旅行最終日 2
荷物を持ちながらであるため、そこまで寄り道することなく駅にたどり着いた。
そのため時間的には早すぎる位だ。
「どうする?早めに帰る?」
凛花にそう聞く。
帰りの便は予約していない。
した方が良いのではないかと言ってみたものの心配しすぎだと言われた。
「どうせならここで何か食べてから帰ろうよ」
「それもそうだね」
凛花の何としても帰るのを遅らせたいという気持ちを感じたのは気のせいではないはずである。
◆
「長いようで短かったね」
近くにあった飲食店に入り、テーブル席に案内された。
注文を済ませ料理を待っているところである。
「そうだね」
凛花の言うようにこの旅行中は時間の流れが早かった。
「私の事少しは好きになってくれた?」
僕が旅行中に凛花=りんちゃんということを知り、動揺したのを知っているかのような揺さぶる発言に思わず言葉を詰まらせてしまう。
「・・・・・・」
「答えないってことは好きになってくれたってこと?」
都合よく考えるのは相変わらずらしい。
でも、言われて改めて考えてみた。
僕は凛花がりんちゃんだったから好きなのか、凛花が好きなのか。
それはとても重要だと思う。
前者であるならりんちゃんでないのなら好きではないということになる。
後者であれば、りんちゃんであること関係なく好きということになる。
僕は凛花自信に惹かれているのかりんちゃんに惹かれているのか、はたまた凛花のこれまでの行動から勘違いしてしまっているのか分からなくなってきた。
勘違いというのは凛花の言動から自分も凛花が好きであるという催眠にかかっているというのが正しいかもしれない。
昔、そういう手法で危機を脱するという話が小説にあったから何となく候補に入ってしまった。
しかし、あり得なくはないとも思う。
言葉はナイフになる。
よく言われるものだが、言葉に力があるのはその言葉を発する声から感情を感じる僕にとって日々実感していることだ。
僕は凛花から純粋な好意を言葉と感情どちらともから感じている。
知らぬ間に催眠にかかっているというのもあながち間違っていないのかもしれない。
「どうだろうね」
凛花の問いには曖昧に答えた。
いつもは敢えての中間だが、今回は本当に分からないための中間だ。
「じゃあ、嫌いにはなってないってことだね」
相変わらずポジティブである。
そんな凛花に無意識の内に口角が上がっていた。