ハグの感想
「わ、私夕食作るの手伝ってきます」
加奈姉が僕から離れると急ぐように凛花が部屋から出ていった。
「あ~あ、逃げちゃった」
加奈姉は残念だと言わんばかりにそう言っているが、実際の所残念だとは思っていなさそうだ。
「それで、本音は?」
加奈姉は視線をドアの方からこちらに戻す。
「何が?」
何が聞きたいのか分かったがあえて聞き返した。
「同級生からのハグの感想」
正直に言うなら困るというものが主であった。
「加奈姉も知ってるでしょ?僕は少なくともあの子に会うまでは彼女を作る気もそれが疑われるような行動もしないから」
「もう、同居しちゃってるけど?」
「それも夏休みで終わるから」
そう、この同居生活も夏休みの間に凛花の引っ越しが完了するため終わりを迎えるのだ。
「何て言うか一途よりも頑固だね。それに、そういうことを口に出せるお年頃ではないでしょ?」
「どうせ知られてるからね」
それに今後も先程のようなことをされると困るためもう一度言い釘を刺しておきたかった。
「それでハグの感想は?」
加奈姉は感想が聞けてないことを不満に思っているようだった。
「察してよ。困るって言いたいの」
開きっぱなしのドアの方を確認し、さらに声を潜めて言う。
「僚太、それはハグの感想じゃなくてそういう行為をされた事への感想だよ?ちゃんとハグの感想を言わないと」
「そ、それは・・・・・・」
正直考えないようにしていた。
あの約束を守るために。
「嬉しかった」
この答えは一応本当に思ったことではあるが、それよりも強い感情が溢れていた。
その感情の名前は約束に反するものであるため言葉には出したく無かった。
「しょうがないな~。それで許してあげよっか」
そうして加奈姉は部屋から出ていった。
◆
加奈は凛花がその約束の相手だと僚太に言いたい気持ちをグッと抑えていた。
凛花から言わないように頼まれていたのだ。
そして、僚太から嬉しかったという感想を引き出せたことを嬉しく思っているのも隠している。
早く凛花に伝えるため部屋を出たのだが、凛花は美奈子さんと楽しそうに夕食の準備をしていたため後にすることにした。
今日、女性陣は銭湯に行くことになっている。
家のお風呂では皆で入る事は出来ないためだ。
男はメンバーが増えていないため来ない。
加奈はそこで凛花と話す予定を立てるのだった。