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婚約破棄されても慌てない。何故なら… 

「エルゼリア!貴様との婚約を破棄する!」


それは突然に言われた事だった。

学園の卒業パーティーで突然の宣言。

もちろん周りは混乱していた。

そもそも私の目の前で私の名前を叫んだこの男。

公爵家の長男で偉い人の御子息だ。

名前は…


「カーディル・ボルフォード様?

婚約破棄で御座いますか…

それは大変な事ですね。」


婚約破棄?

という事が私には解らなかった。

だって私は婚約なんてしていない。


…と思い込んで生活していた。

一種混乱状態で。

そしてこのカーディル様の隣には、

可愛らしいお嬢様がいらっしゃる。

男爵令嬢で素晴らしく愛らしい。

男を虜にして垂らし込む事に関しては、

素晴らしい才能をお持ちの令嬢だった。

まぁ素敵。

どんな才能だって無いよりあった方が良い。



「ねぇギネヴィア?私婚約していたの?」

「…一応ね。していたわ。」

「そうなの?」

「そうなのよ…」

「へぇ。すごいわね」

「エルゼリア…」


こと、取り巻き兼親友のギネヴィア・バルダーに私は尋ねた。

ギネヴィアはため息交じりで答えてくれる。

けれどギネヴィアは気づいている。

私がとぼけている事も、

そして婚約破棄なんてどうでも良いって思っている事も。




さて、ここでひとつ私が落ち着いている理由を話そうか。

私はこのシーンを知っているのだ。

ここでヒロインが登場して

私ことエルゼリア・ファルスティンに婚約破棄を告げる事を。

だから私は慌てない。

あぁ、やっぱりするんだなって思っていた。

まあそれだけが理由ではないのだけれど。

ゲームの中では…



私の家ファルスティンは伯爵家。

けれど家は、借金がかさんで火の車で大変な事になっている、

辺境の1領主の娘という事になっていた。

辺境の暮らしは貧しくてその辺境を取りまとめるファルスティン家は、

色々と苦労していた。

けれど支援してもらえる貴族同士の繋がりはなかった。

そんな中、エルゼリアが生まれて彼女は同年代と比べて優秀だった。

貴族として立派な淑女に育っていた。

そんな時にそんな時にこの国の公爵家の息子であるボルフォード家の長男が…

一人息子の為、甘やかされて育ったカーディルが色々問題を起こすようになる。

簡単に言ってしまえば教育に失敗しましたって言ってしまっても良いと思う。


んでその果てに魔法を使って傷害事件等を起こしてしまったのだ。


「力の使い方を誤って行使してしまった。

恥ずべき行いをしてしまったのだ」


なんてカッコよくオブラートに包んで、いい訳をしていたのだけれど、

相手方に一生の傷を負わせてしまったらしい。

幸いなことに?傷を負ったのが平民だったから、

公爵家の力でその事をもみ消して何もなかったことにしてしまった。

けれど、そのせいで同格の娘を持つ貴族は、

カーディルとの婚約を渋る様になってしまった。

何をされるのか解らないからね。

同格の家なら、もちろんそんな危険な子の婚約者にして万が一なんて考えたらね。

大切な娘を嫁がせるなんて判断は、まともな両親だったら出来ない。

そう判断される程度にはカーディルの評判は悪くなってしまっていた。

けれど公爵家としても一人息子のカーディルに婚約者がいないのは、

家の格としても長男と言う立場としても問題があるとされてしまう。

年齢が上がって婚約者の一人もいないのは、

不味いという事になって何とか婚約者を探した。

公爵家と家が釣り合う事が優先される事だけれど、

それ以上に教育を失敗したカーディルのフォローが出来る令嬢が必要だったんだ。

でなければ公爵家の顔に泥を塗る事になるのだから。


そして見つけ選ばれたのが私エルゼリアが見つけられたと言う訳だ。


公爵家の威厳を守るために、

カーディルの代わりに泥をかぶり汚れ役を強いたとしても、

権力でもみ消せて、どうとでも辻褄を合わせる事が出来る都合の良い格下の令嬢。

ボルフォードにとって都合の良い令嬢。

もしも失敗したとしても多額の資金を援助する事さえ約束すれば、

いくらでも不都合が書き消せる正に大人にとっても都合の良い丁度良い子。

それがエルゼリアだった。


苦しい実家を支援する代わりにカーディルという狂人の生贄として、

婚約者に祭り上げられ泥をかぶる役を了承させられた訳だ。


最大限の支援をして貰う為にボルフォードからの無茶な要望に応えて、

少しでも多く実家に物資を貰う為に生贄として捧げられるエルゼリア。

公爵家に嫁いでそこで何とかカーディルの子供を産み、

公爵家を次世代に繋げると言う大役を押し付けられる。



何も考えないバカな、カーディルに代わって全ての不都合を解消するように、

全ての責任をエルゼリアに押し付けたのだ。



カーディル・ボルフォードはその時点で、

どうしようもなく「屑」と表現していいほど荒れていた。

好きに生きていた。

自分を国王と勘違いしたかのような言動に、

人の話を一切聞かない我儘な性格。

それは簡単に言えば俺様カッコイイ俺のやる事は正義。

他者がやる事は全て間違い俺様はエライのだ!みたいな感じで。

完全に、善悪の基準が狂った「可笑しな正義」を、

公爵子息の権力を振りかざして暴れ回る状態だったのだ。


いくらエルゼリアが優秀だったとしても、

矯正なんて同い年の少女が出来るはずもない。

肥大化した自尊心を満足させるために、

カーディルは暴走し続ける。

エルゼリアは必死にカーディルを止め、

周りの人達へフォローをし続けるのだった。



婚約破棄される訳にはいかない。

故郷の皆を路頭に迷わせるわけにはいかない。

彼女はそう思い自分を殺してカーディルに尽くす。

文字通り命がけで。

学園に通うようになるとカーディルは一人の女の子に心を引かれていく。

それは男爵家の娘として引き取られたヒロインだ。

ソフィア・マリスが登場し天真爛漫な姿を彼に見せる。

口うるさく貴族の義務を語るエルゼリアにカーディルは、

嫌悪感を抱くようになる。

けれどエルゼリアは諦めない。

諦められない。

婚約破棄されたら実家が困ってしまう。

援助を得られなければ家族は領地の人間は路頭に迷って…

みんな大変な事になる。

だから我慢して、我慢して、付き従うエルゼリア。

何とか彼を良い方に導くために必死に説得するエルゼリア。

けれどその口うるささと貴族としての立ち振る舞いを、

強制しようとするエルゼリアに最後はカーディルが切れてしまった。

そして当てつけの様に恋していたソフィアと結ばれるために、

卒業式のパーティで大衆の面前で…

エルゼリアとの婚約を破棄してしまうのだ!

灰色に近い違法ギリギリの事にまで手を出して、

何とかカーディルの心を自身に向けようと頑張るエルゼリアは、

乙女ゲームの中ではしっかりと悪役として描かれ、

素晴らしいヒロインとヒーローの敵役を演じ切る事になる。



で、


乙女ゲーではそのあとヒロインであるソフィアとカーディルは結ばれて、

幸せに暮らしましたとさ。

なのだ。

後日談では公爵家で着飾ったソフィアとカーディル様が、

幸せなお茶会をしているシーンで終わりなのである。

それは素敵な乙女ゲームの結末としては問題のない物なのだ。

しかしそれを許せるのはヒロイン達だけでもある。


エルゼリアからすれば、


え?これで終わりなの?


である。


貴族の義務とかは全て置き去りにして、

それだけ見せつけられて終わりだ。

まぁ、ゲームならそれで良いのだろうけれど…

ヒロイン達は幸せに暮らしましただから何も問題ないのだけれども。

現実は美しいスチル一枚見るだけでは終わらない。

終ってくれない。



パーティ会場で大声で宣言されたその言葉から始まる、

断罪は後に引けない無かった事に出来ない茶番が始まる宣言であり、

ゲームでは語られない色々な所で生まれた歪がその一言で限界点を迎え、

その余波は色々な所に波及する合図ともなるのだ。


さて、ゲーム云々はともかく私のいる場所と立ち位置は

乙女ゲームと同じ場所での断罪であり、

私は幸せ主人公ではなくて婚約破棄されるエルゼリアな訳で…


けれどオロオロと震え困惑してカーディルに縋りつき、

理由を教えてと言いながら慈悲を請わなければいけない哀れなエルゼリア…

ではなく。


どうにかして公爵家に嫁いで実家の支援を確約しなければいけない、

追い詰められみっともなくあがき続けなければいけない、哀れな伯爵令嬢…

でもなかったりする。




べっつに?私は焦っていないのだ。

だって焦る必要がない。

私は公爵家に金で買われた婚約者という事になっている。

一応はね。


しかし実際実家のファルスティンは金銭的に困っていないのだ…

婚約破棄されても構わない。

どうにでもなーれって奴だ。




ーだって私の故郷は別に支援をして貰わなければならない様な状態ではないから―




そう乙女ゲームとは前提条件からして違っていたのだ。

原因は何を隠そう親友のギネヴィア…

ではなくギネヴィアの父、

ゼファート・バルダー男爵という人の所為だった。

私のお父様アネス・ファルスティンの弟だった、

ゼファード叔父様はおじいさまから男爵位を譲り受けて、

領内にお屋敷を立てて独立?すると、

そのままファルスティン領内で色々な事を始めてしまったらしい。

どうやら叔父様は転生者みたいだった。

そしてその知識と魔法を使って辺境で産業革命を起こしてしまった。

いまや辺境は辺境なのだが…

蒸気文明の上位バージョン、スチームパンクな世界が、

お父様の領地には展開してしまっている。

その噂はここ王都にも届いてはいるのだけれど、


「魔法」を産業に取り入れたその考え方は貴族らしくないとかで、


「尊い高貴な存在が使う魔法をそんな事に使うとは、常識知らずの男だ」


なんて評価をゼファード叔父様は受けていた。

異質な貴族が領内にいる。

常識知らずの貴族に関わっては駄目だというレッテルで、

叔父様の存在は周りの領地からは一線を引かれた人になってしまった。

けれど叔父様はそんな事は気にしていなかった。

開拓を進め地質を変え技術を発展させファルスティンという土地を、

人の住める土地してしまった。

周囲の評価なんてどうでも良い。

関係ないとばかりに土地の開発を進めた結果、

ゼファード叔父様はアネスお父様を支えて、

王都にも引けを取らない発達を領地内に与え続けている。

そこには寒さと飢えに苦しみながら必死に生きる領地はないのだ。


…なので、私は別に婚約破棄されても困らないのだ。


そもそもほとんど「支援」は受けていないと言ってもいい。

私が本格的にカーディル・ボルフォートと向き合う事になって、

王都の学園に通う為に領都から出発する事になった時、

お父様は自分の考えを話してくれた。

そして、これから私がボルフォードとどう付き合っていくのかも。


「一応、中央とのつながりという意味で婚約破棄ぜずにいたが、

もう中央なしでもどうとでもなってしまうから。

何時、婚約破棄しても構わない。

…当人同士の合意があれば何時だって婚約破棄はできるからな。

合意出来れば何時だって動けるようにしておこう」


と、言われてしまう始末で。

全然嫁ぐことを期待されていなかったのだった。


貴族としての義務だからという事と公爵家の婚約者という事で、

私はギネヴィアとこの学園に通ったのだけれど、

領地の方が発展しているお陰で、

不便で仕方がない生活を送る羽目になっていた。


嫌々顔を合わせる事になったカーディル様との語らいも、


「フン。辺境の貧乏人が金ばかりせびりやがって」

お父様は何時金?をせびったのでしょうね?


「おい!婚約者だろう。俺の代わりに席を確保しておけ」

私は婚約者なだけで召使ではないのだけれどねー。


「教師から渡された課題だ。やっておけ」

この程度?のを課題を私にやらせるってどれだけ頭足りないの?


等々、言われたい放題だけれど一応?婚約者らしいし?

訂正するのもメンドクサイし、

ゲームのシナリオ通りに進んでるなーと思って、

どうせ婚約破棄されるだろうと思っていた私は、

その辺りを本当に適当に処理していた。

真面目にするのもアレで後で突っ込まれたら大変だし。

お陰で私の学園での評判はすこぶる悪い。

対してカーディル様は素晴らしい生徒という事になっていた。



まあ…

それてもう良いじゃない?



ただまぁ気づいてしまったのだ。

私がやらされていた事はヒロインのお願いをかなえる為の裏方だって。

何のことか解らないかもしれない。

けれど考えてみるとなかなか笑えることだった。


乙女ゲームでテンポよく現れる異常な場面。

けれどその場面て演出されなければ絶対に生まれないんだ。

例えば…


薔薇の花びらで埋め尽くされた中庭とか?

ヒロインが着るどう見ても特注のドレスとか?


そういった乙女ゲーの過剰な演出の根源が私のやらされている事だった。

生徒会で優秀なヒロインが出して下さる、

いい加減な計画書を実行可能な状態にするとか。

「音楽祭」「文化祭」「拳闘会」とかもう色々。

めちゃくちゃな思い付きと内容の催し物を開催するために、

私はギネヴィアと二人あっちこっち走りまわった。

長い年月がたった由緒ある学園で何故そのイベントが無かったのか。

町や他の国では開催されているのに、

何故「学園」では開催されていなかったのか。

その開催されていなかった理由も考えもせず簡単に提案をして来るのだ。

そのイベントは面白そうだと言いながら。


そして可愛いヒロインが充実した学園生活を送る裏で、

私はそのイベントを開催にこぎつける為に走り回りイベントを支え続けたのだ。

それも今日で終わり。

やっと学園という場所から解放されるとギネヴィアと喜んでいた所に、


婚約破棄である。


愛しき(笑え)カーディル様との思い出なんてありゃしない。


学園生活はギネヴィアと事務仕事の練習を、

ずっとして来たようなものだった。



「エルゼリア!貴様は俺に相応しくない」

「左様でございますか」

「だからこの時この瞬間を持って婚約を破棄する!」

「婚約破棄、賜りました」



宣言はパーティー会場へ響き渡る。

そして会場にはどよめきが起こるが…

別に私は気にしない。


「今更何言っているのよこの男」状態な私は淡々とカーディル様のお言葉に、

義務的に返答をしてあげるのだった。


まぁ。


破棄されたら領地へ戻って別の誰かと結婚するだけだし。

住み心地も王都より領地の方が数段上だ。

特に公爵領は酷かったし嫁かずに済むのだったらそれに越したことはない。


「悔しいだろう!俺の忠告を聞かなかったからだ。

それに比べて、ソフィアは天使だ!

お前とは違う!」

「では、天使のソフィア様とお幸せになって下さいませ」

「あははは!お前の様な冷酷な令嬢はこの場に相応しくない!

さっさと去るが良い!」

「はい。そうします」


こうして私はそのパーティーを後にした。

なんだか良く解らない学園生活を終えた私は、

正式に婚約破棄を受理して領地であるファルスティンへと、

正々堂々と帰る権利?を手に入れたのだった。


悪役令嬢として…

苦しむとか、

破滅の未来を回避するとかは、

全てギネヴィアのお父様がやってくれてしまったので、

結局、私がしたことは普通の学園生活の裏方作業を行い続けると言う、

じみぃーな事だけだった。





しかし時代は変わる。

変わらざるを得ない。

そしてこれから貴族の意味と尊厳を掛けた戦いが幕を開けるのだ。



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