心の堤防
ロック画面の事については見なかったことにする、つまり今まで通りにしようという方針を決めた。
改めて時計を見るとロック画面に写っていた時間から10分進んでいた。
立ったまま硬直していたためか、凛花はまだ起きていない。
今、起きられると普段通りに出来ないと思い、逃げるように洗面所へ。
目を覚ますためではなく、パンクしそうな頭を冷やすために冷たい水で顔を洗う。
部屋ではクーラーが効いているため、顔を洗うと少し寒い位だった。
今の僚太にはそれが丁度良く、爆発しそうな気持ちにブレーキがかかる。
今まで押し止めていたせいか、心の中の堤防を簡単に越える波が発生していた。
その波とほぼ同じ高さまで堤防を高める位高い効果があった。
「んっんぅぅ」
僚太が波を抑えようとしている最中凛花が目を覚ます。
「あれ?おはよう」
凛花は僚太が先に起きていた事に驚きつつ、いつも通り挨拶をする。
「お、お、おはよう」
僚太の反応は明らかにおかしい。
顔も真っ赤であり、なにかがおかしい事に気づく。
「どうしたの?」
「な、な、何でもない」
挨拶に引き続きのその反応に凛花は思わず笑ってしまう。
「本当にどうしたの?」
「・・・・・・なんでもないから」
僚太は逃げるようにトイレに入っていった。
凛花はその様子に違和感を感じずにはいれなかった。
◆
僚太は思わずトイレに駆け込み蓋を開けないまま便器に座る。
そして、目を閉じ冷静になろうとする。
今まで何があったってりんちゃんとの約束があるからと意識しないようにしていた。
それが、その堤防がほぼほぼ効力を失うどころか波を後押しするかのように押し上げていた。
昔から、声に嘘を感じない人にはすごい好感を持つことが多かった。
だからといって、よく話したりするということはなかったが。
そして、それは凛花も当てはまっていた。
だからこそ、このように関係が続いていた。
もし、そうでないならきっぱりと告白は断っていただろう。
正直、揺れている部分はあった。
もう、会えない可能性が高く、会えたとしてもどうなるか分からないりんちゃんよりも、今この瞬間好きだと言ってくれている凛花と付き合うことにする方が幸せなんじゃないかと。
ただ、それは約束を破る事になるため考えないようにしていたのだ。
それが、先程あっさり覆ってしまった。
まだ、100%ではないと言ったが、それは自分への言い聞かせである。
ドッペルゲンガーなんているとは言われているが、本当にいるのかは分からないし、いたとしても記憶と同じ公園でりんちゃんと写真を撮るなんて確率は天文学的な数値になるだろう。
◆
その後、数分間の間蓋をしたままのトイレに座ったまま冷静になるように心がけた。
そして、一度も蓋を開けていないのにトイレを流してトイレを出たのだった。