その少女は、
俺は宿に着いてふと隣の部屋にいる少女が目に留まった。
彼女は少し困った様子で自分の荷物をドアの前で確認していた。
気になった俺は、
「そこの君、どうかしたか?」
すると彼女は、はっと顔を上げて、
「あ、貴方は誰?」
「俺は君の隣の部屋を借りている者だよ。」
「そうなんだ、鍵が見つからなくて困ってるの。もしよければなんだけど、泊めてくれない?」
「泊める、か。すまないがそれは無理な話だ。」
彼女は少しがっかりしながらも、
「そ、そうだよね。会ったばかりの私を泊めるなんて嫌だよね。」
別にそこまでは言ってないんだがな。
「そんなことはないけどな。でも泊めることは出来ない。」
だが、とそう俺は付け加えて、
「お前の部屋の鍵を開けてやることは出来るぞ?」
とあからさまな嘘をつく。
でも、俺の手には本当にその部屋の鍵が握られていた。
それを見た彼女は、
「え、な、何で!?つ、使える........」
「まあちょっとした手品だよ。」
「こ、こんなことが出来る人が存在するなんて。」
「てかお前、名前は?」
「私?私の名前はヒナだよ!貴方は?」
「俺は和人。よろしくな。」
「うん!よろしく。」
そうしてその後ヒナがお礼としておもてなしくをしてくれることになった。
「コレ、美味いな。」
ほんのり甘くて俺の舌にとても合っている。
俺はそれを食べながら次のデザートを作っているヒナを見てふと疑問に思ったことを聞く。
「てかヒナって、何の仕事しているんだ?」
「私はこう見えて強いんだよ!だからコロシアムで決闘をしているの!」
「まあドジだけどそれなりには強いのか。じゃあ一か月後にある世界最強を決める戦いには出たりするのか?」
「ええ!勿論よ!」
「一人で出るのか?」
「うん!一応その予定だけど。」
「じゃあよければなんだが俺と俺の友人とヒナ、この三人で出ないか?」
その誘いにヒナは迷い無く、
「勿論大丈夫よ!なんなら大歓迎!」
「そうか、だったら明日もう一人に会わせてやる。だから、今日はここで寝ておくことにしよう。」
「そうね、じゃあまた明日ね!」
そう言ってヒナは俺の部屋を去っていった。
あいつの実力は確かには分からないが異質な気配がしたからそこそこ強いんだろう。
そうして俺は眠りに着こうとしたその時、
「眠れなかったのか?」
俺はドアの前にいるヒナに声をかけようとしたが少し時間が経って気づいた。
「こいつは、」
ヒナじゃない。
でも、俺の部屋に来るのはヒナくらいしかいないはずだが。
そんなことを考えていると、ドアの前にいるそいつはドアを破り入ってきた。
俺はすぐさま臨戦態勢をとった。
でも、姿が見えたそいつを見た俺は笑みをこぼした。
「お前、何してんだ?」
そう俺は目の前にいるエリーに対して言った。
「だ、だって!聞いたんだもん!貴方が別の人に寝返ったって。」
俺はその言葉に驚きを隠せなかった。
「誰から聞いたんだ?」
「何か、この道をたまたま通ったらこの宿に泊まってる人に言われたの。」
「俺はただもう一人を俺らのチームに入れたかっただけなんだけどな。」
「そ、そうなんだ。確かにそれを言ってきた人この宿を借りて無さそうだった。」
「まあ取り敢えず誤解は解けたから良かった。」
「そ、そうね。」
「ま、今日のとこはもう寝よう。また明日もう一人も入れて話そうか。」
「ええ。」
そうして俺はエリーを帰らせてベッドで横になりながらも考えていた。
部屋の近くに気配はしなかった。そして俺がエリーとチームになったことを知っている奴は居ないはずなんだがな。
そしてそれを言う意味もない。
じゃあそいつは、
「俺らをよく知っている人間か俺らをずっと尾行してる人間、か。」
まあ今はいい。
いつか姿を現すだろうしこの世界に俺を凌ぐ人間はいない。
俺はそれからすぐ睡眠に入った。
そして次の日になり、俺の部屋にエリーとヒナを集めた。
全員集まったところでヒナが、
「え!貴女確かこの国で五本の指に入るといわれているエリーさん!?」
するとエリーは照れながらも、
「ま、まぁね。」
「お前押しに弱そうだな。」
「そ、そんなことない!!」
「まあそんなことはどうでもいいけどヒナの実力を軽く知りたいから二人で決闘してくれるか?」
「ま、まあ私はいいけどヒナちゃんは?」
「私も大丈夫だよ!何なら光栄だよ!」
そして俺らはコロシアムまで来た。
何故かこの情報は広まっているらしく、ギャラリーが沢山いた。
その数分後二人が戦場に上がり、視線が交錯する。
そして始まりの合図が鳴る。
試合が始まった瞬間、ヒナの気配というかオーラがゼロになった。
そうなると何が起こるというと、攻撃が読めなかったり動きが読めなくなってしまう。
「もしかしてあいつ殺し屋とかしてたりするのか?」
俺はそう呟きながらもその戦いを見守る。
エリーはすごくやりにくそうだった。
そしてその瞬間、エリーはヒナのナイフによる攻撃を受け流しきれなく、隙が出来てしまった。
そしてその隙をヒナも見逃さない。
ヒナのその突きが刺さりそうになったその瞬間にそこに衝撃的な光景が広がった。
「ヒナが倒れた?」
そう、ヒナが後一歩のところで地面に伏したのだ。
よく見てみるとヒナの首に痣が出来ていた。
「隙が出来たと見せかけてその油断したところを突く、か。」
ヒナも中々やるがエリーは流石に強いな。
試合が終わり俺達は病室でヒナが起きるのを待っていた。
するとエリーが、
「この子、普通じゃないよ。」
その言葉に俺は、
「あぁ、普通じゃないな。」
「チームなのに全部致命傷を狙っていた気がしたの。」
「まあそんくらいじゃないとお前を倒せないと思ったのかもしれないな。」
だけど、俺はそう付け加えて、
「あの気配を消す技術は異常だな。」
「本当にそうね。」
「よく勝てたな。」
「まぁ、ギリギリだったけどね。」
そんなことを話しているとヒナが起きた。
「起きたか、いい戦いだったぞ。」
俺は優しくそう声を掛ける。
するとヒナは一瞬戸惑いの表情を見せたがすぐいつもの様子に戻って、
「ありがとうございます!エリーさんやっぱり強かったです!」
「貴女もとても強かったわ!チームメイトとして頼もしいわね!」
「まぁ、取り敢えず起きたし一旦帰るか。」
そして宿に着いて俺はすぐベッドに寝転がった。
何かが気がかりなのだ。
ヒナに何か違和感を覚える。
あの気配を消す技術。いつものあの陽気な感じとは逆に試合になった瞬間人が変わったように目が変わる。
そして俺らの情報がばれている理由。
俺はその後も思考して、俺の中で一つの結論に至った。
それを確かめるために俺は、ヒナを俺の部屋に呼ぶ。
そしてヒナが俺の部屋に意気揚々入って来て軽く挨拶を交わす。
その数秒後、俺は息を整えヒナにその言葉を告げる。
「お前、一人じゃないだろ?」
その言葉にヒナは動揺しながらも、
「な、何のことですか?私はこの通り一人ですよ?」
「正確に言えば人格が二つあるだろ。」
「な、何を理由にそんな事?」
「理由は三つだ。一つ目はお前のその気配を消す技術だ。いつものお前じゃなく、もう一つの人格でしかできないんじゃないのかと俺は思っている。」
「そして二つ目は俺とエリーがチームを組んでるなんて誰も知らないのに知っている奴がいたらしい。」
「そして三つ目は今のお前と戦っていたあの時じゃあ明らかに気配が違う。気配がゼロと言っても本質的なものは消せない。」
「これらを全部考慮したらお前が一人っていう事にも無理がるんじゃないのか?」
それを全部聞いたヒナは俯いたまま、
「でも、二重人格だとしてそれがどうしたんですか?」
「別にそこはあまり問題じゃないんだ。でも、お前のもう一つの人格がどうも俺を警戒しているらしくてなぁ。」
「さっきも言ったろ?俺とエリーがチームを組んでるなんて誰も知らないのに知っている奴がいたって。それをエリーに言ったのは他でもないお前のもう一つの人格だ。」
「きっと俺という存在を警戒してお前に危害が加わらないようにエリーに俺が寝返ったと言って俺を消したかったんだろう。」
だからこそ俺はこの瞬間、能力を発動する。
その瞬間目の前には同じ顔を持つ、されど気配と目つきが180度違う少女二人が佇んでいた。
そして二人はお互いの顔を見あって、
「え!?」
「え、えぇ!?」
まぁ、そうなるのも無理はないか。
「で、そこのもう一人のヒナさん。何でおれをそんな警戒してるんだい?」
「それは単純、私の妹に貴方みたいな強大な力を持った人を近づけたくないから。」
「妹、か。いい姉なんだな。」
「まぁね、大事な妹よ。てか、何で私とヒナが二人になってるの?」
「それはまあまた今度話してやるよ。今はアンタと親睦を深めたい。どうしたら信用してくれる?」
すると彼女は少しの間考えて、
「じゃあ、この子を生涯守るって約束して!」
そう言われてしまった。
「分かった、俺のこの力を使って守ろう。」
何故だ?なんでなんだ?
俺は今本心では断ろうとしていた。でも一瞬俺は自分の意志で喋っていなかった。
ああ、そっか。
これが主人公、ってことなんだな。俺はそう感じた。
いやいや、こんなこと考えてる場合じゃない。
俺は今やばいことを言ってしまった。
目の前でヒナは顔を赤らめているし。その姉はにやりと笑みを作っているし。
お、俺はどうしたらいいんだよ.........