閑話 ゴールデンウィーク
ゴールデンウィークが近づくある日。
珍しく部活中に貴史がボケーっとしていた。
「部長がボケーっとしてる」
「珍しいな、何かあったのかな?」
「案外彼女が出来たのかも」
「ないない、部長ってテニスバカだぜ?絶対テニスのこと考えてるに決まってる」
貴史の様子を見て部員達は好き放題言っているのだが、当の本人には聞こえていない。
その日の部活が終わり貴史は家に帰ってきていた。
そして、お風呂、夕食を済ませ自分の部屋へ。
ベッドに寝転がると、パジャマのポケットからスマホを取りだし、その画面を眺める。
まるでスマホで動画を見ているようであるが、彼のスマホの画面はコネイトのトーク画面だった。
その相手は沙羅である。
そして、送信する文章を打ち込む場所には既に完成した文章がある。
ゴールデンウィークで空いている日はありますか?
彼としては沙羅と会うことについては結構慣れてきている。
しかし、彼から誘って会ったことはこれで2度目であり、まだまだ少ない。
しかもその前回自分から誘ったのはホワイトデーであり、返さなければならないという使命感というものもあったため本当の意味で彼から誘うことは初めてである。
であるからこそ、中々送信のボタンを押せずにいた。
何度か指がそこに伸びかけてはいるが、送信ボタンを押すには至らない。
何を思ったのか、打っていた文章を全て消し、打ち直す。
結局同じ文章になる。
そして、送信ボタンが押せない。
実を言うと昨日から貴史はその行為を繰り返している。
初めはそうなるとも知らずにとりあえず聞いてみようみたいなマインドだったのだが、打ち終えてからは送信すべきかしないべきか真剣に悩み続けていた。
部活中もそれを考えており、いつもよりも練習に力が入らなかった。
そうなったのも全て、昨日の内に送信しなかった自分が悪い。
そう思った彼は一度大きく深呼吸をした後に、おそるおそる送信ボタンに指を伸ばし後ちょっとになったところで速度をあげ、タップする。
また指を引き込ませないためだった。
最悪の場合送信を取り消しそのメッセージを既読になる前に消せば良いだろう。
そう、自分に言い聞かせて送信した。
そして、10秒も経たずそのメッセージに既読が付き後戻り出来なくなったのだった。