら馬車での岐路の旅は続いていた…

けれどギネヴィアはもちろん別の屋敷…?

ゼファード叔父様のお屋敷で…

馬車を先に降りる事になる。


バルダー家のエントランスで荷物を下ろしたら、

私も自分のお屋敷…と思っていた、

お城へ帰っていくのだった。

荷物を下ろしてお屋敷に戻る時にぼそっと、

呟いたギネヴィアの言葉が忘れられない。


「増築されているわ…

また、自分の部屋への道を探さなくてはいけないわね」


言うまでもなくやりすぎなバルダー家のお屋敷は、

半研究所の様な工場と一体化した訳の解らない建物になっている。

増築と取り壊しを続けるお屋敷?は迷宮の一歩手前だった。

それでもアリア叔母様とゼファード叔父様は気にせず暮らしている。

「帰る度帰る度、家の中の通路の繋がり方が変わっているから、

自分の部屋にたどり着けないのよね…」

本当に困った家ねと愚痴っていた。


増改築を繰り返す家と、

お城の家。

どっちが良いのか今の私には解らなかった。

何せ広い。

広がったスペースが自分の為に用意された領主一家の、

プライベート空間と公務を行う空間を隔てる部分が、

解らな過ぎて…

今歩いている所は「私」なのか「公」なのか…初めての私には解らなかった。

それでも歩いていればその境目にたどり着く。

私室を含むエリアの前にはちゃんと扉があり、


「ではお嬢様。

私がお荷物を運べるのはここ迄です」

「そう、ありがと」

それでは失礼しますと彼女は去って行った。

そうすれば別のハウスメイド…

私の傍付きメイドだった彼女がリリー・ゼフィラが

扉を開けて迎え入れてくれる。

「おかえりなさいませお嬢様。

入口までお迎えに上がれず…

申し訳ありません」

「仕方がないわ。

広がりすぎだもの」

「はい…」


私室のあるエリアは機密性が高い物も置いてある。

だから簡単に人を増やす訳ににはいかないから、

こういった形で人を区切っているらしい。


「皆様お揃いです」

「お兄様とお義姉様も?」

「はい。学園の様子が聞きたいとの事です」


現在ファルスティンの行政の大半を仕切っているのが、

お兄様とお義姉さまのお二人だ。

日々迫りくる書類と格闘なさっておられる逞しい方々だ。

ライセラス兄さまとターシャ義姉さまの夫婦は仲睦まじく、

ほのぼのとした家庭を築いているとおっしゃられていた。

ターシャお義姉さまからも近況の手紙を受け取っていて、

それなりに私の事も気に掛けて下さっている。

そして今回の婚約破棄で一番喜んでいるのは、

きっとターシャお姉さまではないかと周りに思われているそうだ。

まあお姉さまの書類仕事の肩代わりは私が一番効率よく出来るからね。

とはいえ普通にうまくお二人は領内を運営している。

そうでなければお父様は王都にいられないしね。

そして私より5歳年上のお兄様夫婦には既に子供もおり、

将来は安泰だ。

何も憂いはない。


これも原作とは違って原作なら婚約破棄されて、

支援が打ち切られたファルスティン領は、

その断罪に相応しい結末が用意されていた。


ボルフォードの支援が無くなり生きられる糧を失ったファルステインの領民。

それはもう、悲惨の一言だ。

生き延びるため。

厳しい冬を乗り切るために御兄さまの手によって…

領民は選別された。

そして間引きを行ってそれでもだめで。

お兄様は妻とお父様とお母さまも失う事になった。

悪の一家に相応しいの結末って奴だ。

そして断罪された一家に相応しい最低限の人間しか残らない。

お兄様の手にはファルスティン家を存続される兄様の息子だけが、

ギリギリ厳しい冬を乗り切り生き残るという悪役令嬢の家族に相応しい、

因果応報の展開が用意されていた。

このひどい鬱展開が制作会社の開発スタッフブログにて公開されたのだ。

ゲーム内では補足されない事だったけれど、

妙に人気が出たこの乙女ゲームの製作会社は更なる利益を求める為に、

蛇足と言う名の「拡張パック」「DLコンテンツ」を大量に出したのだ。


愛らしい主人公押しで、主人公であるメインヒロインの為に、

多種多様の、よいしょ型コンテンツも用意される様なゲームだ。

開発プロデューサーの力強い後押しによって販売が決定され、

販売促進の生放送では、


「私が考えたヒロインはみんなに愛されるのが当然で、

素敵な女性だから、周りが「ざまぁ」されて、不幸になるのは、

まあ仕方ないんじゃないかな」


なんて話をしていたのだ。

だからメインヒロインを「よいしょ」する為に、

シナリオの路線も変更される。

ヒロインをより輝かせるために。

周りを貶める話も組み込まれたのだ。

製作している当人達であるプロデューサーからすれば、

「よいしょ」ではなく「当然」なのかもしれなかったけれど、

周りからすればそれは「やりすぎ」だった。

だからエルゼリアはきつい性格で嫌な奴に制作途中から変更されて。

メインヒロイン素敵!素晴らしい!作品へ仕上げられていく。

けれどこの乙女ゲーは売れた。

売れてしまったのだ。

だから、エルゼリアはDLコンテンツでは更に嫌な奴に仕立て上げられ、

本篇もより厳しい性格に改変させられていく。

もうやりすぎなレベルで。

そのためにエルゼリアの話には所々無理があるのだ。

その歪みを解消するためにプロデューサーが選んだのが、

ファルスティン一家ほぼ壊滅というオチだからたまらない。

不正を働き貴族の誇りを汚したファルスティン家に鉄槌を!

という流れとなりそれだけの事の鉄槌を下される事をする、

立派な悪役にエルゼリアは乙女ゲームの中で「悪役令嬢」に、

ならなければいけなくなる。そうしなければプレイヤーは納得できないから。

歪みを最小限に抑えるためにエルゼリアが豹変する。

いや、しなくちゃいけない。

シナリオ担当者が考え辻褄を合わせる理由も与えられたのだが、

それがまたひどい。

エルゼリアが在学中にカーディルとの関係が関係がまずくなった時点で、

支援金の額が目減りする事を知らされる。

「しっかりとカーディルを教育しろ。でないと支援を打ち切るぞ」と、

ボルフォード家におどされるのだ。

追い詰められて手法を選べなくなったエルゼリアが、

ボルフォードを諫める邪魔をするヒロインに手を出し始めると言う形で、

シナリオは修正されたのだった。

まったくもって酷い話だ。

ヒロインを輝かせるために周りがアホになるのはちょっとね。



けれど今私の目の前には幸せそうな兄夫婦の家庭があるから。

乙女ゲームの設定は気にしなくて良いのだ。

そう考えると本当にゼファード叔父様には感謝しかない。


その大変で幸せそうな御兄さまが、

私の話を聞きたいと言うのなら話さなければいけないわ。

そして盛大にずっこけて戴くとしよう。

アホで頭の足りないカーディル様とそれを増長するヒロインの学園生活に。


そう考えるとヒロイン補正ってすごいんだなぁ。

なんて他人事みたいに私は考えていた。

大人しくなって優秀(笑)なカーディル様とそのヒロインが、

発案した計画の実行のために外部頭脳をやって、

現実と妄想を擦り合わせ続けた私はエライ。

と自分で自分をほめてやりたくなる。


そんな訳でリリーに荷物を預けて私は一路家族が待つ、

ダイニングへと案内されるのだった。

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