【書籍化記念番外編2】「アリシアと精霊たちの作戦会議」
いつも「王位継承権」をお読みいただきまして、ありがとうございます!
書籍版の発売にあわせて、番外編の第2弾を書いてみました。
アリシアと精霊たちを中心としたお話です。
ある日の夜、精霊たちは、精霊王の未来について話し合うのですが……。
気軽に楽しんでいただけたら、うれしいです。
「「「コーヤさまとティーナさまのお子さまのお世話をしたいのです」」」
ある日の夜。
灰狼領にある大樹──精霊樹のまわりで、精霊たちが話をしていた。
彼女たちの話題は、コーヤとティーナのことだ。
精霊王を継承する儀式のとき、コーヤは「自分よりも精霊王にふさわしい人物が現れたら、その者に位を譲る」と言った。
それは精霊の子孫で、ジーグレットとティーナが納得する人物だと。
その言葉を聞いた精霊たちはこう考えている。
『次の世代の精霊王は、コーヤとティーナの間に生まれた子どもになる』
──と。
精霊たちにとって、それはほとんど確定事項だ。
いつかコーヤとティーナは子どもを作るだろう。
その子が大きくなったら、精霊王の後継者になるのだ。
きっとコーヤにそっくりな、真面目で賢い子だろう。
責任感も強いと思う。だったら、精霊たちが支えてあげなければ。
その子はティーナと同レベルの魔力を備えているはず。
魔術の指導は精霊たちの役目だ。手取り足取り教えてあげたい。
男の子だろうか。女の子だろうか。
いやいや、双子かもしれない。
もしそうなら、精霊たちの楽しみは2倍だ。
いっぱい愛情を注いであげたい。
コーヤとティーナの子どもは、精霊たちにとっての宝物。
大切にしたい。いっぱい話をしたい。
──わくわく。わくわく。
──そわそわ。そわそわ。
──まだかな。いつかな……。
精霊たちはそんなことを、毎日話し合っているのだった。
「やっぱり、コーヤさまとティーナさまには、もっと仲良くなってほしいのです」
「ふたりの距離が近くなれば、子どもが生まれやすくなるのです」
「でもでも、コーヤさまは人間で、ティーナさまも人間に近い姿かたちをされているのです」
「人間同士が距離を近づけるときって、どうするですか?」
人間と精霊たちとでは、色々と考え方が違う。
精霊は、人間がどんなふうにおたがいの距離を縮めのるか、よくわからない。
もちろん、どうやって子どもを作るのかも。
「「「うーん」」」
精霊たちは頭を抱える。
やがて、そのうちの何人かが顔を上げる。
彼女たちは、すごくいいことを思いついた顔で──
「「「人間のことは、人間さんに聞いてみるのがいいのです!!」」」
──そんなことを言い出した。
精霊たちは人間に質問をするために、代表者を派遣することにしたのだった。
──数十分後、灰狼侯の屋敷で──
「気になる人との距離を縮める方法ですか?」
「教えてくださいです! アリシアさま!!」
アリシアは自室で、精霊のひとりと向き合っていた。
テーブルの上にはお茶とクッキーがある。
精霊たちは働き者だ。
灰狼領のために力を貸してくれる存在でもある。
なにより明るくて優しくて、かわいい。
精霊が部屋を訪ねてくれるのは大歓迎だ。
だから、アリシアはお茶とお菓子を用意したのだけれど──
「…………よろしくお願いするのです。アリシアさま」
アリシアの前にいる精霊は、お菓子に手をつけない。
椅子の上で足をそろえて座り、じっと頭を下げているだけだ。
その姿は、真剣そのものだった。
小さな手を膝の上で握りしめて、かすかに背中を震わせている。
精霊たちのこんな様子を見るのははじめてだった。
「気になる人との距離を縮める方法を知りたいとおっしゃいましたね?」
アリシアはたずねた。
「それが、精霊さまにとって重要なことなのですね?」
「はいですー。生存に関わることなのですー」
「……わかりました」
アリシアには、精霊たちの悩みがわかるような気がした。
精霊たちは200年以上、地下で眠りについていた。
それだけの時間が経てば、人間の文化も、生活様式も変わる。
目覚めたばかりの精霊たちは、この時代の人間たちにとまどっているのかもしれない。
アリシアにアドバイスを求めているのは、そのためだろう。
「でも……難しい質問ですね」
人間関係で悩んでいるのは精霊だけじゃない。アリシアもそうだ。
彼女の人間関係の悩みとは……もちろん、コーヤのことだ。
アリシアはいつも、コーヤと距離を縮めたいと思っている。
コーヤを見ていると心が温かくなる。
ずっと彼を眺めていたい。側にいたい。
できるならその手に触れたい。彼の体温を感じたい。
けれど……そのためにはどうすればいいのか、わからない。
だから、アリシアはいつも試行錯誤。
がんばってコーヤとの距離を縮めようとしているのだった。
(精霊さまは、わたくしと同じ悩みを持っていらっしゃるのですね)
そう考えると、親近感がわいてくる。
──人間との距離を縮めたい精霊たち。
──コーヤとの距離を縮めたいアリシア。
人間も精霊も変わらない。
人との関わりを求めて、悩んでいる。
種族の違いなど関係ない。
アリシアと精霊たちは、同じ悩みを持つ仲間のようなものだ。
(でしたら……わたくしも、素直な気持ちをお伝えすべきでしょう)
人間関係の悩みなら、人間も精霊も、解決方法は変わらないはず。
自分がしようと思っていることは、精霊たちの役に立つはず。
そんなことを思いながら、アリシアはゆっくりと語り始める。
「特別なことは、しなくていいと思います」
アリシアはお茶を一口飲んでから、そんな言葉を口にした。
「試しに、親しい人同士でするようなことを、やってみるのはどうでしょうか?」
「それって、どんなことですかー?」
「……そうですね」
アリシアは目を閉じる。
──自分が、なにをしても許される立場だったら?
──問答無用で、コーヤとの距離を縮めようとするなら?
そうして浮かんだ空想に、アリシアは思わず頬を染める。
(む、無理です。わたくしの立場では……こんなことはできません)
侯爵令嬢のアリシアには立場がある。
人前で恥ずかしいことはできないし、父に恥をかかせるようなことも駄目だ。
でも、精霊たちならどうだろう?
精霊たちはちっちゃい。ふわふわしていて、かわいい。
彼女たちなら、少しくらいはめを外しても許されるかもしれない。
そんなことを考えたアリシアは──
「相手に近い距離で、食事をするのはどうでしょうか?」
ふと、アリシアは、そんな言葉を口にしていた。
「たとえば……親しい方の口に、手ずから食事を運んで差し上げるなど……」
「『あーん』をするですかー?」
「そ、そうです!」
真っ赤な顔で、こくこく、とうなずくアリシア。
「貴族としては恥ずかしいことですが……精霊さまがなさるのなら、構わないと思います」
「精霊の関係者がやるのはいいのですねー?」
「え? あ、はい」
「なるほどなるほど。他にはあるですかー?」
「他にもですか!?」
「そうです。ご飯を食べたあと、どうするですかー」
「ご飯を食べたあと……ですか」
アリシアはさらに想像を進めていく。
お腹がいっぱいになれば、眠くなる。
仕事熱心なコーヤだって、昼寝くらいはするかもしれない。
そこにアリシアが居合わせたら──
「その人のお側で、眠ってしまうのは……どうでしょうか」
ためらいながら、アリシアは答えた。
「人間はお腹いっぱいになると眠くなります。ソファでうたた寝することもあるでしょう。大切な方が側で眠るのを見ていたら、わたくしなら……毛布をかけて差し上げたくなります。自分も眠くなって、うっかりと、お側で眠ってしまうこともあるかもしれません」
「ふむふむ! それはすごい発想なのです!!」
「そ、そうでしょうか?」
「これをやっていいのは、うたた寝のときだけですかー?」
「え? いえ、機会があれば夜も……い、いえ! 今のは取り消します!」
「夜もですねー」
「取り消してくださいませ!」
「精霊たちがこの時代を生きるために必要なのですー」
「生きるためにですか……?」
「そうなのです。将来がかかっているのです!」
「そ、そういうことなら仕方ありませんね……」
「他にあるですかー?」
「あ、はい。そうですね……」
押し切られたアリシアは、また、想像をめぐらせる。
「わたくしは親しくなりたい方と……将来の話をしてみたいです」
コーヤはこれからも、アリシアと一緒に灰狼領で暮らすことになる。
灰狼侯の上に立つ者──すなわち、王として。
アリシアはその側で、彼を支えていくことになる。
たいした力にはなれないかもしれない。
それでもアリシアは、彼のためにすべてを捧げたい。
自分の知識と知恵と……この身をもって。
そうして、側にいる間に、距離がもっと近くなって──
コーヤがこの身に触れてくれたら……。
(い、いえ。それは贅沢ですね。わたくしが望むのは……)
コーヤが、アリシアのすべてを見てくれたら。
ありのままのアリシアを。
そうして、心のままに、コーヤに近づけていけたら──
(わ、わわわわっ。わたくしはなにを考えているのですか!?)
アリシアはあわてて頭を振る。
顔が熱い。
胸が、どきどきする。
動揺を抑えながら、アリシアは一気にお茶を飲み込む。
それから姿勢を正して、アリシアは、
「と、とにかく、将来の話をすることで、大切な方との距離を縮めることができるのではないでしょうか!」
「なるほどなのですー」
「将来の話をすることは『あなたとずっと一緒にいたいです』というメッセージにもなります。ば、場合によっては、愛情表現として受け取られる可能性もあります。ですから! 口にするときは慎重にすべきなのです! そうなのです!!」
「わかったです。よーくわかったです」
こくこくとうなずく精霊。
緊張が解けたのか、クッキーを両手で抱え、ぽりぽりとかじりはじめる。
それから、アリシアが差し出すスプーンからお茶を飲んだ精霊は、
「アリシアさまのご協力に感謝するです!」
ぺこり、と、頭を下げた。
「教えてくださったやり方を、試してみることにするです」
「お役に立ててよかったです」
「アリシアさまは精霊たちの恩人なのです。このご恩は、未来永劫忘れないのです」
「おおげさですよ」
「いいえ。アリシアさまは、未来の精霊王のためのヒントをくださったのですー!」
「未来の精霊王の……?」
「精霊たちがかわいい赤ちゃんのお世話をするために、アリシアのご助言を活用させていただくです! それでは!!」
「……え? あれ……お、お待ちください!!」
アリシアはあわてて立ち上がる。
「今のお言葉の意味は!? 未来の精霊王というのは、あの──っ!?」
急いで精霊を呼び止める……けれど、遅かった。
精霊は、開いた窓から飛び去ってしまったのだった。
「……未来の精霊王……かわいい赤ちゃん……まさか」
不穏な予感に、アリシアは背中を震わせるのだった。
──次の日──
「「「精霊王さまー!」」」
「精霊たち? みんなそろってどうしたんだ?」
「「「実験をして欲しいのです!!」」」
「実験?」
「「「精霊王さまは、ティーナさまの手からごはんを食べさせてもらって欲しいのです。その実験でどんな変化があるか、試して欲しいのですー!!」」」
「変化? それって精霊王に関係することなのか?」
「「「はい。精霊王さまの将来に関係することです!!」」」
「……そっか」
コーヤはティーナの方を見た。
ティーナは不思議そうな顔で、首を横に振っている。
「ティーナはそんな実験のこと、聞いてないの」
「……ティーナも知らないことなのか?」
「でも、やってみるのもいいと思うの」
ティーナはなにかに気づいたように、顔を上げた。
「ティーナの身体には魔力が宿っているの。それが料理を伝ってマスターの中に入って、マスターを強化することもあるかもしれないの」
「なるほど。俺とティーナの魔力を混ぜるってことか」
「うん。実験してみたいの!」
「わかった。やってみよう」
「そ、それじゃ……」
ティーナはスプーンでスープをすくい、コーヤの口元に運んでいく。
「は、はい。マスター。あーん、してなの」
「……うん」
「あ、ちょっと、マスター。動くとこぼれちゃうの」
「いやいや、震えてるのはティーナの方だろ」
「こ、これは……マスターとくっつくと、少し緊張しちゃうから……」
それからティーナは、覚悟を決めたように、うなずいた。
「マスターとティーナが離れているのがよくないと思うの!」
「うん?」
「こうして、ティーナがマスターのお膝に乗ればいいの! 最初からくっついていれば緊張することもないし、距離が近くなるから、こぼれにくくなるの。それじゃ……あーん」
「……あーん」
「もっと大きく口をあけて。あーん」
「ティーナが口を開けてもしょうがないだろ」
「……あ、うん。つられちゃったの」
「…………そっか」
「…………そうなの」
照れた表情で視線を交わすコーヤとティーナ。
そうして、食堂の外では──
「…………わたくしは……今、食堂に入ってもよいのでしょうか」
ドアの隙間から食堂をのぞきながら、震えるアリシアがいたのだった。
──その日の夜。灰狼侯の屋敷で──
「……のどが、かわいたの」
真夜中、ティーナは目を覚ました。
彼女はベッドで身体を起こして、水を作り出す魔術を使おうとする。
すると──
「いけません。ティーナさま」
「真夜中に魔術を使うと、みんながびっくりするです」
「魔力の変化が近くの部屋に伝わってしまうかもです」
「そうすると……コーヤさまが起きてしまうかもしれないです」
枕元にいた精霊たちが、あわてて手を振った。
「…………むにゅ。そうなの?」
寝ぼけまなこのティーナは首をかしげる。
「水は井戸で汲むといいのです」
「ご案内するのです」
「はい、井戸に来たです。水を汲んだのです。飲んでください」
「「「お帰りはこちらです。ティーナさまがお休みになるのは、こちらのベッドなのですー」」」
「…………ふぁい」
水を飲み終えたティーナは、精霊たちに手を引かれ、廊下を進んでいく。
精霊たちが (魔術で音を消して)部屋のドアを開ける。
ティーナは導かれるままに部屋に入り、ベッドに潜り込む。
そうして、ベッドの中で温かいものに抱きついて、眠りに就いたのだった。
──翌朝──
「……どうしてティーナが俺のベッドに?」
「わ、わからないの!」
ティーナは、コーヤに抱きついた状態で目を覚ました。
自分の状態に気づいたティーナは、急いでベッドを出ようとする。
けれど、あわてていたからか、彼女はベッドから転げ落ちそうになり──
「危ない。ティーナ」
がしっ。
コーヤの手が、ティーナの身体を抱きとめた。
「大丈夫か? ティーナ」
「う、うん。平気なの」
「そんなに慌てなくていいよ。寝ぼけることは誰だってあるから」
「で、でも、マスターはティーナの主君なの」
「気にしなくていいってば」
「…………マスター」
ティーナは頬を染めて、コーヤを見た。
「ありがとうございますなの。マスター」
「今度はベッドを間違えないようにね」
「う、うん。気をつけるの」
真っ赤な顔で手を振りながら、ティーナは部屋を出ていった。
そして、廊下に出たティーナは、ふと、立ち止まる。
彼女は照れた顔で、胸を押さえて──
「マスターと一緒に眠っちゃったの……なんだか、うれしいの……」
──優しい笑みを浮かべながら、自室に戻っていったのだった。
そして──
「──精霊の関係者と、人間の距離を近づける方法を試したですー!」
「──『あーん』をしてもらったです!」
「──同じベッドで眠ってもらうのもやったです!」
「──次は将来の話をすればいいですねー?」
「「「こんな感じでいいですかー? アリシアさまー」」」
「…………精霊さま」
「「「はい?」」」
「わたくしのお部屋にいらしてください。お話があります」
偶然、通りかかったアリシアと精霊たちは、話をすることになったのだった。
──数分後、アリシアの部屋で──
「わたくしは間違えておりました!」
「「「間違いですかー?」」」
「人間のやり方を、そのまま精霊さまに適用するのはよくなかったのです!!」
アリシアはきっぱりと宣言した。
目の前には、精霊たちが集まっている。
アリシアは不穏な気配を感じている。
このままだとコーヤとティーナは、「将来の相談」をしてしまうだろう。
そうなったら、決定的ななにかが起きてしまうような気がする。
それは避けるべきだと、アリシアは思っているのだった。
「いきなり精霊さまや精霊姫さまが、人間の真似をするのはよくありません。それをしてしまったら、思いもよらない効果が出てしまう可能性があります!!」
アリシアは拳を握りしめた。
「まずは、人間であるわたくしが、お手本をお目にかけるべきだと思うのです」
「「「──おおおおおっ!!」」」
精霊たちが声をあげた。
「アリシアさまが、身をもって実験してくださるですか!?」
「精霊のために、そこまでしてくださるなんて、すごいのですー」
「アリシアさま、すきすきですー!」
「……あ、ありがとうございます」
胸にちくちくするものを感じながら、アリシアは答える。
「では、わたくしが実験台になるということで、よろしいですね?」
「「「お願いしますですー!」」」
「承知いたしました。わたくしは今日から『あーん』と、一緒に眠ることと、『将来についての相談』をやることといたします。それを継続すると、どのようなことになるのかご覧に入れましょう! その後で、精霊さまたちも実行されるのがよろしいかと」
「「「わかったですー!」」」
精霊たちは大喜びで、アリシアのまわりを飛び回る。
「さすがアリシアさまなのですー」
「実践的で、効果的なご提案なのですー」
「身をもって効果を試してくださるとは、すごいのですー」
「「「さっそくやってみるのですー!!」」」
「は、はい。では……がんばってみます!」
そうして、アリシアは決意を新たにするのだった。
その後──
「それじゃアリシアさま。あーん、してほしいの」
「あの、ティーナさま?」
「ん?」
「どうしてティーナさまが、わたくしの膝に乗っていらっしゃるのでしょうか?」
「マスターの許可があるからなの」
「それはわたくしも存じ上げておりますが……」
アリシアはティーナを膝に乗せたまま、コーヤを見た。
コーヤはテーブルの反対側に座り、じっと彼女たちを観察している。
彼のまわりにいるのは精霊たち。
アリシアがティーナに「あーん」されることになったのも、彼女たちが原因だ。
「実験なのですー」
「ティーナさまが、アリシアさまにごはんを食べさせてさしあげるのです!」
「その効果を観察するのです。どんな変化があるか、興味しんしんなのですー」
精霊たちはじーっとアリシアたちを見ている。
そして、精霊たちの中心にいるコーヤは、
「アリシアが提案してくれた実験か……興味深いな」
目を輝かせてアリシアを見ていた。
(ご、ご覧になっていらっしゃいます。コーヤさまが、わたくしを……見てくださっています。うぅ……)
コーヤの視線にさらされてしまったら、アリシアは抵抗できない。
言われるままに「あーん」して、ティーナが運ぶ料理を受け入れる。
正直、すごく恥ずかしい。
(ど、どうしてこんなことに……)
アリシアが望んだのは、ティーナと立場を入れ替えることだった。
──アリシアがコーヤの口に料理を運んで。
──アリシアがコーヤのベッドに (うっかり)入り込んで。
──アリシアがコーヤと一緒に将来について語る。
そんな予定だったのだけど……。
(精霊さまたち……かんちがいしております! わたくしとティーナさまが距離を近づけてしまってどうするのですか……)
けれど、断れない。
コーヤはふたりの行為をなにかの実験だと思っている。
だからアリシアに熱い視線を向けているわけで……その視線にさらされたアリシアは、身体の力が抜けてしまう。
結局、アリシアは無抵抗のまま、ティーナにご飯を食べさせてもらうことになり──
「「「次は、アリシアさまとティーナさまに、一緒に眠ってもらうです。どんなことになるか楽しみなのです!!」」」
「アリシアさまはこれからも実験に付き合ってくれるの?」
「……やります」
だって、コーヤが見ているのだ。
彼が興味を示している以上、アリシアはそれに付き合う必要がある。
それに、続けていれば、いつかは順番が変わるかもしれない。
アリシアがコーヤにご飯を食べさせて、一緒に眠って……そういう流れになるかもしれないのだ。
だから──
「徹底的にお付き合いいたします。最後まで続けましょう。ティーナさま!」
「ありがとうございますなの!」
「「「やるですよー!!」」」
「やっぱり努力家なんだな。すごいよ、アリシアは」
そんな感じで、アリシアの戦いはまだまだ続くのだった。
おしまい。
書籍版の「【王位継承権】を持つ俺、真の実力を隠したいので辺境に追放されます」はグラストNOVELSさまより、3月27日発売です!
イラスト担当はノキト先生です。
コーヤとアリシア、ティーナ、かわいい精霊たちが大活躍します。
番外編も追加していますので、書店でお見かけのときは、ぜひ、手に取ってみてください!




