閑話 エイプリールフール 2
貴史は十数分迷った後、了解です、とだけ返信し家を出た。
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彼女に彼氏が出来たというのもありえそうな話ではある。
まず、自分自身が仲良くなれている時点で異性の友達もいるであろうことは容易に想像できる。
更に彼女の容姿と明るい性格は好む男も多いだろう。
そんなことを考えながら貴史は駅への道を走った。
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沙羅は了解ですの返信に焦っていた。
皆の悪のりのせいだ、とは思いつつ、会える口実が出来て嬉しいと思っている自分もいた。
ここでエイプリールフールの嘘だと言ってしまうと会う口実もなくなってしまうため、今から電車で向かいますとだけ送信した。
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「お久しぶりです。こんな格好ですみません」
沙羅は挨拶をした後、自分の格好について詫びる。
部活終わりでそのまま来てしまったため、部活の時に来ている服に薄い上着を羽織っているだけだった。
「お久しぶりです。僕も同じですからお互い様ですよ」
貴史も部活の後、そのまま来たため同じような格好をしていた。
「ごめんなさい」
沙羅は挨拶が終わった後、頭を下げる。
勢いよく90度に。
貴史は何のことか分からず、分からないままとりあえず顔を上げてもらった。
彼女が謝りながら頭を下げたことで周囲の視線が集まっている。
「えと、とりあえず場所を変えますか?」
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その流れで近くのカフェに入る。
実は2人ともまだ昼食を食べていなかったため食べながら話すことに。
「それで、さっきのって?」
貴史はコネイトの内容も気になっていたが、それよりも先程の謝罪が何に対するものなのかをはっきりさせることを優先した。
「・・・・・・実は、私に彼氏ができたっていうの嘘なんです」
沙羅は申し訳なさそうに言う。
「エイプリールフールですもんね」
貴史からは自然と笑みが浮かんでいた。
それを見て沙羅も安心する。
その話はこれで終わり、後は最近の出来事等を話していた。
しかし、事あるごとに嘘のことを謝罪する沙羅を見かねて
「そういえば、コホラの連載が打ちきりになるそうですね」
「え?」
「嘘です。これでおあいこです」
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「今日は突然なのにありがとうございました」
「いえ、僕も楽しかったです」
「それじゃあ、また。・・・・・・本当に彼氏できてませんから」
沙羅は最後に念を押し、帰っていった。
貴史はそれにもしかして、と思ってしまうが、首を横に振り家に帰っていったのだった。