1話 孤独の終わりと絶望の始まり
痛い――。
体が、頭が、焼けるように痛む。
「そ……うた」
俺の名前を呼んでいる。
でも、体が動かない。意識が霞んでいく――。
三年後
「お前さぁ、大学デビューでいきなり告白って、バカなん?」
「いや、なんか運命を感じたというか……」
「運命感じて振られるって、ダサすぎん?」
「うるせぇ、心の傷がえぐれる!」
大学近くのファミレス。俺の向かいにはカズ、健斗、大智――俺の“いつメン”が座っている。
テーブルには食い散らかされたポテトとドリンクバーのコップの山。そして、俺の心の傷が抉られる会話が飛び交っていた。
そう、なんでこんな話になっているのか――とりあえず大学入学初日まで遡る。
「行ってきます、父さん」
三年前に交通事故で亡くなった父の遺影に向かい、俺はそう声をかけた。
鏡に映る自分の顔を見る。目の横に残った傷跡――事故の後遺症だ。
あの日、飲酒運転の車が逆走してきた。
父がとっさにハンドルを切ったことで正面衝突は免れたが、それでも側面に激突された。
車はスピンし、俺はシートベルトが外れた勢いで車外へ――。
視界がぐるりと回転し、地面が迫る。
次の瞬間には、何もかもが暗転していた。
その事故で、父は帰らぬ人となった。
俺は奇跡的に生き延びたものの、顔に大きな傷を負った。
でも、それ以外は普通の大学生。
今日から始まる新しい生活。
まぁ友達もできないだろうし、あまり期待はしないでおく。
高校のこともあるもんな。
高校二年になったばかりの頃。
俺の周りから人がいなくなった。
理由は大体わかってる。顔の傷だろう。
一年の時に事故に遭い傷ができた。最初は、誰も気にしていないと思いたかった。
でも、二年になり、新しい人と絡むとやはりダメらしい。
「……蒼大、お前さ……いや、なんでもない」
クラスメイトが話しかけようとして、躊躇う。
結局、気まずそうに離れていく。
傷を負った俺は、まるで腫れ物だった。
事故とはいえ、事件性を疑う者もいたし、大切な人を亡くしたばかりの人間には、どう接すればいいのかわからないのだろう。
「一緒に飯、食おうぜ」
そう声をかけてくれた数少ない友人もいたが、俺はそれすらも拒絶した。
「……悪い、ほっといてくれ」
どうせ、すぐに離れていく。
結局、一年の頃仲良くしていた連中も、いつの間にか俺を避けるようになり、俺は孤立していった――。
そんな高校時代があったから、大学に入っても同じだと思っていた。
でも――
「よう! お前、暇?」
入学してすぐ、やたらと馴れ馴れしい男が話しかけてきた。
「……いや、別に」
「んじゃ、飯行こうぜ」
「は?」
それが、カズだった。
こいつはなんというか、距離感がバグってる。
俺が冷たくしても全然めげないし、むしろ俺を避けるどころか、ガンガン話しかけてくる。
「なあ、お前、意外と真面目だよな」
「は?」
「いや、なんかもっと冷めてるかと思ったけど、普通に話してみたらツッコミ気質じゃん」
「お前のボケが雑すぎるだけだろ……」
そんな感じで、気づいたら俺の周りには、カズ、健斗、大智というメンバーができていた。
カズはなんか掴みどころのない奴で、意外と賢いけど適当なことばっか言う。
健斗は面倒見がよくて、大智はちょっと天然っぽい。でも、カズ以外の二人は彼女がいるらしくて、恋愛トークになるとやたら盛り上がる。
「蒼大は好きな子いないの?」
ある日、大智がそんなことを聞いてきた。
「いやー、俺はまだ……」
適当に流そうとしたけど、ふと視線の先にいた、一人の女子が目に入る。
「あの子、可愛くね?」
「お、蒼大の好み発見」
カズがにやけながら俺を小突いてくる。
「……別にそういうわけじゃねえよ」
そう言いながらも、視線は彼女――あかりを追っていた。
そしてファミレスに向かう3時間前
俺は決心した。
高校時代、傷が理由で人が離れていった。
でも、大学では違う。カズたちは気にしなかったし、あかりだってきっと――。
「好きです! 俺と付き合ってください!」
俺の前で、あかりは一瞬驚いた顔をした。
次の瞬間――
「えっと、ちょっと受け付けないっていうか、なんというか…」
心が折れる音がした。
「いやいやいや、ちょっと待て! せめて『ごめんなさい』とかあるやろ!」
「いや、無理。なんか無理。」
叫びたい。でも、喉が声を出すどころか、乾いて張り付いていた。
結局、俺はただ立ち尽くすしかなかった。
周囲の視線が痛い。いや、痛すぎる。
これが人生初の告白ならまだしも、こんな盛大な失敗を大学デビューでやらかすとは――。
こうして俺の“恋愛デビュー”は、最悪の形で幕を開けた。
そして時は現在
「……で、お前、告白して即死したわけね」
ファミレスでポテトをつまみながら、カズが呆れた顔をする。
「もうちょいフォローとかないん?」
「いやいや、お前の潔さには逆に感動したわ」
「くそ……心の傷が抉れる……」
大智と健斗は笑ってるし、カズは「ま、次頑張れや」と肩を叩いてくる。
俺の“青春”って、こんなもんだったっけ……?