殴りかかった相手に助けを求めるのは普通なのかしら?
「亡命を希望します!」
言うだけなら簡単な事だけれど、それに関してこちらは動く事になる。
艦隊がここに来た理由なやらなんやらを詳しく聞かなくてはいけないのだけれど、
手心を加えて吹き飛ばさなかった事を後悔するほかなかった。
交代で船を見張らせて武装解除がしっかりと行われるまでの動向に目を放す訳にはいかなかったし。
夜の湾内でスポットライトに照らされて湾内中央に停泊する帆船。
帆を張って動こうものなら即座に撃沈なさいと命令だけはしておいてある。
とはいえ「亡命」と宣言されてしまった以上?
待たしてもライセラスお兄様にお伺いを立てなくてはいけなくて、
こちらとしては心苦しい限りだ。
王国と神経をすり減らす様なやり取りをしなくてはいけないお兄様に、
せめてデルフィナス王国関連で手を煩わせるような事はしたくなかったのだが。
指令室での深夜の会議は続けられる事になる。
「亡命?でしたか。これだけ暴れ散らかしたクセに、
最後は命乞いと言う訳ですか?理解が追い付きません」
「私達は外交と言う点では疎い立場ですがデルフィナス王国とやらが、
ある事を知らないのですよ?本当に存在するかどうかの確認も必要ですね」
「全て虚言であればどれだけ後腐れないか…」
「崇高なる死とやらを与えてやればよいのでは?」
「一応「責任者」のようだから、その「お姫様」と解って、
吹き飛ばす訳にはいかないでしょう。
ともかく上陸はさせない。
けれど武装解除は徹底的にやる事に致しましょう」
「今判断できる事はここまでね…」
纏める様にリラーナが口を開く。
今はそれしか出来ないと言うのが最も正しかった。
正直正午から始まった海戦を見続けた私は既にヘロヘロとなっていたけれど、
それでも帆船の「脅威」がなくなるまでは魔力供給を辞める訳にはいかない。
「ギネヴィア…引き継げるかしら」
「大丈夫任せて」
「お願い」
それは結界に流れる魔力の流れが変わる事を意味していた。
けれど引継ぎはさほど難しい事ではない。
着ている物も同じだし私とギネヴィアの繋がりは「他人」ではないので、
スムーズに進むのだ。
最悪寝ながらでも魔力は垂れ流せるけれどそれだとシールドの強度が、
安定しないのであまりしたくはない上に、
搾り取られながら寝るのは不愉快極まりなく寝た気がしないからしたくないのだ。
指令室として作った部屋の隣で用意されていた休憩スペースへと、
私はリラーナに連れて行かれたと言うか引きずり込まれたのである。
後ろではリチェルチェと順調に結界を維持し始めたギネヴィアが、
より強固に「結界」を作るために作業を始めるのだ。
「さぁギネヴィア様。
気分を落ち着けてリチェルチェに体を預けて下さいませ」
「…変な事はしないでね?」
「なんてひどい。リチェは何時だって真面目です!
真面目に変な事ではなくて、しなくてはいけない事をして差し上げますよぉ」
「え?え?え?」
「さぁ、お覚悟なさいませ普段からドレスを嫌がるのがいけないのでーす」
「リチェ待って!ちょっとうわぁ!」
既に指令室に人はなく、リチェルチェと特別な傍付きに仕えるメイド達しか、
人は残っていないので結界が維持できれば文句を言う人はいない。
長い緊張を強いられる一日が終わり一種の「おふざけ」が許される時間が、
始まるのだ。
特にギネヴィアの後ろに仕える者達にとっては「我が家」を守る為の戦いであり、
一番ピリピリしているのは当然町の主である「ギネヴィア」でなくてはいけない。
それよりも私の方が爵位のラベルが高いので余裕のある私が、
今回の最高責任者の地位を受けていたけれど、
その私が控室に移ってギネヴィアとリチェルチェがこの場を支配するようになれば、
緊張感をほぐすためにその「身」を提供するのは、
もちろんギネヴィアの仕事でもあるのだ。
戦闘は終り区切りはついているから警戒レベルを落としても大丈夫。
―しっかりとこの地を守る「ギネヴィア」は領民を害する事を許さない―
―その守りは私に任せてほかの者は休みなさい―
―他ならぬギネヴィア・バルダーが許します―
それが私から指揮権?と言うか守りの要である結界を維持する事を任された、
ギネヴィアの立場なのである。
ただ、結界を維持するのではなく不測の事態への初動を起こす責任も、
当前引き継いだのだ。
あらゆる意味で逃げられなくなる条件がギネヴィアには揃っていた。
責任が発生している以上可笑しなドレスを着ている事は当然許さない。
今着ているドレスは都市ギネヴィアの人命を守る大切な物だからね。
もちろん「未完成」「調整不足」だなんてゆるされるはずがないのだ。
普通なら調整されているはずの魔石がふんだんに使われているドレスは、
あらゆる意味で効率を高めるために修正が必要。
それをギネヴィアがやっているとは思えず…
当然これから調整されながら結界を張ると言う素敵な状況になるのである。
周囲の目ももう気にしなくて良いからね。
少しばかり当たりが強くなってもアルフィンも近くで慰めるだろうし、
とっても素敵な夜になる事は確かだろうね。
調整と追加を繰り返してプラスマイナスゼロかも知れないけれど…
頑張れギネヴィア。
「相変わらず素敵な主従関係ね」
「エルゼリア様もあのような関係をお望みでしょうか?」
「リラーナがアレをしたら私は泣くわ。
貴女は今のままで良いの」
「それは…いいえ。了解いたしました」
同時クスリと笑い声が漏れ聞こえてくる。
そんな訳で私は魔石がたっぷりと縫い付けられたドレスを脱がされ、
軽く湯浴みをしてからフッカフカのベッドで眠るのだった。
もちろんギネヴィアに休憩の時間はないのだけれどそれは仕方がない事だ。
だって、この町はギネヴィアの物なのだし、
結界の受け手側の調整は私でなくて当然ギネヴィア用に仕上げられている。
最悪寝てしまっての私よりは楽なのだ。
そんな訳で結界の維持はお任せで次の日は日が昇ると同時に、
私達は「安全確認」という処置をあの艦隊にするのである。
私がまだ眠っている時間。
けれど既に即日武装を投棄せよという要求だけは行っている上に、
真夜中にも関わらずサーチライトで四方から照らして差し上げたのだ。
もう武装解除は出来ていなくてはおかしいのである。
そのつもりで日があり十分な休息を取れたグラファイスの部隊が、
旗艦に乗り込む事にするのである。
少し遅めの起床をした私に待っていたのは、デザイナーさんの手によって、
新しく作られていた「魔石」を使った結界を維持できるドレス。
とはいえ行われている確認作業が終われば結界を張る必要はないので、
軽めの物を用意してもらっているつもりだったけれど、
勿論リラーナがそんな物を着る事を許さない。
「最悪の事態に備えるべきですからね」
それは当然最後の自爆でも行うのではないかという事と、
交戦が再開される可能性もゼロではないのだから仕方がない。
しっかりとゴーシャスなドレスを着せられた私は控室から、
仮設の指令室にへと移動したのだった。
気分も新たに戻って来た私に待っていたのは、
よりゴージャスな衣装として「調整」と「大改修」が行われてしまった、
ギネヴィアの姿だったのだ。
ええ。
それはもう盛に盛られた魔石にレースとフリルを縫い付けられ、
一国のお姫様が着ていてもおかしくない形へと変貌していたのである。
一応「ドレス」ではなくて「結界補助器具」であるから、
そう言った意味でオースヴァインのドレスと言う規格が無いのだ。
針子さんとデザイナーさんの手によって一晩かけてやりたい放題された、
結果がコレである。
当然コルセットも「増し締め」されているらしく「きひゅう」と、
可愛らしい声でこっちに助けを求めてくるのである。
まあ…可愛い。
戦闘が無くなってリチェルチェがはっちゃけた部分もあったのだろうけれど、
それ以上にいつの間にか呼び出された?のか、昨晩はいなかった。
ギネヴィアの針子さんとデザイナーさんが、
「やりきって、真っ白に燃え尽きる形」で、壁際で眠っていたのだった。
そしてリチェルチェも目の下に隈を作りながら良い顔で、
リラーナにピースしている。
戦時下だと言うのに何処までも余裕なのだなって思いながら…
いや戦時下なんて理由がないとギネヴィアは、
せっかくのドレスを「脱いでしまう」から仕方ないのかとも思うのだ。
ともかく微調整とかに協力してあげないみたいだからね。
ただバルダー家の当主として忙しい部分もあるから…
なんて言って甘やかされているから「戦時下」に必死になって、
「調整する」羽目になったと感がえるべきなのかもしれない。
多少着ている衣服が乱れようと今日もこの指令室から出る事は無いのだから、
問題はないのだと割り切って…
けれど「同時」に戦時中にドレス仕立てる?・修正する?余裕がある事を、
周囲に教える役割もあるのだから仕方がない。
何せ初めての実戦だったのだ。
都市を包む空気は重く当然の様に皆が不安になっている。
その中で、何時もはしない「針子さんとデザイナーさん」を呼び出して、
ひと際美しいドレスを作ると言う事を喧伝する。
それは都市を統べる代表者にはまだまだ余裕があると言う触れ込みでもある。
リチェルチェに使えるメイド達は主の豪胆なドレスの調整を喧伝し、
ギネヴィアは素晴らしい「ドレス(結界補助器具)」を使って、
休みなく結界を張って下さるから何があっても大丈夫なのだ。
ギネヴィア様はしっかりと私達を守って下さっている。
私達を見捨てたりしない。
という、一種の偉大なるリーダーとして認識されるきっかけとなっていた。
リチェルチェの若バルダー夫妻のプロモーションの一環のような形で、
今晩の事はメイド達によって広められ羨望の眼差しが増える事だろう。
おめでとうギネヴィア。




