外出すること自体非日常
玄関を出ると凛花が待ち構えていた。
彼女はもちろん普段の制服姿ではなく私服で、上は黒のTシャツ、下は短めのスカート。肩から小さめの鞄をさげていた。
目のやり場に困るというのが僚太の感想だ。
「時間ピッタリだね」
「で、どこに行くの?」
少し目を背けながらそう問う。
彼女に全て任せていたので今日は何をするのか全く知らない。
「それは、お・た・の・し・み」
はあ、マジで可愛いな・・・・・・
あの夢見てなかったら持っていかれてたかも。
凛花についていくと最寄りの駅に着いた。
「どこまで行くつもりなんだ?一日で済むのか?」
「心配しなくても大丈夫だよ。約束は守るからね」
その言葉に嘘は無さそうであった。とりあえず安心し切符を買う。
乗り継ぎが必要らしくまだ行き先はわからない。ここは田舎の方にあたるため電車を一つ逃せば大分待たないといけなくなる。
しかし、そのため電車も出発時間より早く駅についているため早めに乗ることが出来た。
◆
席はまだ十分に空いており適当な場所に座るが凛花が隣に詰めて座ってきた。
「さすがに近くない?」
「『デート』なんだから良いでしょ?」
まあ、確かにラブラブなカップルの場合ここまでくっつくことはあるかもしれないが普通は外でここまで密着しないと思う。
しかし、デートを許可したのは自分なので抵抗しない事にした。
若干引くほど密着していたが会話はなかった。
僕は基本無口であるため普通だが、凛花はいつも話しているイメージがあったため以外だった。
基本無口と言うのは人見知りのせいでもあるため付き合いの長い友人達は彼の事をあまり無口だとは思っていない。
◆
あれから乗り継ぎを何回かしたどり着いた場所は県庁所在地にあるとにかく大きいショッピングモールだった。頭によぎったのは以前どこかで聞いたこと。
女性の買い物に付き合うと地獄を見ることがある、というもの。
別にそんなことないだろうと当時は思っていたがいざそうなるかもしれないと思うと背筋が凍った。
「今日ってもしかして買い物しに来た?」
違うと言ってくれと願いながら問いかけた。
「う~ん、半分正解」
徐々に不安になっていくが半分とついていたことに引っ掛かる。
「もう半分は?」
気になったので聞いてみた。
「内緒」
凛花はものすごく楽しそうだが僕は今後に起こるかもしれない地獄に強い不安を抱いていた。
◆
ショッピングモールに入ってきた。
中はたくさんの人が行き来しており人混みがあまり好きではない僕にとっては居心地の悪い場所だった。
凛花はお目当てがあるのか迷わず歩きだした。
着いたのは本屋だった。
ちなみにこの本屋はショッピングモールの最も端の部分にあるため通りかかったわけではなくここが目的地だったということになる。
わざわざショピングモールに本を買いに来る人は少ないのか人はある程度少なかった。
多いことには変わりないが。
ここでも凛花は迷うことなく進んでいき漫画のところで足を止めある一冊を手に取る。それはコホラの最新刊だった。
「読んだやつを買うの?」
無論以前貸したやつのため凛花は一度読んでいるはずだ。
「うん。ここまで全部買ってるし、面白かったから。作者にお礼をするためには買うことが一番でしょ?」
確かに少しはお金が入ってくるだろう。
「一冊じゃそんなに変わらなくない?」
「少しでも感謝を伝えるの。自己満かもしれないけど、それでも私の中では意味があるんだ」
何となく良いことを言うなと思いながらも一つ気になったことを聞いてみた。
「じゃあ、原作の小説の方も買わないといけなくね?」
「読まない人が買っても意味ないと思うんだ」
そうは言ったが急にこちらに背を向けたのでそこまで考えてなかった事は容易にわかった。
「さ、買いにいこうっと」
明らかに話を変えたな。まあ、良いか。