閑話 節分
一月もそろそろ終わる頃貴史のスマホにコネイトの通知が来ていた。
◆
お久しぶりです。
正月はいきなりだったのにありがとうございました。
節分の日は空いてますか?
もしよければやってもらいたいことがあります。
空いているようなら連絡ください。
◆
時は過ぎ節分の日となった。
珍しく部活を休んだ貴史は隣町で赤い鬼のお面を被っている。
そして、小さい子供たちから豆を投げられていた。
「うわ~。やられた~」
少しの間豆を受け退散する。
◆
「今日は本当にありがとうございました」
貴史が用意された部屋で椅子に座りお面を取っていると沙羅から声をかけられる。
用意された部屋には貴史を呼んだ沙羅もいたのだ。
「いえいえ、弟とか妹もいないので貴重な経験でした」
「すみません。本当はお父さんがやる予定だったんですけどぎっくり腰で・・・・・・」
沙羅のお願いはお父さんの代わりに幼稚園で鬼役をすること。
この町では持ち回りで鬼役をしているらしく今年は沙羅のお父さんが担当だったようだ。
しかし、沙羅の言う通り直前でぎっくり腰になり急遽貴史に頼んだのだ。
「本当に大丈夫ですよ。顧問の先生に事情を説明したら行ってこいって言われましたし」
それにと、傍らに置かれていた自分のラケットが入ったラケットケースを持ち上げる。
「こちらで練習に参加させていただけるのはありがたいですし」
貴史はこの後沙羅と一緒に部活に向かうのだ。
通常、思春期の男子が女子の中に入るのは嫌がるだろうが、貴史はそれよりもテニスが上手くなりたいという思いが強いためそのようには考えていなかった。
「それじゃあ行きましょうか」
そう言いながら立ち上がる沙羅に貴史もついていく。
◆
貴史と沙羅がテニスコートに向かうと待ち構えていたかのように他の部員達が沙羅を囲んだ。
さすがに貴史もその中には入らず近くに座っていた白髪の先生に挨拶をした。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします」
「久しぶりだね。こちらこそよろしく」
簡素なものだったがこれで挨拶も終わり練習に入っていくことになった。
貴史は練習着で来ていたためそのまま参加できた。
それは沙羅も同様ではあったが、そちらにはずっと誰か一人は部員が近くにおり、慕われているのだと感じる貴史は自分もこんな風に慕われる部長になりたいなと思うのであった。