利きハグ
「はいは~い。目隠ししてね~」
昼寝から起きた僕は今自分の部屋で、問答無用にアイマスクをつけられている。
加奈姉が何か企んでるっぽいけど何故アイマスクなのか分からない以上勝手に取ることは出来なかった。
何があるか分からないため逆にとるのが怖いのだ。
何かこそこそ話が聞こえた後、急に体を触れられたため驚いてしまう。
ビクッと体が反応したがそれに構わず抱きつかれたような感触が伝わってくる。
「これは私でしょうか?凛花ちゃんでしょうか?」
加奈姉の声が遠くから聞こえる。
この感触は・・・・・・・・・
の前に、声の位置的にこれは凛花だろ!
「声の位置的に分かったけどそれで良いの?」
こういうときは正直に言った方が良いのだ。
加奈姉の場合、わざとそうしている可能性があるためだ。
もし、気づかなければ笑われ、気づくと舌打ちをする。
その経験から僕は気づいたことを正直に言った。
それが加奈姉の罠だとも知らずに。
◆
いつものような舌打ちが聞こえてこない。
その事を不思議に思っていると、嬉しそうな声で、
「じゃあ、もう一回しないとね」
加奈姉の狙いはここにあったようだ。
舌打ちが聞こえないということはつまり、誘導したい方に誘導されてしまったということになる。
ちなみにこういう時に声の感情は役に立たない。
何故なら加奈姉の声にあるのは楽しさ、ワクワクといったものでどちらを選べという念がこもっていないのだ。
意識してかせずか分からないけれど、どちらにしても才能があるのかもしれない。
凛花が呼び戻されていくと、声を極限まで小さくした状態で凛花が抗議をしているのが雰囲気で分かった。
何を言っているかまでは聞き取れなかったが、うっすら聞こえる凛花の声に必死さがあったのだ。
その言い争いが終わると足音が徐々に近づいてくるのが分かる。
先程と同じような感触が伝わってくる。
これはもう凛花でしょ。
「凛花」
「正解。ごほうびにアイマスクをとってあげよう」
アイマスクを取らなくても加奈姉の満足気な顔は目に浮かんでくる。
「え?」
困惑の声を挙げたのは僕ではなく凛花だった。
アイマスクが離れる瞬間、抱きつかれている感触は消え、部屋の明かりの眩しさで視界に透明のもやがかかっていた。
「凛花ちゃんにハグしてもらった感想をどうぞ」
急にインタビュアー口調になる加奈姉。
「・・・・・・答える必要ある?」
さすがに本人の前で感想を言うのは恥ずかし過ぎる。
「凛花ちゃんが頑張ったんだよ?僚太も頑張らないと」
な、何かないのか?無難なやつ・・・・・・・・・
これは、微妙か?
いや、でもこれ以上間を開けるのは・・・・・・
「温かかった」
「はい、よく出来ました」
加奈姉はその言葉と共に抱きついてきたのだった。