表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/197

勝ち逃げ

「男女一人ずつコート整備よろしく」

そう言って先生は去っていく。こういう時はじゃんけんで決めるのが一般的だ。

『最初はグー!じゃんけん、ポン!』

結果から言おう。示し合わせていたかのように一発で僕に決まった。

「じゃ、お先ー」

「よろー」

「がんばれー」

自分が勝って上機嫌なのか普段話さない人達から労いの言葉をもらう。

「先着替えていつもの所で待ってるから」

「了解」

貴史もさっさと教室に着替えに帰ってしまった。

この学校は校則で制服で帰らなければならないと決められている。

そのため早く着替えて帰りたいというのが皆の心情であった。

その動機が勉強をするためなのかは怪しい所である。



小さなため息を吐きながら倉庫に入り、整備用のブラシを手に取る。

見た目はトイレの清掃用ブラシの大きいバージョンだ。ただそれとは比較できないほど重たい。

といっても片手で持ち上げられるほどだが、あの軽いトイレのブラシを想像していると持ち上げられないだろう。

そんなブラシを持ち上げていると、

「奇遇だね」

いつの間にか隣に凛花が来ていた。

「負けたの?」

「勝ったけど負けた子と変わってあげたんだ」

普通だったら優しいなと思うのだが、最近の凛花を見ていると僕がすることになったから変わったんじゃないかと思ってしまう。

「そうなんだ」

「興味なさそうだな~・・・・・・どっちが早くコート整備出来るか競争でもする?」

「しないよ。勝率低いしやるメリットがない」

「じゃあ、僚太くんが勝ったら今日の帰ってからの勉強無しで良いよ」

それなら確かにメリットはある。しかし、勝てる可能性は低い。

「やってもどうせ負けるから」

「挑戦しないと始まらないよ」

それは物理的なものだった。倉庫の入り口に立ち塞がっていた。

やると言わないと出してもらえないのだろう。

「わかったよ」



「よーい、ドン!」

凛花の掛け声と共に同時に走り出すどちらも片手は後ろでブラシを引きずっている。

横にグネグネと引いていく。徐々に差は開いていき・・・・・・


凛花の圧勝で幕を閉じた。

「勝ったから何かお願いして良い?」

「そんな条件聞いて・・・・・・」

「後で何か考えとくね」

まだコート整備が終わっていない僕をおいて走り去っていった。

これが勝ち逃げというものなのだろうか。すごく卑怯だ。

そう思いつつもあと少しだったコート整備を終わらして教室に戻り着替えを済ませた。

明らかに僕が一番遅いため急いで自転車置き場に向かう。

もう二人は揃っていて何か話しているようだったけれど僕が来ると同時にすぐに裏門を出て帰ることになったから内容はわからなかった。



貴史が自転車置場で待っていると凛花が来た。

「あ、広川くん、僚太くんはもう少しかかりそう」

「そうですか・・・・・・美奈子さんから大体の事情は聞いています。何故打ち明けないんですか?」

「それは・・・・・・怖いんです。忘れられていないのは確認できましたけど、それでもやっぱり・・・・・・」

「今まで僚太を見てきましたけど彼は絶対約束を守りますよ」

「それじゃ意味がない!あ、すみません・・・・・・私は確かに昔の約束を覚えてますけど、それが理由で告白した訳じゃないんです」

「でも、今のままだとその約束を理由に断られ続けますよ?」

「私も今のままじゃダメってことは理解してます。でも・・・・・・」

「お待たせ」

遠くから聞こえた僚太の声によって二人の会話はそこで幕を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ