公園
その後の二時間は午前中よりも少し時の流れが早く感じた。
◆
今日は凛花の家の車に乗って帰るためいつもの裏門からではなく正門から学校を出た。
凛花が率先して前を歩き始めたので何処に向かっているのかは分からないがある程度予測はついていた。
着いた先は正門から真っ直ぐ進んでいき右手に見えてくる道の駅みたいな店だ。
正確には道の駅ではないらしいがほとんどの人の認識ではそこは正真正銘道の駅であると僚太は確信に近いものを持っている。
迎えの車は既に来ていたらしく凛花が車に近づくと後ろの自動ドアが開いた。
ただいまと言いつつ先に乗り込み奥の席に座る凛花。
「田中僚太です。すみません。今日はよろしくお願いします」
「話は聞いてるよ。家の方こそ迷惑をかけて悪いね」
運転席に座る凛花の父親と思われる人物からはフレンドリーな明るさを感じた。
ツーブロックで清潔感があり細長の眼鏡をしていることから仕事が出来る人という印象も与えられる。
そのためか20代と言われても信じられるなと感じる。
高校生の娘がいるのに20代はおかしいが。
「お父さん、あそこ寄って」
「了解」
あそこという辺り何度も行っていることが容易に想像できた。
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その後数分経って到着した場所はこの付近で一番大きい公園。
もうすぐ16時という時間帯だからか以前来たときより人が少ない。平日というのもあるだろう。
何が目当てなのかさっぱり分からないが凛花についていく。
ちなみに凛花のお父さん、誠郎さんは車の中で待っている。
歩いていくと近くにあったベンチにおもむろに座った。
どういう意図なのかわからず近くで突っ立っている僕に隣に座るように説得するかのように隣をバンバンと叩いている。
正直今日はいつにも増して疲れていたため素直に座った。
少しの沈黙が流れた後、先に口を開いたのは僚太だった。
「何しに来たんだ?」
「実は公園のベンチに良い思い出があるんだよね。この公園じゃないけど公園のベンチに座ると元気になってくるんだ」
「変わってるな」
それは正直な感想だった。彼女の言葉に嘘はないということは僚太の能力でほぼ確実だった。
「今日の僚太くん元気なかったでしょ?だから連れてきてみたんだ」
「・・・・・・ありがとな」
「じゃあ、お手洗い行ってくるから先帰ってて」
「お、おう」
僚太が驚いたのは彼女の言葉に照れを感じたからだ。
今までアピールの時に照れなど感じたことはなかった。
突然の照れを感じてしまいこちらまで恥ずかしくなる。
その恥ずかしさを振りきるようにベンチから立ち上がり車に戻った。
◆
車の前に着くと顔を覚えてもらったのかこちらに気づくと後ろの自動ドアを開けてもらえた。
「すみません。ありがとうございます」
「あれ?凛花は一緒じゃなかったのかい?」
「あ、お手洗いに行ってから来るそうです」
そうかと穏やかに笑う誠郎さんだったがその笑顔が少し曇る。
「・・・・・・すまないね。娘に付き合わせてしまって」
「いえ、そんな」
「妻が早くに亡くなってしまってね。寂しい思いをさせてしまってたんだよ。ちゃんと立ち直って前を向いている気がしていたけど今までのそれは勘違いだったのかもしれないね」
「え?」
今まで彼女の言葉から寂しさを感じたことはない。
それゆえに驚いてしまう。
「僚太君の能力、君のお父さんから聞いてるよ。その君が驚いたということは凛花は今寂しさを感じていない、そうだろう?」
普通に自分の能力を受け入れられていることに少し驚く。
「・・・はい、多分」
驚いたのと確証がなかった点が返事を遅れさせた原因だ。
「それは良かった。今日の凛花を見てよく分かったよ。まるで昔の凛花を見ているようだった。あんな笑顔いつぶりだろうな・・・・・・それに気づけなかった僕は父親失格だね」
そう言って情けなく笑う。
その姿を見て僕はそんなことはないと断言できた。
初めは引っ越しを急ぎすぎてみたいな話を聞いたから、せっかちなのか天然なのかと考えていた。
だけど、それは違うということがはっきりわかった。恐らく薄々凛花が立ち直れていないことを察していたのだろう。だからこそ違う環境を用意したのではないかとそう考えた。
「そんなことないですよ。ちゃんと子供のことを見て、しっかり向き合っているじゃないですか。僕はそれだけで立派な父親だと思いますよ」
人見知りの僚太だがきっかけさえつかめれば普通に話せるのである。それをしなくなった理由が僚太の能力で周りから人が減っていったからなのだがそれを知っても普通に接してくれる誠郎さんには話すのをためらう理由はなかった。
「そう・・・かな」
自信なさげに笑うが先ほどまでの曇りはすんと晴れ渡っていた。
◆
あの後すぐに凛花が帰ってきたため家に帰ったのだった。