私たちも「ひやあつ」
「ひやあつ」や「あつひや」がなんなのか考えているとメニューの右下の方に書いてあった。
麺と出汁の温度を表しているようで前が麺、後ろが出汁になっているようだ。
「何にするか決まった?」
「このひやあつのにしようかな」
「じゃあ、私もそれにしよっと」
「別に合わせなくても」
「そういう気分だったの」
あれ?なんかこういう会話前にもしたことがある気がする・・・・・・
もう触れないようにしよう。
「でも私たちもひやあつだよね」
「え?」
凛花が訳の分からないことを言い始めた。
「私がアツくても僚太くんはヒヤッヒヤじゃん」
人のことを氷人間みたいに言いやがって・・・・・・でも否定は出来ない。
自分が冷めている自覚はある。
「逆に僕がアツくなったら嬉しいの?」
「う~ん、私は受け入れるよ?」
「私はって言っている時点で他の人から見たら異常に見えるってことだろ」
「それは・・・・・・うん」
否定しようとしたが出来なかったのだろう。最後のうんに力が入ってなかった。
◆
あの後店員さんを呼び注文まで凛花が済ませてくれた。
初対面の人に注文も出来ないほど人見知りではないが、大抵の店員さんが暗い感情を持って仕事をしているため表面の笑顔とのギャップは苦手だ。
笑顔の裏に何かありそうではなく本当に何かあるのが分かってしまうためちょっと辛い。
ただ、今日の店員さんは面白かった。
初めは愚痴っぽくカップルかって感じだったが徐々に羨ましい感情に変わっていき、最終的に自分では無理だろうと落ち込んでいた。(落ち込みしか伝わらなかったが多分これで正解だろう)
◆
『いただきます』
一口目は同時に口にする。
言語化は出来ないがとても美味しいうどんだった。正直に言うとここまでだとは思っていなかった。
というのもうどんは具材もほとんど変わらないだろうし、出汁もうどんにあうものを作ればおのずと似たり寄ったりになるだろうと考えてえいた。
しかし、これはまず麺の違いから感じる。
コシが強いってどういうこと?って感じだったがこれなのかと理解できるほどだ。
出汁も何かはわからないが魚介系の香りが引き立っており美味しかった。
とても、美味しくて会話をすることをというよりも凛花の存在を忘れるほどに。
結局食べ終わるまで会話はなかった。
「僚太くんがアツだったね」
うどんに夢中になっていたからだろう。
それには会話をして欲しかったという念も込められていることはすぐに察した。
「悪かったって」
「私に対してアツになってくれたら嫉妬する必要ないんだけどな~」
いや、うどんに嫉妬ってそれはな・・・・・・
あれ?嘘でもからかいでもない。
言葉から嘘ともからかいでもないことがわかり困惑する僚太であった。