伝統はその形に意味を作ってくれるけれどその代償は変化を辞める事かもしれない【前編】
「おはようございますお嬢様」
その朝はそれはもう久々のフルオプション。
てんこ盛りの「愛されるお嬢様」の朝を私は迎える事になった。
そう。学生で無くなった私には自由に着替えをする事を許してくれる、
メイドは外出先にはもちろんいない。
貴族の常識で言うのであればそれが普通であって当然なのだ。
が、納得できない様な出来るような…
学園生活のあのボルフォードが用意した婚約者用の苦しい制服を、
もう一度来たいとは思わないけれど、
ギネヴィアが着ていた普通の制服を着ての生活だったら、
もう一度学園生活を送るのも良いかも知れないなんて、
私は目覚めて今日身に着けるドレス一式を見せられ、
ニコニコしながら見てくるお世話係のメイドを見て思ってしまった。
伯爵令嬢が身に付けなければいけない装具はとても多い。
夜会等は例外としてこの王国の女性と男性の衣装は、
着ているだけでその身分と立ち位置。
そして地位を表せるように作られているのだから。
乙女ゲームの製作者がそこまで考えていたとは思えないけれど、
この世界は程よくおかしく程よく都合がよく狂っている。
それは上位者が国を都合よく統治するのに使われる為でも、
あるのかも知れないけれど。
現実とゲームとファンタジー要素が程よく入り混じなければ、
あの乙女ゲーの世界は、表現できないでしょうしねぇ…
私が起きて椅子に座れば。
ルンルンになってお世話係のメイドさんが私の身支度を整え始めた。
彼女達は数人でチームを組んで私のお着換えを進めていく。
それは楽しそうに。
けれどほどよく緊張もしているみたいだった。
まぁ私は領主の娘ではあるし。
この領内では最高権力者に近い存在でもあるから。
威張り散らす意味も今はないし。
彼女達の手際はとてもいい。
リズミカルにそして丁寧にお世話係の手によって、
私は仕上げられていくのだった。
ただこうして「貴族」としての立場を再認識すれば、
するほど「学園」はとても愉快な場所だったのだと、
私は思い起こす事になるのだった。
複雑な利害関係と常識。
それから建前上の平等を再現するために、
「偉い人」が学園に用意したルールは、
とても不思議で可笑しなものとなっていた。
それはそれは苦心してルールを作り上げた事だけは、
なんとなくわかる。
というかよくここまで作り上げたなと感心さえしたものだ。
だってこの学園には国の代表となる王子も通う事になれば…
平民の出生不明だけれど優秀と認定された、
得体の知れない生徒(攻略キャラであり、よくある暗殺者という立場)まで、
通っていたのだ。
普通ならこれは両立できない。
尊いお方たちが通う学園に所属不明の得体の知れない人間を、
通わせることなんて普通の学園なら許さないだろう。
けれど何故か?まかり通るのだ。
「乙女ゲーム」だからでは済まされない、
力関係がそこには存在している事だけは確かで…
たぶん「暗殺者」のあの子が入学できたのは、
司法取引でもしたのだろうか?と疑いたくなるレベルなのだ。
普通なら安全面を考慮するでしょう!
って突っ込みたくなった回数は数しれず…
ま、まぁ、無事物語は終わって死者が出ていなかった…
ならそれはそれで良いのよね?
今更過去の事を言っても遅いしね…
ともかく王子様なんてものがいたら、
それは安全面にも考慮しなければいけないし、
かといって安全だけを考慮してしまえば、
まともな学園にはならないのだから。
ごった煮で作られたちぐはぐで継ぎ接ぎの学園設定は、
うまくすれば暗殺やり放題だったし、
逆に言えば冤罪かけ放題だったという事でもある。
けれどそれをやらせないために、
必死に組まれた学園の法律は整合性が取れていなかったから面白い。
通っている一部の平民にたいしても訳の解らない配慮がなされていて…
建前上は通う上級貴族の子息たちも「私達は平民も大切にしています」と、
言わなければいけなかったし。
あまりに理不尽に接して虐げ過ぎれば我慢できなくなった生徒達は容赦なく、
暴動も起こせるのだから。
それを考えれば、表向きは生徒は「階級」に関わらず、
平等に扱わなきゃいけない。
だから下級貴族と上級貴族の垣根を少しでも減らして、
「平民も通う学園で不公平感はありませんよ~」を、
見せる為にお世話用のメイドは基本的には禁じられていたし。
学園内をメイドを連れて歩く事は禁じられていた。
けれど貴族の子女がそれを守る訳がない。
明らかに学園の生徒ではないけれど…
学園の制服を纏っている人も大量にいた訳だ。
その制服を着せられたメイド?は、暗黙的に生徒扱いとする。
お世話をするお嬢様から離れない事を条件に学園に堂々といる事を許されるのだ。
この事だけでもこの学園の法律は穴だらけで…
だってこれを許したら暗殺者を忍ばせ放題になる。
男にしろ女にしろ高位な地位を持つ生徒は結局やりたい放題出来るルールが、
学園には用意されているのだから。
もう私には理解が出来なかった。
それが出来ない階級の貴族ならまた別の方法でメイドを送り込んでくる。
同い年の平民の子を入学させるのだ。
そして「お嬢様」達に宛がってお世話をさせる。
まぁ、結局法の抜け道を探してあの手この手で学園を好き勝手するのだから、
貴族と言うのはそういうモノだと知らしめるのには、
学園は十分に役立っているのかもしれない。
何度も追記された学園の法律は、
もはや誰も理解出来ない状態だったんじゃないかな?
当初の目的は達成されず同級生として入学してくる分には止められない。
国の中枢に位置する公爵家や権力を持つ伯爵家には、
それら「法」は、もちろん適用はされない。
そしてエスカレートした最終段階に待っていたのは私達の代にはいなかったけれど、
王子様達の取り巻きご一行。
お付きのロイヤルなメイドは当然ロイヤルな方々には許されるのだ。
尊い血の方々だから。
そんな理由で自由が許されている訳じゃなくて…
もっとヤバイ理由だったと知った時、
私は力を持つのも考え物ねと改めて思い知らされた。
王家の人間。
その血の濃さが「魔力」という人間を兵器たらしめる燃料を、
大量に保有している人なのだから。
まぁ普通に考えれば当然なのだけれど厳重に守られるべきと言うよりは、
管理されるべき兵器の燃料庫と言うべきなのかもしれない。
私は叔父様に言われるまで高魔力の人は戦いとかで有利で羨ましいと…
簡単に考えていたのだけれどその事を当然と思っていた辺り、
私もファンタジーに毒されているなぁと思ってしまったのだった。
言われてみれば確かにその通り。
日常で持ちすぎる高魔力はそのまま危険へと直結している。
「魔力ってさ、色々な事象を発現させるいわば「燃料」なんだよねぇ。
これを管理する人もいない状態で、ひとまとめにしたら、
そこはすごい危険な火薬庫に見える時が私にはあるよ。
着火の原理は「人間の意志」なんて不明確な物だしね。
けど、今の所?暴走と共鳴反応の「魔法」はないみたいだし?
他人の魔力に干渉出来てその魔力を自由に使えるようになったら、
人間爆弾が完成しそうだよね?
「まだ」見つかっていないだけで、
「ない」事が確定していないんだから、
高魔力保持者は大変だと思うんだよ」
悪魔の証明にも通ずることであるけれど、
私はそれ以上、叔父様の「魔力」考察に付き合うのだけは辞めたのだった。
恐ろしい事を言っていた上に実験されたらたまらない。
それに、
叔父様自身がその「高魔力保持者」なのだ。
自身で自爆実験なんて事を始められたと思うと、
深く突っ込んではいけない気もするのだ。
けれど叔父様に関して言えば…
アリア叔母様という絶対に一緒にいる人がいるからそんな事はなしないと思う。
しないよね?
一抹の不安を覚えそうになるも、
お膝の上に抱っこするぐらいにべったりだったから問題はないのかな?
…ともかくそんな「危険」も内包する学園は、
その秩序の中の無秩序と例外のオンパレードで作り上げた、
学園専用の法律と言う名のガバガバな言い訳の塊で運用されていたから、
伯爵貴族の貴族階級に相応しい厳格に国が決めた、
「身に付けなければいけない」装具も一式免除されていた訳で…
それを身に着けて生活する事は大変なのである。
男爵・伯爵・侯爵・公爵と、地位にあった格好を、
国が指定しているのだから正式の場では更に身に着ける物は多くなる。
とはいえその高級に作られた衣装の数々はほとんどがその女性しか、
適用されないデザインに仕上げられるから何とも言えない気分にはなる。
高貴な女性は「美しく着飾る事」は仕事の一部とされるし…
夜会等で旦那様に連れて歩かれる奥様を見れば、
その領地には何があるのかがわかる様に作られている。
カラフルな糸を使って仕上げられる産業をモチーフにしデザインが、
ドレスには組み込まれる事が国の「法」によって定められているのだから、
何とも言えないデザインを着る事になるご令嬢方もいるから大変だ。
けれどその大変なモチーフを纏め上げるのがデザイナーのセンスであり、
腕の見せ所でもある訳だ。
ボルフォード家のデザイナーはそういった意味では、
これから厳しい時代が来るかもしれない。
だって理想の体型に頼った苦しいデザインのドレスを私に着せていたのだから。
私の為のドレスではなくてドレスの為の私で作られたドレス。
苦しくて仕方ないだろうけれど…
伝統と格式を失ったら買ってくれる人はいるのだろうか?
考えれば考えるほどボルフォードの未来は暗い事になりそうね。




