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磨き続けた発想と作り上げる手腕は新しい形を創作できるのだけれど…

5月14日まで毎日更新します。

「出来ました」


画家のその言葉で私は意識をギネヴィア達の方へと戻したのだ。

二人の肖像画は良く出来ていた。

多少引きつっていたギネヴィアの表情は綺麗に笑顔に修正されて、

後ろに立っていたアルフィンの表情に揃えられている。

この辺りは写真じゃなくて絵だから融通が利く。

けど絵の中の二人は幸せそうに描かれている。

良い絵だと思う。


私はにこりと笑いながら二人に話しかけた。


「お疲れ様。我慢した甲斐がある絵に仕上がっているわよ」

「本当?」

「ええ。見てみると良いわ」


ギネヴィアはその出来上がった絵を見て小さく「わぁ」といったのだ。

頑張ってじっとしていた甲斐があったというべきだろか。

アルフィンも照れくさそうに出来上がった絵を堪能したみたいだった。

一日がかりのモデル作業は終わり夕食の時間へと流れていく。

一日に何度も着替えて自分専用に衣装が仕上げられていくのを見るのは、

オシャレを楽しめる子だったら嬉しいのだろうけど。

これが義務となった瞬間、普通の男爵令嬢なら逃げ出したくなるのかもしれない。

それよりは、リチェルチェの教育のせいかもしれないけれどね。

施設のダイニングルームへと仕立て上げられた場所に行けば、

そこには、少し大きめの机が用意されていた、

家具一式も、昨日よりワンランク高い上質な物へと変更されていた。

背後にはメイドが立ち、私達が近づけば自然と椅子を引いて、

大きなスカートを整える様に座る補助をしてくれる。

テーブルに上にはコース料理を決められたレイアウトの食器の並びが、

用意されていて。それは、和気藹々とした今までの食事とは違い、

楽しい食事ではなくて式典後の食事会と言う名の晩餐会の予行練習に見える。


「リハーサルで御座います」


静かに告げられた時点で、ギネヴィアの表情が歪む。

楽しい夕食は一瞬にして終わる事が決まってしまったのだから仕方がない。


バルダー家の御令嬢が恥をかくなんて許せないしかかせない。

そう言わんばかりの厳しい確認作業は続いたのだった。

別にギネヴィアの食事のマナーにおかしな所は一切ない。

けれどそれを差し引いても、ちゃんとできるのかが不安なのだろう。

本人ではなくて周囲が。

であるが。

礼服嫌いなのは自分の好きな事が出来ないからであって、

男爵令嬢としてのマナーは問題が無いのだ。

けれど…

リチェルチェの教育は命が関わらなければ何でもOKなのだ。

たぶんリチェルチェの行った教育に対する不安なのだろうと私は思う。

ギネヴィアは「普通」とはほど遠い教育を受けたのだ。

しっかり教えられていたのかと周囲が不安になっても仕方がない。

現に最後までドレスを着せなかったのだから。

淑女教育がおざなりになっていたとしても誰も驚かない。

いや、驚けないのだ。

周囲の傍付きのメイドからすれば敬愛する主の失敗を見たくないだろうし、

着飾らない姿でメキメキと仕事を熟しながら、淡々と書類を仕上げていく、

デキる男爵令嬢というイメージを壊したくもない。

出来ないなら今直ぐにでもマナーを教えるつもりでいたのは明白だった。


「ちゃんと出来ているでしょう?

そんなに心配しなくても大丈夫なのよ」

「はい。

その事に関しては安心しております。

けれど式典用ドレスは着なれていないご様子ですね。

任命式までのわずかな間ですが…

少しでもドレス姿に慣れて戴くために、

同格のお召し物を御用意致します。

少しでも軽やかに動けるようになってくださいませ」


カタン…


音置立ててギネヴィアの手からナイフが零れ落ちた。

隣にいたメイドはすぐさま落としたナイフを回収して…

新しいナイフをその手に握らせる。

ギネヴィアの表情は一層曇っていくのが解るのだけれど、

そんなに嫌なのかしらね?ドレスでの生活は。


「このような事で動揺してはなりませんよ」

「はぁぁぁぁい…」


ため息交じりの返事をしながらギネヴィアのマナーの最終チェックは続いた。

私はそれが可笑しくてたまらない。

何時も自信満々に私に説明してくれるギネヴィアが、

たかだかドレス一枚着せられただけでココまで追い詰められるとか。

弱り果ててアルフィンにコルセットを緩めて貰おうとするとか。

そんな大人げない行動を取るなんて信じられなかったのだ。


「ううぅ。

食べるものが美味しく感じない。

なんだか、しょっぱい気がするわ…」

「そうね。

しょっぱいかもね。

きっとこの苦しさを乗り越えた先には、

楽しい事(鬼の書類整理)がいっぱい有るわよ」

「…苦しいのが私だけなのは納得いかないのだけれど?」

「それは仕方がないのではなくて?

リチェルチェの教育のたまものなのだから」

「それを言われたら反論できないわ…」


どんな文句を言ってもリチェルチェの事をギネヴィアは嫌いになれない。

ギネヴィアにとっても数少ない「技術」を理解してくれる大切な理解者だ。

好きに生きて興味の向くままに行動する事を許容してくれる。

お堅くないバルダー家向けの教育係であり最低限のマナーは、

本人も知らない間に恥をかかない程度に仕込まれているのだから。

着衣に関すること以外は貴族として扱われても問題ない程度に、

男爵令嬢を演じる事が出来るのだから。

一番文句を言われる人間がその場にいない事。

それはリチェルチェからの最後の教育って事だろう。


遊びの時間は終わりましたよ。

もう我儘をいう事は許しませんし許されません。

全てを飲み込んで男爵令嬢として立場に相応しい立ち振る舞いをしなさい。


それは教え導く存在から、

仕え支える存在になるという転換を意味する。

リチェルチェはギネヴィアの傍にいる。

けれどもう判断を委ねても「ご自身でお決め下さい」と返されるだけ。

教育は終わった。

巣立ちの時という事に他ならない。


私も王都へ行って学園に入学する為に領都を離れる時、

リリーから


「もう私からお嬢様にお教えできることはありません。

これからは、自らの意志で歩いて行くのですよ。

おめでとう御座います。

リリーからお嬢様は卒業です」


って、告げられたから。

私の場合はもうファルスティン領に帰って来れない事が前提だったから。

最後に抱き着いてギュってして貰った事を覚えている。

私にとってもう一人のお母さまと思っていたリリーに、

面と向かってそう言われた時には涙が自然と流れてきたもの。

それだけの決意と覚悟を持って学園に通い始めたのに、

結末は婚約破棄でファルスティンに出戻りなのだ本当に笑えない。



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