余計な者達は国外追放…というよりも故郷に帰ればいいのよ。
代表者と会ったグラファイスは決断を迫るのだ。
船員の亡命は受け付けない。
と言うより亡命は出来ないのだ。
姫の素性が解ってしまって?
婚約と結婚からの逃亡と言う「シナリオ」は、
既にファルスティンには用意できない。
オースヴァインとデルフィナスとの間にどんな契約が結ばれたのか、
私には解らないけれど、もしも下船するのなら、
彼等の扱いは「2等オースヴァイン王国国民」と言う肩書と共に、
セルディアの結婚と同時に作られる身分に沿ってオースヴァイン王国内に、
特設される場所で生活する事になるらしい。
もう、それだけで不穏な空気を感じるのだけれど…
それを了承できるのかすら私には解らない。
「…わ、我々は本国にライセラス様の書簡を届ける役目を負いたいと思います」
「そうか。
ならば止はすまい。
ただしばら撒いたゴミは当然持ち帰って戴くが、宜しいな?」
「…はい」
交渉は実にスムーズに行われて湾内に溜まりそうになっている、
浮遊物の回収をする事になって…
とはいえ一個一個手作業で回収作業なんてやっている時間はない。
そんな長時間滞在させてやる義理もないのだから。
グラファイス達は剣を使って海面をまた固めると浮遊物を、
かき集める様に海面を一時間ほど歩いてかき集めたたしかった。
沈んだ砲弾の破片や大砲も周囲の海水を固めて氷として、
浮上させ大量のゴミを随伴艦を取り囲む様にしながら船体へと凍らせながら、
固めていく地道な作業を続けて新しい船を作りだしていったらしい。
遠目に見ていたリラーナの傍付きが実によい作業でしたわと言っていた。
騎士達を総動員して作り上げられた氷の塊はそのまま随伴艦に纏わりつき、
その量も相成って「凄まじい」氷の塊を作り出したのだった。
その中にゴミを大量に内包したまま。
仕上げにその氷を維持する冷房装置とそれを動かす魔石を取り付ければ、
氷の船が半日もしない内に誕生したそうだ。
「思いの外楽な作業でした。
まぁキャッチボールしか出来なくて力を持て余していましたからね」
叔父様のロマン兵器を持っているグラファイスがそれを出来るのは、
理解したくないけれど理解できてしまう。
ただグラファイスの部下が持っている廉価版ですら、
似たような事が出来るのは良いのだろうか?
いや今はそれは些細な事で…
そうして作り上げた大きくなった氷の船体に、帰りの食糧を積み込んでやって、
デルフィナス王国への帰路へ着く事を許してあげたとの事だった。
おまけで湾外に出るまで強制的に加速させる為に、みんなで氷の船を思いっきり、
押してあげたのだそうだ。
その素晴らしい手助けに船員たちは涙を流しながら喜んでくれて、
湾外に出たと同時に帆を張った船に風の魔法を壊れるギリギリの勢いで、
拭きつけてあげたおかげで素晴らしいスピードで、
その随伴艦は見えなくなったそうだ…
それはもう陸地から見えなくなる勢いで離れていったらしい。
「彼等はたどり着けるのでしょうか?」
「さぁ…命の選択をすればたどり着けるでしょうよ」
「それはどういった意味なのですか?」
「本来の船員の倍乗っている船に、帰りの分の食糧は積み切れないわ」
「それは解ります。けれど氷の船体を作って差し上げたのでしょう?
そこに大量の食糧も乗せたと仰っていたではありませんか」
「そうね。大人しくゴミを運ばせる為に十分な食料は用意してあげた。
けれど氷の船体がデルフィナス王国につくまで持ってもらう必要はないの。
何処か私達の知らない海でその船体に纏わりつけた氷の中を、
周囲にばらまく事になっても私達は構わないのよ」
魔石は高価な物だからね。
持ち出してくれたゴミがこっちに流れ着かない距離だけ持ってくれればいい。
持って帰って来られなくなるだけの距離を氷の船で航行できればいいのだ。
リラーナの質問に私はため息をつきながら答えようとしたのだけれど、
グラファイスが首を横に振った。
それ以上は船員たちが考える事。
私達が考える必要はない。
「…楽しい船旅をして湾内のゴミが掃除出来た。
それで十分でしょう。
それ以上は考える必要もないわ…
誰よ?氷の船なんて思いついたの?」
「昔アルフィンが画期的だと言って提案して、
ゼファード様に問題点を指摘されたアイディアです」
叔父様…
グラファイスは知っていてやりやがりましたか…
それなら私はそれ以上の事をリラーナに話す必要はないかなと思って。
話を中断する事にした。
湾内の清掃も終わり一段落すれば本格的に港湾部の問題点も、
見えて来てしまっているのだから。
特にこの地は平和でない事が証明されてしまった。
だから防衛と言う点でも一層の強化が望まれる様になると思う。
都市ギネヴィアの港湾部分の整備は、
大きく変更しなくてはいけないのかもしれない。
より安全により強固に。
それが主であるギネヴィアの果たすべき役割なのだから。
より広範囲により効率的に結界を張り強力な砲弾を叩き込めるようになる事。
少なくとも航空戦力と言うゲームチェンジャーが他国で生まれるまでは、
少なくともある程度の優位性を確保できるだろうし…
せっかくというか鉄馬があるのだ。
列車砲の一つや二つ作っても良いでしょうね。
今は考えられない位遠くから砲弾を打ち出せれば有利になれる世界の様だから。
叔父様に頼めばロマン砲の一個や2個直ぐに作って下さるでしょうね。
何だったかな?ドーラだっけ?
一門あるだけでもきっと交渉は有利に出来るでしょう。
私達の戦いが終われば、この重工業都市は大きな音立てて発展を再開する。
叔父様が求めた未来を実現するために。
私はギネヴィアに欲しい物を頼みながら新しい物を生み出し続ける、
都市ギネヴィアの変化を楽しみ続けたるのだ。
それは直ぐ近くまで来ている都市エルゼリアの、
完成が近づいている事の証でもあった。
鉄路は伸ばさ都市ギネヴィアは育ち続ける。
けれどその発展に大きな変化は何時だって唐突に訪れるのだ。
ぼぉーと、大きな音が町に轟く。
それは半年前にこの町を離れたこの世界にしては規格外の巨大な船舶。
そして未だこの大きさの船を持つ国は一国として存在しないし、
出来るはずがないオーバーテクノロジーの塊。
見覚えのある船が内湾に侵入してきたのだった。
港の大きさはその船を迎えいれられる事を前提に整備され。
鹵獲したデルフィナス王家の使っていた旗艦が、
小舟と錯覚する位には大きい船なのだ。
その船の帰還に町が湧きたつ事になり、そしてその積み荷に驚く事になる。
そう…
ゼファード・バルダーが操る船が都市ギネヴィアに帰って来たのである。
それは、新しい文化が都市ギネヴィアにもたらされるという事であり、
新しい変化を求められる始まりであるのだった。
ファルスティンを取り囲む環境は加速度的に変わっていくのである。
伯爵令嬢は自重しない。叔父様は旅行に出かけてしまいました…
…が、変化をもたらすために帰って来てしまいました。
当初の予定よりも長い話となりました。
というより章別けのタイミングが上手くいきませんでした。
本来ならゼファード・バルダーが出港する所でいったん区切り、
その間に戦争もどきが挟まる事を予定していたのですが、
叔父様が帰って来てしまいました。
次回から外伝であるエルゼリアの資料返却編が始まります。
ソフィア編以外でボルフォード家最後の華々しい生活が書ける、
最後の機会となるのか?
ボルフォードの奴隷姫となるために仕立て上げられていたはずの、
エルゼリアがバッサリとボルフォードを切り捨てる瞬間となるのです。
従わないエルゼリアの最初の一歩となった物事だった事は確かです。
エルゼリアを守るグラファイスの初めて領外活動です。




