甘えさせて
「ごめんね。計画台無しにしちゃって」
冷えピタをおでこに貼り上半身だけ起こした状態の凛花が謝ってくる。
「別にこだわりはなかったから良いよ」
昨日成り行きで決めた計画である。
旅行前から計画していたのならそれだけ楽しみも膨れているかもしれないが、そうではない。
だから、全く気にしていなかった。
「ねえ」
「なに?」
やはり、まだしんどいのか横になり、顔だけこちらに向けて話しかけてきた。
「今日だけ、わがままになっても良い?」
この眼差しにはたとえ凛花がりんちゃんであると知らなくてもドキッとしてしまっただろう。
「良いよ」
そして、おそらく同様の返事をしていただろうと確信する。
凛花がりんちゃんであろうとなかろうと、最近の様々な出来事は凛花がいたために起こったことが多い。
というかほとんどがそうだ。
僕としてはりんちゃんがいるからと苦悩の日々でもあったわけだが、それでも楽しい日々だった。
そんな凛花に少しでもその恩返しをしようと考えただろう。
凛花に恩返しをするのはこういう機会でないと難しい。
朝は必ず凛花の方が先に起きるし、僕が動く前に凛花が行動を済ませているということは多々ある。
それはありがたいことではあるのだが、裏を返せば恩返しをする隙がない。
だからこそこういう機会を逃してはいけないのだ。
◆
「のど飴と氷が欲しい」
まず初めの注文はそれだった。
それを聞きコンビニへ急ぐ。
どちらも先程は買っていなかった。
思ったよりも足りないものがあったようだ。
コンビニに入るとのど飴はすぐに見つかった。
問題は氷である。
冷えピタがあるためおそらく食用の氷を頼んだのだろうと推測できたのだが、単純にそれを探してもなかった。
そのためロックアイスを買うことにした。
お酒に入れて飲むイメージがあるため食べても大丈夫だろう。
そのイメージが正しいのか不安になり調べたところ、そのイメージであっていた。
「はい、氷とのど飴」
「ありがとう」
凛花は横になったままお礼を言う。
「じゃあ、氷を一粒食べさせて」
そう言って顔を上に向け口を開ける。
僕が口元まで持っていかなければならないということだろう。
甘えて良いと言った以上やらなければならない。
しっかり手を洗った後、ロックアイスの封を開け一粒取り出す。
手を洗いに行った時に深呼吸をして落ち着いた状態で凛花の口元に氷を持っていく。
指の先が後ちょっとで凛花の唇に当たる所で合図をして氷を手放す。
深呼吸をして落ち着いた状態になっていたのにその頃には結局心臓がバクバクしていた。