普通に、普通に
「どうしたの?僚太」
トイレから出るとすぐ目の前に凛花が待ち伏せしていた。
その凛花と記憶のりんちゃんが重なり思わず引き返し、トイレにこもってしまう。
こうしていても仕方ないのは分かっている。
しかし、このままだと平常心のまま凛花の隣にいることは出来ない。
『もしかして、体調悪い?』
扉の外で凛花が心配してくれている。
「大丈夫!先に準備しといて」
僕はこの声を出すのが精一杯だった。
◆
凛花は僚太の先ほどの様子の原因を考えていた。
(もしかして、僚太が先に寝落ちしたから私もそのまま寝たのがまずかったのかな?)
昨日の夜、凛花は僚太が寝落ちしたことに気がついたため、そのまま寝たのだ。
普段は抱き枕がないと寝られない彼女であるが、自然と眠りにつけていた。
以前は僚太の寝相で僚太が来たため抱き枕として機能したわけであるが、今回は抱き枕としては機能していない。
人一人が通れるくらいの隙間を開けて、もう一つベッドがあるにも関わらず、同じベッドで寝たわけだが、端同士で寝ていたため接触はない。
凛花としても、ホテルで貸し出されている薄いパジャマで過度な接触をするのは難しかった。
それは、僚太に引かれてしまうかもしれないというのもあるが、なにより恥ずかしかった。
なんにしても原因は分からないため僚太に言われた通り準備をし始めた。
◆
とりあえず、普通に、普通に、普通に・・・・・・・・・
何度も頭の中で唱える。
よく、恋愛小説を読んでいると、早く告白すればいいのにと思う。
ただ、作品の都合上そこを引き伸ばした方が面白くて読者が離れないのだろうなと考えながら読んでいた。
でも、いざ自分が告白するとなると、無限に時間を引き延ばしたくなる。
引き伸ばしたところで本当に告白できるかどうかは分からない。
(そうか、小説だ!)
読書をすることで冷静になる。
本はトイレに持ってくるはずもないためスマホで・・・・・・
そうだった、充電中だった。
良案だと思ったが、トイレから出なければならなかった。
スマホ、もしくは本を取り出すにはおそらく凛花が目に入ることになる。
その瞬間僕はまた、トイレに引き返すだろう。
中々トイレから出られないまま、時間が過ぎていった。