プロローグ
6年前の作品を、もう一度書き直したいと考え、今に至ります。
使っていたアカウントのことは何も覚えておらず、新しいアカウントを作成いたしました。
あの時は高校生、今は社会人になってしまいました。
あの頃よりも時間も自由も無い今ですが、それでも、ずっと、ずっと忘れられないでいた、
『翼のない俺たちに幸せの粉を!!』
という作品を完成させたいと考えました。
拙い文章ではありますが、温かい目で読んでいただけると嬉しいです!
『幸せ』
この世界は、一生懸命努力したものだけが幸せを掴み取り、幸せに生きることができる。辛く、険しく、傷だらけになりながらも、耐えて、耐え抜ぬくことが、幸せに繋がるのである。
なんて、そんなのは嘘っぱちだ。
努力していなくても金持ちで、努力していなくたって運がいい。辛く険しい道を進まなくたって彼女がいて、一生懸命勉強しなくても頭がいい。日頃の行いが悪くてもちやほやされ、楽しそうに生きている。そんな奴、そこら中にいるじゃないか。
人間はそもそも不公平だ。この理不尽な世の中に気に入られた人間だけが、幸せを手にする。努力したって、気に入られなきゃ意味がない。
自由が、年を重ねるたびに減っていくことによって、自分自身の幸せを削り、世の中の不条理に飲み込まれる。
それが当たり前だ。それが、この世界のルール。頑張ったって、幸せには慣れない。
そりゃそうだよな。
幸せの量なんて、初めから、いや、生まれる前から決まっているのだから。
朝が来た。
窓の外から聞こえる蝉の声に、もうそんな時期かと、夏の始まりを意識する。爆音で鳴り響くアラームの音を、目を瞑ったまま感覚で黙らせる。もう一度、もう既に内容を覚えていない夢の中へ行きたい衝動を抑え、無理やり体を起こし目を開けた。
「あっついなあ」
明日からはエアコンをつけて寝てやろうかと考えながら、いつもの場所にある制服を手に取り着替える。先ほど開けたばかりの目が閉じてしまう前に、足早に洗面台へと向かった。
朝にはめっぽう弱いため、毎日ギリギリまで寝ている俺には、朝ご飯を食べる時間などはない。起きて着替えて洗面台へ、そのまま玄関まで直行するのが、毎朝の流れである。
「行ってきます」
そう、一言後ろに立っているであろう女性に声をかけ、返事を待つことなく玄関の戸を開け外へ踏み出した。微かに聞こえた、行ってらっしゃいの声は俺の意識に入ることはなく、蝉の声でかき消された。こうして、俺のいつもの一日が始まる。
日差しの強い夏の朝。駅まで歩くその道のりが、苦痛でしょうがなかった。リュックと背中の間には、もう既に滝のように汗が流れ、首にかけたタオルで額を拭うも、次々と流れる滝の中では、意味をなしていなかった。
こんな思いをしてまで、なぜ俺は学校になんて向かうのだろうか。行ったって、何も良いことなんか無いのに。 高校生になった今でも、登校中はそんな事を考える。
ふと、額から流れる滝のせいで、今朝とは違った理由で閉じてしまいそうな目の先に、一人の少女が歩いているのが見えた。
「あんな小さいころに戻れたらなあ」
ただただ何も考えずにひたすら遊び、やりたい事を好きなだけ見つけ、好きなだけ実行し、世の中のいい所だけを直視できる。そんな時代が、俺にもあったんだよなぁ。
「はぁ・・・・・・ん?」
頭の中で幼いころの自分を思い出し、今とのギャップに憂鬱になっていたその矢先、視界に移っていた少女は、何の躊躇もなく道路側に駆け出した。
何やってんだろ、俺。
無意識のうちに踏み込んだその足は、止まることなく少女のもとへと駆けていく。少女のもとへ、勢いを殺すことなくたどり着き、その勢いのまま少女の背中を押して突き飛ばした。
今更聞こえてきたトラックのクラクションの音と同時に、何故か今、朝の女性の言葉を思い出す。
「行ってらっしゃい」
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