第73話「ランドフィア王都攻防戦(3)」
俺たちはゆっくりと、王都に向かって進み出した。
俺の手には魔王剣ベリオール。
俺自身は角を生やした魔王モードだ。
隣にはアリシアとティーナがいる。
少し遅れて、竜姫のメルティ。
さらに後方には、黒熊領の兵団が続く。
ダルサールたちは、俺たちの少し前方を歩いている。
背中を見せているのは『敵対の意思はない』ことを示すためだろう。
やがて、王都の城門が近づいてくる。
王都は高い壁と、水をたたえた深い堀に囲まれている。跳ね橋は上がったままだけれど、まったく問題はない。メルティが『水の上を歩けばいいもんね』と胸を張ってる。
彼女の加護は『不死兵』を含めた、仲間全員に適用される。
王都を攻め落としたいなら堀の上を歩いて、魔法剣で城門をたたき切ればいい。
俺たちはいつでも、王都に突入できる。
だけど、それは最後の手段だ。
俺は『人間の味方をする魔王』だからな。まずは警告からだ。
「開門を願う!!」
俺は、精霊たちの魔法で声を増幅しながら、叫んだ。
「王都の者たちに告げる。俺の名前はコーヤ=アヤガキ、王家によって召喚された異世界人で、灰狼領に住む魔王である!」
城壁の上で兵士たちが動揺している。
そっちの方は気にしない。
防御は精霊たちに任せてあるからな。
「俺は交渉のために王都に来た。王家もそれに同意し、宰相エドガーどのと魔法使いダルサールどのを使者とした。だが! 不当にも王家は、我々に大量の『不死兵』を差し向けたのだ!! 使者の生き死にを考えずにな!! 偉大なる初代王アルカインをあがめる王家が、このような非道を行うとは思わなかったぞ」
上空の精霊たちから『王都のひとたち、びっくりしてます』『ざわざわ話してます』『家に逃げ込んでる人もいますー』と、報告が来る。
俺は魔王っぽく話しているけれど、言いたいことはシンプルだ。
『責任者出てこい』
──以上だ。
出てこないなら、出てくるようにする。
民や兵士に訴えかけてるのはそのためだ。
魔王が王都の前で文句を言ってる状態でなにもしなかったら、王家の面目は丸つぶれだからな。
王家の人間は、魔王に対処しなければいけない。
次の王になりたいのならなおさらだ。
ナタリア王女が出てくれば話は簡単なんだけどな。
あの人は……嫌いだけど、メリットとデメリットの計算ができる人だからな。頭もいいから、ここで魔王に謝罪して、改めて交渉するのが得策だとわかるはず。
面倒なのは、ジュリアン王子が出てきたときだ。
あの人はよくわからないからな。
聖女に動かされてるってうわさもあるし。
できれば、顔を合わせたくないんだが……。
「改めて告げる。開門せよ!!」
俺はふたたび、声をあげた。
「さもなければ王都の門を破り、こちらから王宮に出向くことになるが、それでも構わないか!?」
「──構う。大いに構うとも」
城壁の上から、声がした。
見上げると城門の真上──見張り台のところに、白い獅子がいた。
見た感じ、大きさは数メートルってところだ。魔物だろうか。
獅子の背中には、ふたりの人間が乗っていた。
一人は黄金の鎧を身にまとった、金色の髪の青年。
鎧には翼がついている。『羽つき鎧』のアッパーバージョンか?
あんな派手な鎧を身にまとっているということは──。
「我が名は、ジュリアン=ランドフィア。偉大なるリーナス王の子である」
──やっぱり。
あれがジュリアン王子か。
王子の後ろには黒髪の女性が座っている。王子の背中に隠れて──俺の方に顔を向けている。上空にいる精霊が、彼女の特徴を教えてくれる。
うん。やっぱり、聖女か。
俺と同時に異世界から召喚された女性。たしかカザネという名前だっけ。
でも……なんで彼女が俺をにらんでいるんだ?
精霊たちが報告してくれる。『むちゃくちゃ怒ってます』『怖い顔で精霊王さまを見てます』『失礼な人です。魔法攻撃しちゃっていいですか』と。
……そりゃ俺は魔王として、王都に進軍しちゃってるけどさ。
聖女に個人的に恨まれるおぼえはないんだが……?
「このジュリアンは、魔王との戦いを望んでいる」
城門の上で、ジュリアン王子は言った。
「だが、その前に話がしたい。貴公の来歴についてだ」
「俺の来歴だと?」
「そうだ。貴公は本当に、聖女カザネの義兄なのか?」
…………は?
「魔法使いによる召喚は聖なる者──聖女と、魔なる者──魔王を同時に喚んだ。これは運命か? あるいは、初代王アルカインの意思か? だとしたらアルカインさまは、子孫になんという試練を与えたのだろうか……」
……なんかうっとりとした顔で語り出したんだが。
いや、意味がわからない。
俺が聖女の義兄って。知らないぞ、そんな話。
というか、あんまり興味がない。
俺が義兄ということは、聖女が俺の父親の配偶者の娘ということになる。
つまりは……俺の職場に怒鳴り込んできた、あの女性の娘ってことだ。
弁護士と話をしたとき義理の兄弟姉妹がいるという話は聞いている。遺産分配の説明があったからだ。でも、性別や名前は知らない。
その話になると、父親の配偶者がわめきはじめたからだ。
『子どもがいるのに!』『子どもになんて言えば!』『あんたのせいだ!』って。
だから俺は、兄弟姉妹には興味がなかった。
遺産の相続には関係あるんだろうけど、俺はそもそも相続放棄するつもりだったからな。
相続放棄って言葉を口にしたら『馬鹿にするな!』って怒鳴られたけど。
本当に……俺と一緒に召喚された人の中に、俺の兄弟姉妹がいたのか?
召喚時に自己紹介されたとき、父親と同じ名字の人はいなかった。
ということは、母親の名字を名乗っていたんだろうか。
いや、待てよ?
俺と同じ血を引いているということは……聖女にも『王位継承権』スキルがあるのか?
だとすると『不死兵E』と『不死兵L』を送り込んだのは聖女か?
……いや、それはおかしい。
聖女がマジックアイテムを操っていたなら、そのことを魔法使いダルサールか宰相エドガーが話すはずだ。
ふたりは王家に仕えている。
聖女が俺を攻撃したのに、ジュリアン王子に責任をなすりつけるのは不自然だ。
だとすると……聖女には『王位継承権』スキルがないのか?
それとも、スキルを隠しているのか?
…………はぁ。
本当なら、異母姉妹とは会いたくないんだが。
でも、ここで引き返すわけにはいかない。
俺には、魔王としての責任があるんだから。
しょうがない。ここで、話を終わらせよう。
二度と王都に来なくていいように。はっきりと。
「ジュリアン王子にたずねる。聖女が、我が異母妹というのは本当か?」
「聖女本人がそう言っている。彼女の本当の名は──」
ジュリアン王子は、聖女カザネの名字を告げた。
俺の父親の名字だった。
「ゆえに、魔王に告げる。聖なる者の義兄でありながら貴公は──」
「…………どうしてあなたには、マジックアイテムを操る力があるの」
突然だった。
純白の獅子から身を乗り出して、聖女カザネが声を発した。
「同じ血を引いてるはずなのに、どうして私にはマジックアイテムを操る力がないの!?」
──聖女には、マジックアイテムを操る力がない?
それは……おかしい。
俺に『王位継承権』スキルがあるのは、父親の血を引いているからだと思っていたんだが。
俺の実父の家は十数代前までたどれる名家で、旧貴族の子孫でもある。
だから異世界召喚されたとき、それがスキルとして発言して──俺は『王位継承権』スキルを手に入れた……そのはずなんだけど。
聖女にはそのスキルがないってことは……?
「私がお父さまの血を引いていないってこと!? ありえない。そんなことはありえないはずなのに!!」
聖女は魔法で声を広げながら、叫んだ。
「……聖女カザネに告げる」
俺は魔王の口調でたずねた。
「それは今、王都の前で話すべきことか?」
「うるさい! 質問に答えろ!!」
返ってきたのは罵倒だった。
「どういうことか説明しなさいよ! あんたのせいで、私はこんな思いをしてるんだから!! あんたが責任を取りなさい!!」
聖女は怒りに満ちた形相で、そんな言葉を口にしたのだった。
次回、第74話は、明日か明後日くらいの更新を予定しています。




