りょうちゃん
お風呂から出て自室に戻ってきた。
今日は強制的に勉強をさせられたから少し疲れている。しかし、元々する予定だった内のゲームだけは意地でもやろうと思っていた。やはり、あのガチャの結果では納得できない。
パジャマのポケットに入れていたスマホを取りだし電源をつける。
そのままパズレンを開いたのだがそのタイミングでノックが聞こえた。
最近の傾向的に凛花である可能性が高い。それに、両親は来る理由がないはずだ。
勉強のことは凛花にお任せという立場をとるようだし、ゲームもあれから大きな動きはないためお父さんも来ないだろう。
凛花だと確信できたときこれから寝るまで勉強させられるのではないか、と考えてしまった。
お母さんが野宿まではさせないと思うけど真面目な凛花は真に受けている可能性もある。
これは寝ていたということにしようとノックは無視しベッドの上で横になり薄い掛け布団をかぶる。
その後、何回かノックが続いた後バタンと扉が開く音がした。
その音は少し控えめで小さかったことから寝ている可能性を考慮していることがわかる。
誰が入ってきたのか確認したかったが寝たふりをしなければいけないため我慢する。
「僚太くん、寝ちゃった?」
その声でやはり凛花であったことがわかった。
ここから寝るまで勉強はさすがに地獄なので寝たふりを続行する。
「おーい」
電気を付けっぱなしにしているため閉じている目の上で何かが動いているのがわかる。
「・・・・・・りょうちゃんとパズレンしようと思ったのにな」
「!!」
りょうちゃんと呼ばれたことにビックリして目を開けてしまった。
「あ、起こしちゃってごめん。僚太くん」
「あ、うん」
あれ?聞き間違いか?でも、さっき確かに・・・・・・
「何か用事?」
あくまで先程まで寝ていたことにしてそう聞く。
「私がいたことに驚かないんだね」
あっ!・・・・・・確かに・・・・・・・・・って何か言い訳考えないと。
「・・・・・・もう慣れた」
「えへへ、嬉しいな」
照れるように笑う凛花につられ少し口角が上がる。
「それで、何か用?」
「急ぐことじゃないからまた明日にする。おやすみ」
「おやすみ」
そしてすぐに部屋を出ていった。
それにしてもあの呼び方は偶々なのだろうか。確かあの子にそう呼ばれると嬉しかったな。
これはまた夢に出てくるかもしれない。
そう思いながら、先程まで目を閉じていたせいか襲ってきた睡魔に身を任せて寝ることにしたのだった。
◆
「だれ?」
「たなかりょうた、きょう、たんじょうびなんだ」
少女の問いに僚太は元気よく答える。
「なんでとなりにすわったの?」
「なんか、さびしそうだったから」
そう言われた少女の目には今にも涙がこぼれだしそうだった。
「・・・お母さんが・・・・・・死んじゃったんだ」
か細い声で少女は言う。それを言い終わる頃には目から涙が流れていた。
少女の告白を受け僚太は目を見開く。
彼は丁度一年前祖父を亡くしていて、その事が思い出されたのだ。
僚太はよく本を読み聞かせてくれる祖父にとても懐いていた。
それだけにその時のショックは大きかった。
もう少し早ければ死という概念を理解していなかったのでダメージは少なかったかもしれないが丁度その事を理解し始めた頃に亡くなってしまった。
そのことが重なり彼もこうやって悲しんだ経験があった。
だからこそ余計にその少女のことを放っておけなくなった。
「さびしいならさ、ぼくがしょうらい、かぞくになってあげる」
大人が初対面の人にこんなことを言えばセクハラと言われてしまうかもしれないが彼らは6歳と5歳。
まだ幼かった僚太が少女の寂しさをどう払拭するか考え出した答えが新たな家族を作ること。
どう家族を増やすのか、そう考えたときに将来結婚すれば増えるということが思い付いた。
「・・・・・・」
少女は何も言葉を発しなかったが流していた涙はいつの間にか止まっていた。
沈黙が続く中、彼はただ少女の隣で寄り添うだけだった。
それは、彼が祖父を失ったとき母親にしてもらったことだった。
その経験があり、それを模倣することで少女の悲しみ、寂しさを軽減しようとしたのである。
「私は___よろしく、りょうちゃん」
◆
気がつくと朝になっていた。
やはり夢で見たが肝心の名前を聞けなかった。
完全に忘れてしまったから見ることができないのか神様のいたずらなのか。
そう考えながら眠たい目を擦りながら準備を始めるのだった。