え?再交渉なの??
「上陸船こちらの港に向かって動き始めました」
「そうか。ではエルゼリア様お出迎えと言う事で、
宜しいでしょうか?」
「仕方がないわね。
あの船に何が残っているかによって考えましょう」
砲撃で荒れた内海は容赦なくその上陸船を揺らし、
乗っている人々は必死になってオールを漕ぎながら旗艦から離れて、
向かう先は言うまでもない。
随伴船の方へは向かってくれず上陸する為に大きな旗を振りながら、
戦意がない事を示しつつ砕かれた船体破片をかき分けながら、
死体の浮かんだ最悪の海上を進み続けたのだ。
上陸船に乗船した人はそれだけてひいひい言っていたに違いが無かった。
けれどその死体と粉々になった木造帆船の合間を掻い潜ってでも、
上陸するしか選択肢はなかったのだ。
全滅か交渉かそれがデルフィナス王国に残され許された、
選択肢に他ならなかったのである。
既に勝敗は決まった様な物であり、
相手旗艦と随伴艦の砲撃は此方に届かない。
そしてこちらは湾内から逃げるまでにいくらでも、
砲弾の雨を振り注がせる事が出来るのだ。
さて…
荒波の中を渡って来た上陸船は、言うまでもなく、
初上陸した場所に対して接岸したらしい。
それから必死になって停戦交渉をさせてほしいという事を訴えてきたのだった。
案内したのは当然岸壁付近に作った仮設の会場であって、
現在私達が話し合いをしてる仮設の指令室等でなかった。
私達の安全という事も考慮されて誰てあろうと、
初対面の女性だろうと当然、近付く事は許さないと言うのが、
アルフィンの考えの様だった。
その会場であるがもしもあの旗艦の大型船舶が砲撃をしてきた場合、
巻き込まれ交渉人の命はない場所でもある。
とはいえ、海岸線に張り付いていたグラファイスを抜いたとはいえ、
その部下によってローテーションを組まれ24時間休みなく旗艦は見張られている。
旗艦や随伴艦が砲撃してきても楽に対処できる人員は港に、
張り付けたままなのだけれど。
前線(笑)のど真ん中で交渉を始める事になったのだった。
仮設の室内とこちらの指令室には、伝声管の一部が繋げられて用意されていた。
これからは姿は見えなくとも生の声を聞きながら様子を観察できるように、
手配は完了済みだったのだ。
相手側の人員は交渉人として来ていた男性が数名と、
やたらとゴージャスなドレス姿に顔を隠すための被り物をしている女性が二人。
その女性に付き添う様に平均的?なメイドが6人と、
武装をしている人はいないけれど、女性の付き人はいるとの報告を、
仮設の交渉会場にいる文官が細かな補足情報を話してくれていた。
あくまで「王国のドレス」の常識に当てはめるのであれば、格式は高そうとの事。
オースヴァインのドレスは他国と張り合う為に作られた物だから、
それと同等と言うのなら女性の立場はそれ相応の人物なのだろうとは思う。
リラーナやリチェルチェが直接見ればきっと立場も良く解るとは思うけれど、
当然危険な交渉の場となっている会場に彼女達に向かってもらって確認するなんて、
させられる訳が無いのだ。
交渉に来た人々の質は変わらず非戦闘員の様な女性と、
あの傍若無人だった理解不能な交渉人との再度の交渉と言う形となる。
始まる前から決裂する事が決定している様な気がするのではなくて、
決裂するしかないだろうと思いながら、私達はその話に耳を傾け始めたのだった。
話始めたのはあの傍若無人な態度を取っていた交渉人で、
その会話の内容もなんとも言えない内容だった。
いや、想定内の会話が始まったと言うしかないかもしれない。
私達のいる指令室へと伝声管を使って届き始める交渉内容。
けれど聞こえる声は耳を塞ぎたくなる言葉しか聞こえてこない状態なのだ。
それでも相手は王国を名乗ったのだ。
彼等の「言い訳」なんだか「交渉」なんだかを聞く事にしたのだった。
第一声にでてきた言葉から意味が解らなかった。
「貴殿らの力はよく理解した。
この辺りで再度交渉に入るのも良いタイミングだと思うのだ」
この言葉だけで反応を疑わなくてはいけない言葉の応酬だったのだけれど、
その理解不能な言葉を喋らせ続ける事にしたのだった。
ともかく言い分を全て聞いてやってそれで判断というか…
処断してやれば良いのかと思ってしまったのだ。
「停戦交渉」として始められたこの舞台で交渉人の男性は、
理解不能な持論と言うかお国紹介を始めたのだ。
「我がデルフィナス王国は由緒正しい王国で、
素晴らしい方々に統治された豊かな国なのだ。
その王国の交渉人である私がもう一度交渉の席に着く事になった事に、
貴殿らは感謝しなくてはいけないのだぞ」
はて?この交渉人さんとやらは一体私達に何を言いたいのか解らない。
そして何より2度交渉につかなかったのは、
いつも交渉が終わった後に砲弾を叩き込んで壊滅させていたのだと、
宣言しているに他ならないのだが?
つまるところ今まではまともな「反抗や反撃」を受けた事がないと、
言っている事に他ならない。
伝声管から聞こえてくるその聞くに堪えない会話を聞き続ける必要があるのか、
私にはちっとも伝わって来ない。
まぁ一国の交渉人が下でに出る事は許されていないのかもしれないのだけれど、
その事を察して交渉を穏やかにすのならせめて帆船から発射された砲弾が、
此方に降り注ぐ前にするべきではなかったんじゃなかろうかと、
頭を抱えるほかないのだ。
指令室内部で聞くそのダラダラと流れ出る言葉を聞きながら。
アルフィンが呟くのだ。
同時に戻って来たグラファイスがその場でアルフィンと相談を始めてしまう。
「潰すか」
「聞くに値しない言葉だな」
「時間の無駄でしょう」
「よほど怒らせたいのだろうよ」
「意味が解らない」
皆が皆そう言った反応しか出来ないのは仕方がない。
グラファイスとアルフィンは既に交渉を打ち切りたいと言い出しそうだったのだが、
それでも、後ろに控えている「ドレス姿の人」がいる様なので、
その方々に見えを張る必要があるのかとも考えてあげて、
私は首を横に振るしか出来なかったのだ。
次の瞬間その石はトントンと伝声管を叩いで、向こうに伝えられる。
けれど、この交渉の場を変えようとするつもりは交渉会場の人間達にはないらしく、
「大海原を航海する巨大な船舶を見ただろう?
我らの力は相当な物なのだ!戦う為に両舷には無数の大砲が取り付けられていて、
一度発射体制を取れば、敵を完膚なきまでに粉砕できる力があるのだ!
まさか…
先程港湾部に打ち込んだ砲撃が全力だなんて思わない事だな!
本気を出せば今降らせた砲弾の2倍!いや!違うな!
5倍の砲弾を浴びせる事が出来るのだ」
その説明を聞いて私は更に頭を抱えるしかなかったのだ。
その御立派な戦艦は既に半数以上沈められて海の藻屑になっているのだ。
その現実を水にこの交渉人は交渉を続けようとでも言うのだろうか…
これ以上説明を聞くかどうか本気で悩まざるを得ないのだが…
打ち切らせたいとしか思えない言動しか漏らさない交渉人にいい加減、
聞いているのも苦痛に感じて来てしまったのだ。
脅しも何もない終わらせてしまっても良いわよね?
チラリとギネヴィアを見ればその顔はもうウンザリって感じで、
大きなため息すら聞こえてくるのだ。
私は扇子をトントンと叩いて無言で意思表示をアルフィンとグラファイスに、
示したのだった。
その私の反応に二人は当然の様に頷く事しかしないのだ。
二人とも反論もないらしい。
私の指示はただ一つ。
―終わりにできる準備をしなさい―
ただそれだけだったのだ。




