第72話「ランドフィア王都攻防戦(2)」
「魔法使いダルサールにたずねる!」
俺は声をあげた。
「敵の『不死兵』は爆発する矢を射てきている。あれはマジックアイテムか!?」
「た、確かに、マジックアイテムだ。だがあれは……炸裂矢は危険なものだ。しかも使い捨ての消耗品だから、ナタリア殿下が使用を許可されるはずが……」
「指示を出されたのはジュリアン殿下でしょう。そこまでされるとは……」
ダルサールの言葉を、宰相エドガーが引き継いだ。
つまり、爆発する矢はマジックアイテム。
しかも魔法使いダルサールが青ざめるほどの危険な品、ってことか。
まあ、吹っ飛んだのは敵の『不死兵E』だけなんだが。
高速起動型の全裸『不死兵』は素早く避けた。
精霊たちは敵が現れた瞬間に上空へと避難した。
避けられなかったのは、動きの遅い『不死兵E』だけ。数は数体。
手足を吹き飛ばされ、地面に転がっている。
とりあえず俺はアリシアの『不死兵』を動かして、奴らに抱きつかせる。管理権限を奪うためだ。『不死兵E』をそのままにしておいたら、長距離攻撃型『不死兵』……めんどくさいからロングレンジ攻撃不死兵の略で『不死兵L』としておこう。
とにかく『不死兵E』を放置していたら、『不死兵L』に対処できない。
『不死兵L』に突撃してる間に、背後から『不死兵E』の攻撃を食らうからな。
しかも敵側は味方のダメージを気にしていない。
王都側にはきっと、大量の『不死兵』があるんだろうな。
対して、こっちの『不死兵』は数が限られている。
相打ち覚悟でこっちの戦力を削るというやり方は間違ってない。魔法使いダルサールと宰相エドガーと、王都の兵士たちの犠牲を前提ってのは気に食わないが。
「作戦を変更する。それじゃ、ティーナ!」
「はいなの。マスター!」
「ティーナの『不死兵』を前線に出す。アリシアの『不死兵』は現状のまま、『不死兵E』の管理権限を奪い続けてくれ。ティーナは『不死兵L』をなんとかしてくれ」
「了解なの!」
『『『ルーロゥ! ララララララララ────ッ!!』』』
ティーナの声にあわせて、緑のバンダナの『不死兵』が、跳んだ。
強い風を身にまとい、『ギガンティック・ストーンウォール』を跳び越えて、飛び道具持ちの不死兵……ロングレンジ攻撃の『不死兵L』に向かっていく。
ティーナの魔力結晶を宿した『不死兵』の能力はシンプルだ。
地・水・火・風の魔法を、自己判断で使用可能。それだけ。
風をまとって長距離をジャンプしたり、目の前に土の壁を作ったりできる。
ただし、魔力の結晶体を身に着けているから、魔法の威力はかなり高い。
そしてもうひとつの特徴は、精霊たちと相性がいいことだ。
だから──
「「「がったい────いっ!!」」」
──すぽーんっ!!
精霊たちが一斉に、ティーナの『不死兵』の背中にしがみついた。
「──敵の攻撃は、風で押し戻すです!」
「──撃ち落とすですよー! スババババーン!」
「──防ぐのです! やるですよーっ!!」
「「「せーのっ!!」」」
精霊たちの声と共に『不死兵』が暴風と、大量の火炎弾と、土の壁を作り出した。
再び『不死兵L』が炸裂矢を放つ。
けれど、ティーナの『不死兵』には届かない。
暴風に勢いを殺された炸裂矢を火炎弾が撃ち落とす。
爆煙と爆風は土の壁にはばまれて、こちらの『不死兵』には届かない。
ティーナの魔力結晶を宿した『不死兵』は、精霊と力を合わせて魔法を使うことができる。その威力は、精霊だけで魔法を使ったときの数倍。それを『不死兵』は華麗なフットワークで移動しながら発射できる。
「……ど、どうなったのですか、魔王どの」
魔法使いダルサールが震える声でたずねる。
状況がわからなくて、不安になったらしい。
『ギガンティック・ストーンウォール』が視界を塞いでるからな。俺は空中にいる精霊たちの視界を借りているけれど、ダルサールたちはそれができない。
わかるのは『ギガンティック・ストーンウォール』の向こうで爆発が起きていること。それと、空中で炸裂矢と魔法がぶつかりあってることだけだ。
そりゃ不安になるよな。
「我が方の『不死兵』が優勢だ」
俺は魔王っぽい口調で答えた。
「こちらの『不死兵』は魔法を連射し、『炸裂矢』を打ち落としているのだ。見るがいい。我が『不死兵』の華麗な動きを」
そう言った直後、ジャンプした『不死兵』の姿が見えた。
ティーナの『不死兵』は、石壁をはるかにこえる高度へと上昇。
そのまま空中で魔法を乱射しはじめる。
それを見た魔法使いダルサールたちは──
「……空中で宙返り、だと? 鎧をまとった兵士が?」
「……『不死兵』が、魔法を連射している」
「「「……動きが速くて防御が堅い魔法使いって反則だろう!?」」」
呆然とした表情で、うめき声をあげた。
まあ、びっくりするよな。
俺も『不死兵』と魔力結晶が、これほど相性がいいなんて思わなかったんだから。
その間にもティーナの『不死兵』は進軍を続ける。
『不死兵L』の攻撃は、精霊つき『不死兵』の魔法にはばまれ、届かない。
そして、こちらの『不死兵』が接近すると──『不死兵L』は弓を手放した。
距離が近くなりすぎたからだ。
ここで炸裂矢を放ったら、『不死兵L』も爆発に巻き込まれる。だから弓を手放して剣を手に取ったわけだ。
けれど、それは致命的な隙だった。
奴らが武器を手に取る前に、ティーナの『不死兵』は槍で腕を切り落とし、脚を砕く。『不死兵L』の動きを封じたあとは、抱きついて管理権限を奪うだけだ。
それを確認して、俺は『ギガンティック・ストーンウォール』を解除した。
石壁の近くでの戦いは終わっている。
アリシアが操る『不死兵』は『不死兵E』の管理権限をすべて、奪った。
石壁が消えた後に現れるのは、王都に武器を向けた40数体の『不死兵』
その足下には破壊された『不死兵』の残骸がちらばっている。
『炸裂矢』の威力はすさまじかった。
『不死兵E』を数十体、破壊してしまったんだ。
「……ジュリアン殿下は失敗した」
宰相エドガーはがっくりと肩を落とした。
「あの方は我々と『不死兵』犠牲にして、魔王どのを討つつもりだったのでしょう。ですが……あの方は戦場を知らなすぎた。『不死兵』同士が相打てば、指揮能力の高い方が勝つのは必定。王都の『不死兵』を使うのであれば、ジュリアン殿下が前線で指揮を取るべきだったのです……」
「魔王どの。ナタリア殿下の代理として、お願いがございます」
魔法使いダルサールは地面に膝をついた。
それから、深々と頭を下げて、
「対価を差し出します。望まれるのでしたら、領地も差し上げるように、ナタリア殿下を説得いたしましょう。お願いです。王都の『不死兵』を……」
「王都側の『不死兵』の管理権限を返してくれ、と?」
「………………はい」
魔法使いダルサールは、青い顔でうなだれている。
まあ、気持ちはわかるけど。
『不死兵E』と『不死兵L』は管理権限を奪われて、魔王と灰狼の味方になった。
王都側から見れば、城下にいきなり大兵力が出現したようなものだ。
ジュリアン王子は俺たちを滅ぼすために、大量の『不死兵』を投入してきた。その戦術は間違っていない。数で押すのは戦争の基本だからな。
ただ、こっちはアリシアとティーナの魔力で『不死兵』を強化していた。
魔力結晶で管理権限を奪う能力を宿していた。
精霊たちを介して戦場を観察して、直接指揮を取ることもできた。
そのことが、俺たちに有利に働いたんだろうな。
『『『ウッゥゥアラララララアァァッァァァァ!!』』』
結果として俺たちは、大量の『不死兵』を手に入れた。
王都の人々を威圧するには十分な数だ。
「さてと、それじゃ話をつけにいこうか。アリシア、ティーナ」
「はい。コーヤさま」
「はいなの。マスター」
「「「了解なのですーっ!!」」」
そうして俺たちは、進軍を開始したのだった。
次回、第73話は、週末くらいに更新する予定です。




