いよいよ出発
そんな事をしている間に10時が近づいていた。
引きなれないスーツケースを転がしながら家を出る。
日の光を久しぶりに浴びるスーツケースは黒く光を反射している。
凛花はさらに麦わら帽子を目深に被りより大人っぽく見えるようになっている。
まあ、宿の中では被っているとおそらく違和感があるためそこでの意味は無さそうである。
そんな凛花の引くスーツケースは白。正確には完全な白ではなく若干ピンクっぽい。
よく見ないとわからない程度だが・・・・・・そんなことはどうでも良いか。
なんか、白と黒で対比になってる感が・・・・・・あれ?前にもなんかあった気がするな。
そんなことを思いつつ駅に向かう。
それにともない忘れ物をしていないだろうかという不安が徐々に増していく。
こういうのは家を出てから更に不安になるもので、今すぐにでもスーツケースの中、ポケットの中を全て出して確認したい。
さすがに路上のためそこまではしないが、覗く位の確認をしたい。
ちなみに家を出る前にスーツケースの中を全部確認している。
それでも、家が遠くなっていくと後戻りしにくくなってくるので、余計に不安が増していくのだ。
そんな内心ヒヤヒヤしている僚太に対して凛花はルンルンだ。
もちろん緊張もあるが、なにより、正真正銘二人で旅行に行っているわけである。
しかも、前回とは違い騙し討ちではなくちゃんと了承を得て、だ。
完全に嬉しさが勝っていた。
今、もし周りの目がなければおそらくスキップを久しぶりにしてしまうくらいには浮かれ気分だ。
だからこそいつもだったら僚太が不安からソワソワしていることに気づくのだろうが、今は全く気づいていない。
「僚太、早く」
しかし、その行動が思いがけず僚太の不安を取り除くことになる。
先程の凛花の行動に僚太が笑ったのだ。
「え?何?」
僚太が笑ったため凛花は何かあるのかと自分を見てみる。
別におかしなところはないように見える。
「大人っぽくする必要なかったんじゃない?」
僚太がそう言うが凛花は未だに理解できていない。
「さっきのはそんな大人の格好をしている人がする行動じゃないよ」
まだ、頭の中に残っているのか僚太はまだ笑顔である。
それに何か言いたげな凛花だったが、
「分かった。じゃあ、行こう、僚太」
さっと手を繋ぎ引っ張らずに僚太が歩くのを促す。
◆
その頃僚太は手の痛みに耐えながら歩いていた。
凛花が必要以上に力を込めて握ってきているのだ。
それの意味するところは、早く歩けということだろう。
なんか、本当にやってる人がいそうだな・・・・・・
あ、目の前にいるんだった。
そうやって現実逃避しながら手の痛みに耐え駅まで歩いたのだった。