前世よりも
「でもさ、人それぞれ前世はあると思うんだよね」
僚太の宝くじの件については触れない代わりに凛花は前世の話を続ける。
「なんで?」
僚太も純粋に気になったためそう思った根拠を聞く。
「だってさ、人の性格って無限にあるじゃん。それはいろんな前世から培われたものなのかも知れないし」
「それなら、赤ちゃんの時に泣いたりしなくない?」
「別に記憶まで残っているわけじゃなくて、ただ性格がその前世の方向になりやすい的な?」
疑問に疑問をもったまま返された僚太は意外にも納得していた。
前世の性格の方向になりやすい、であるとすると、そうなるようにレールがしかれているとも言える。
そのレールを脱線するかどうかはその人の選択次第で、その選択が次の人生でしかれるレールを決める。
つまりは、今回の人生を頑張れば次の人生を良く過ごせる的な希望的観測である。
そんな希望的観測はあるものの次の人生を僚太はあまり望んでいない。
◆
「前世よりも記憶を持ったまま回帰する方が良くない?」
それが僚太が前世よりも望むものだった。
「それって未来の記憶を持っているだけでしょ?前世でもっと違う経験をしていた方が良くない?」
「それは記憶がないと経験した意味がないと思うけど」
「それもそっか」
それ以降、前世の話も回帰の話もしなくなったのだった。
◆
そうして大天守の一番上にたどり着いていた。
土足が禁止されているため靴はポリ袋に入れている。
ここまでで驚いたことと言えば階段の急勾配だ。
そのため普通の階段よりも疲れた。
それに、観光客も多くその声から感情を無意識に拾ってしまっており、気疲れもしていた。
観光地ということもあり、そこまで悪い感情がないためそれが救いではある。
「やっぱり見張らしが良いね」
凛花は大天守からの景色を見ながら言う。
凛花ではないが前世でここから景色を見ていたとしたら、どんな気持ちで見ていたのだろうか。
僕の考えが正しければ、ぼっちで見ていただろう。
そもそもここに来ない可能性の方が高いだろう。
そう思うからこそ、凛花への感謝の気持ちが溢れだしていた。
「ありがとう」
◆
凛花は唐突の感謝に僚太の方を見る。
「え、なんで泣いてるの?」
僚太も凛花にそう言われてポカンとしていた。
少し経って僚太は目の下を擦る。
すると確かに擦った指が濡れていた。
「なんで泣いてるんだろう?」
僚太自信もこの涙がでた理由は分からなかった。