表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
其のキズ  作者: 尾骶骨
1/2

1話 孤独の終わりと絶望の始まり

痛い――。

体が、頭が、焼けるように痛む。


「そ……うた」


俺の名前を呼んでいる。

でも、体が動かない。意識が霞んでいく――。


三年後


「お前さぁ、大学デビューでいきなり告白って、バカなん?」


「いや、なんか運命を感じたというか……」


「運命感じて振られるって、ダサすぎん?」


「うるせぇ、心の傷がえぐれる!」


大学近くのファミレス。俺の向かいにはカズ、健斗、大智――俺の“いつメン”が座っている。

テーブルには食い散らかされたポテトとドリンクバーのコップの山。そして、俺の心の傷が抉られる会話が飛び交っていた。


そう、なんでこんな話になっているのか――とりあえず大学入学初日まで遡る。


「行ってきます、父さん」


三年前に交通事故で亡くなった父の遺影に向かい、俺はそう声をかけた。

鏡に映る自分の顔を見る。目の横に残った傷跡――事故の後遺症だ。


あの日、飲酒運転の車が逆走してきた。

父がとっさにハンドルを切ったことで正面衝突は免れたが、それでも側面に激突された。

車はスピンし、俺はシートベルトが外れた勢いで車外へ――。


視界がぐるりと回転し、地面が迫る。

次の瞬間には、何もかもが暗転していた。


その事故で、父は帰らぬ人となった。

俺は奇跡的に生き延びたものの、顔に大きな傷を負った。


でも、それ以外は普通の大学生。

今日から始まる新しい生活。

まぁ友達もできないだろうし、あまり期待はしないでおく。


高校のこともあるもんな。


高校二年になったばかりの頃。

俺の周りから人がいなくなった。


理由は大体わかってる。顔の傷だろう。

一年の時に事故に遭い傷ができた。最初は、誰も気にしていないと思いたかった。

でも、二年になり、新しい人と絡むとやはりダメらしい。


「……蒼大、お前さ……いや、なんでもない」


クラスメイトが話しかけようとして、躊躇う。

結局、気まずそうに離れていく。


傷を負った俺は、まるで腫れ物だった。

事故とはいえ、事件性を疑う者もいたし、大切な人を亡くしたばかりの人間には、どう接すればいいのかわからないのだろう。


「一緒に飯、食おうぜ」


そう声をかけてくれた数少ない友人もいたが、俺はそれすらも拒絶した。


「……悪い、ほっといてくれ」


どうせ、すぐに離れていく。


結局、一年の頃仲良くしていた連中も、いつの間にか俺を避けるようになり、俺は孤立していった――。


そんな高校時代があったから、大学に入っても同じだと思っていた。


でも――


「よう! お前、暇?」


入学してすぐ、やたらと馴れ馴れしい男が話しかけてきた。


「……いや、別に」


「んじゃ、飯行こうぜ」


「は?」


それが、カズだった。


こいつはなんというか、距離感がバグってる。

俺が冷たくしても全然めげないし、むしろ俺を避けるどころか、ガンガン話しかけてくる。


「なあ、お前、意外と真面目だよな」


「は?」


「いや、なんかもっと冷めてるかと思ったけど、普通に話してみたらツッコミ気質じゃん」


「お前のボケが雑すぎるだけだろ……」


そんな感じで、気づいたら俺の周りには、カズ、健斗、大智というメンバーができていた。


カズはなんか掴みどころのない奴で、意外と賢いけど適当なことばっか言う。

健斗は面倒見がよくて、大智はちょっと天然っぽい。でも、カズ以外の二人は彼女がいるらしくて、恋愛トークになるとやたら盛り上がる。


「蒼大は好きな子いないの?」


ある日、大智がそんなことを聞いてきた。


「いやー、俺はまだ……」


適当に流そうとしたけど、ふと視線の先にいた、一人の女子が目に入る。


「あの子、可愛くね?」


「お、蒼大の好み発見」


カズがにやけながら俺を小突いてくる。


「……別にそういうわけじゃねえよ」


そう言いながらも、視線は彼女――あかりを追っていた。


そしてファミレスに向かう3時間前


俺は決心した。


高校時代、傷が理由で人が離れていった。

でも、大学では違う。カズたちは気にしなかったし、あかりだってきっと――。


「好きです! 俺と付き合ってください!」


俺の前で、あかりは一瞬驚いた顔をした。


次の瞬間――


「えっと、ちょっと受け付けないっていうか、なんというか…」


心が折れる音がした。


「いやいやいや、ちょっと待て! せめて『ごめんなさい』とかあるやろ!」


「いや、無理。なんか無理。」


叫びたい。でも、喉が声を出すどころか、乾いて張り付いていた。

結局、俺はただ立ち尽くすしかなかった。


周囲の視線が痛い。いや、痛すぎる。


これが人生初の告白ならまだしも、こんな盛大な失敗を大学デビューでやらかすとは――。


こうして俺の“恋愛デビュー”は、最悪の形で幕を開けた。


そして時は現在


「……で、お前、告白して即死したわけね」


ファミレスでポテトをつまみながら、カズが呆れた顔をする。


「もうちょいフォローとかないん?」


「いやいや、お前の潔さには逆に感動したわ」


「くそ……心の傷が抉れる……」


大智と健斗は笑ってるし、カズは「ま、次頑張れや」と肩を叩いてくる。


俺の“青春”って、こんなもんだったっけ……?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ