表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

42/94

第42話「魔力の泉を探す」

「おうさまおうさまー!」

「まおうさまー!」

「せいれいおうさまーっ!!」


 その日の午後。

 打ち合わせを終えて屋敷を出たら、子どもたちが近づいてきた。

 灰狼(はいろう)に住む子たちだ。


「あのね。おうさまのおかげで、父さんがおうちに帰ってきたの!」

「へいしのしごとがおやすみになったから、家でお仕事をしてるんだよ! まおうさま!」

「せいれいおうさま、ありがとうございます!」


「そっか。よかったな」


 灰狼では最近、兵士の数を減らしている。

 防壁や結界を作ったことで、領地の守りが強化されたからだ。

 それで、兵士さんたちは家に帰れるようになったんだ。


「俺も仕事をしたかいがあったよ。ありがとう」


 俺は子どもたちの頭をなでた。

 子どもたちはうれしそうに、目を細めてる。

 みんな元気いっぱいで、血色もいい。


 作物がたくさん採れるようになったからな。栄養状態もよくなったんだろう。

 黒熊領(こくゆうりょう)からは魔物討伐(まものとうばつ)報酬(ほうしゅう)として、家畜(かちく)穀物(こくもつ)をもらってるし。


 それに精霊たちの住処(すみか)──精霊樹からは魔力たっぷりの果実が採れる。

 食べると、ちょっとした体調不良ならすぐに治ってしまうものだ。

 おかげで灰狼領の食物事情は、かなり豊かになってるんだ。


「あのねあのね。おうさまにしつもんがあるのー」

「しつもんしてもいいですか!」

「ぼくもぼくも、ききたいことがあります!」


 子どもたちは一斉に手を挙げた。


「いいよ。なにが聞きたいのかな?」


 俺がたずねると、子どもたちは興奮した顔で、


「おうさまのことは。『おうさま』って呼べばいいんだよね?」

「ちがうよ! 『せいれいおうさま』だよ!!」

「『まおうさま』だって言ってるだろ!!」


 ……呼び名かー。

 そういえば俺の肩書きって『精霊王』と『魔王』の2種類あるんだよな。


「普通に『アヤガキさん』『異世界人さん』でいいよ」


「「「だめだよ!!」」」


「だめなの!?」


「りょうしゅさまよりえらいひとなんだから、名前で呼ぶのはしつれいなんだよ!!」

「えらいひとには、それなりの呼び方があるって、おかあさんがゆってた!」

「だから、なんて呼べばいいのかおしえてー!」


「いや、好きな呼び方で……」


「やっぱり『おうさま』だよ!」

「いつもせいれいさんたちをつれてるんだから、『せいれいおうさま』だってば!」

「『まおうさま』って言ってるだろ! もんくがあるならおもてにでろ!」


「なんだとー」

「やるきかー!」

「せいばいしてやる!!」


「待って待って。ケンカしないで」


 俺は子どもたちの間に割って入る。


 ……俺の呼び名か。

 別にこだわりはないんだけど、決めた方がいいんだろうな。


 俺にとっては『精霊王』も『魔王』も仕事だ。

 で、仕事を円滑(えんかつ)に進めるためには、わかりやすい呼び名がいる。

『精霊王』で『魔王』の人間を呼ぶための肩書きがあった方がいい。


「わかった。早いうちに、俺の呼び方を決めておくから」


 とりあえずしゃがんで、子どもたちと目線を合わせる。


「それまでは、それぞれが呼びやすいやり方でいいよ」

「「「わかりましたー!」」」

「うん。いい返事だ」


 この子たちにとって俺は『精霊王』で『魔王』だ。

 いずれこの地位は誰かに引き継ぐことになるんだろうけど、それまでは、いい王でいようと思う。


 正直、『いい王様』がどういうものかはわからない。

 この世界にはランドフィアの王家がいるけど、あれを見本にはしたくない。


 たぶん、手探りでやっていくしかないんだろうな。

 俺が、灰狼の人たちにとっての『いい王様』でいられるように。


「呼び名が決まったら教えるよ。今は、好きによんでいい」

「「「はーい!!」」」

「じゃあ、とりあえず呼んでみて」

「「「はい! せーのっ!!」」」


 子どもたちが一斉に息を吸ったとき──


「おうさまー!」「精霊王さまー!」「というか魔王さまー!」

「「「お迎えに来ましたー!!」」」


 ──空から、精霊たちがやってきた。


「『魔力の泉』について調べましたー。ご主人さまー!」

「ティーナさまのマスターにも現場を見て欲しいのです!」

「精霊の使い手としての感想も聞きたいのです……」


 ……えっと。


「「「やっぱり気になります! どれが正しいよびかたなんですかっ!!」」」


 子どもたちが叫んだ。


「わかったから! 肩書きを考えておくから!!」


 俺はすぐに『精霊王』モードにチェンジ。

 精霊たちと一緒に空を飛び、その場を離れたのだった。








「このあたりに、強い魔力の流れがある……と思うの」


 その後、俺とティーナは山岳地帯(さんがくちたい)を飛んでいた。

 精霊たちによると、『魔力の泉』らしきものが、この近くにあるらしい。

 ただ──


「確信が持てないの。たぶん……魔力が地面の下の、深いところを通っているのだと思うの。ごめんなさい。マスター」

「謝らなくていいよ。このあたりなのは間違いないんだから」


 精霊には土地の魔力を読み取る能力がある。

 彼女たちの感覚によると、このあたりに魔力の流れがあるのは間違いない。

 ただ、あまりに深い場所を流れているので、場所が特定できないそうだ。


「ぼんやりだけど……このあたりにあるのはわかるの」


 ティーナは、落ち込んだ様子だった。


「なのに……正しい位置をマスターに教えることができないの。悔しいの」

「「「悔しいのですー!」」」


 ティーナはうつむいて、精霊たちはじたばたしてる。


「この辺りにあるのは間違いないんだろ。地上に降りて探してみよう」

「……はいなの」

「「「承知しました……」」」


 俺たちは山の中を歩き出す。

 横を歩くティーナは、俺の服の(すそ)をつかんでる。そうすると落ち着くらしい。

 精霊たちは、俺たちの後ろを歩いてる。

 みんな油断なく、まわりを見回してる。


『魔力の泉』とは、高濃度(こうのうど)の魔力が()き出す場所だそうだ。

 この世界の大地には、魔力が流れている。

 時々、それが集まって、大きな流れを作り出すことがある。

 それはとあるポイントに集まって、大きな魔力だまりを作り出す。

 地上に湧き出すと、魔力の泉になる。


 ──それが、メルティの説明だった。


 だけど、魔力が深いところにありすぎて見つけられない、というのは盲点(もうてん)だった。

 まあ、どうしても見つけなきゃいけないってものでもないんだけど。


 だた、俺は王家に対抗するための力が欲しい。

 王家は油断できないからな。

 魔王の称号を手に入れたことで、一応は休戦状態になってるけれど、向こうが完全に手を引くとは思えない。


 王家はマジックアイテムを大量に持っているはずだ。

 物量で押してくることもあり得る。


 それに、王家の人間相手には『不死兵(イモータル)』が使えない。

 あいつらが『不死兵』に触れたら、管理権限を奪われるからだ。

 王家に対抗するには、魔王剣だけじゃ足りない。それ以外の切り札が必要だ。

 (すき)を突かれて……ティーナやメルティが封印されたら嫌だからな。


『魔力の泉』の近くには重要素材があるって話だし。

 それを見つけることができれば、王家への対抗手段になるはずなんだが……。


「……やっぱり、わからないの」


「……感じ取れないですー」

「……このあたりに、なにかがあるはずなのですー」

「……確信がないのですー」


「「「……精霊なのに、役に立てないのですー」」」


 ティーナと精霊たちは歩きながら、しょぼん、と肩を落としてる。


「だから落ち込まなくていいって。面倒なことを頼んでるのは俺の方なんだから」


 ティーナも精霊たちも気負いすぎだ。

 いつの間にか軍隊みたいに、一列縦隊(いちれつじゅうたい)になってるし。

 30人の精霊たちが、足並みをそろえて行進してる。

 もっと気楽にやってもらっても……って、あれ?


「あのさ。精霊たちに聞きたいんだけど」

「「「はいー。精霊王さまー」」」

「さっきまでみんなバラバラに歩いてたよな? なんで、きれいに一列縦隊になってるんだ?」

「「「……?」」」


 精霊たちが首をかしげる。

 それから彼女たちは自分たちの状態を確認して、ぽん、と手を叩いた。


「あれれ?」

「いつの間にか、ですー」

「本当です。わたしたち、一列になってるですー」


 なるほど。

 精霊たち自身も、意識してなかったのか。


「確認したいことがある。ついてきてくれ」


 俺は来た道を戻ることにした。


 しばらく戻ると……精霊たちの隊列がバラバラになる。

 ふたたび進むと、あるポイントで一列縦隊になる。よく見ているとわかる。山の途中のあるところに来ると、列がくずれてバラバラになってる。

 精霊たち自身は気づいていない。やっぱり無意識にやってるのか。


 俺は列がバラバラになるところで、進む向きを変えてみた。


 ある方向に進むと……また列が乱れる。

 別の方向に進むと……一列縦隊(いちれつじゅうたい)のままだ。


 まるで精霊たちが、なにかの流れに沿って歩いているようだ。

 なんだろうな。これは。


 あれ?

 精霊たちは土地の魔力を感じ取れるんだよな。

 でも、『魔力の泉』に関わる魔力は、土地の深いところにあるからわからないと言っていた。


 だけど精霊たちの動きは変わってる。

 もしかして、本人たちが意識していないだけで、魔力を感じ取ってるんじゃないか?

 無意識に、地下の深いところにある魔力を感じて、その流れに沿って歩いている、とか?


 一列縦隊で歩くのは、地下の魔力の流れに、自然と沿うようにしているから。

 列が乱れるのは、その流れから()れたから。


 そう考えると話が通る。

 もちろん、これは仮説だ。でも、試してみる価値はある。


「ティーナと精霊たちにお願いだ。しばらく、俺の指示する場所を歩いてみてくれ」

「はい。マスター!」

「「「承知なのですー」」」


 俺たちは、ふたたび山の中を歩き出す。


 ──精霊たちが自然と、一列縦隊になるコースを進んで。

 ──列が乱れた場所をおぼえて、少し戻って、一列縦隊になる方向を選んで。


 そうして進んでいるうちに──



「「「なんだかこの場所、落ち着くのですー」」」



 精霊たちは、地面をごろごろと転がりはじめた。

 ここから先はどっちの方向に進んでも、一列縦隊に(・・・・)ならない(・・・・)

 この場所で、魔力の流れが止まっているってことか。


「この下に『魔力の泉』……というか、魔力だまりがあると思うんだけど、ティーナの意見は?」

「う、うん。そうなんだけど……マスターはすごいの……」


 ティーナは大きな目を見開いて、じっと俺を見てる。


「精霊たちの動きから魔力の流れを見つけるなんて、ティーナには思いつかなかったの。マスターは、精霊自身も気づかなかった習性に気づいてくれたの。本当に、精霊たちのことをよく見てるの」

「たまたまだよ」


 元の世界ではシステムの保守作業とかやってたからな。

 職業柄、細かい変化には敏感なんだ。


「それより、この下に魔力だまりがあるんだよな?」

「うん。間違いないの」

「わかった。じゃあ、掘ってみよう」


 俺は精霊王の杖をつかんだ。


掘削用(くっさくよう)の集団魔法を作ろう。ティーナ、イメージを」

「はいなの。マスター!」


 俺とティーナは額を触れ合わせた。


 俺は、地面を掘り進める魔法をイメージする。

 ドリルのように奥深くまで。温泉や石油を掘り当てるイメージで。


「──『ディスインテグレイト・ドリル』!!」


「「「『ディスインテグレイト・ドリルなのです────っ!!』」」」


 俺たちの目の前に──漆黒(しっこく)螺旋(らせん)が生まれた。

 それが回転しながら地面に突撃(とつげき)

 そのまま、土と石を分解していく。


『ディスインテグレイト』は物質を分解する魔法だ。

『ディスインテグレイト・ドリル』はそれを螺旋状にしたもの。

 ドリルのように回転しながら、大地を掘り進む魔法だ。


 漆黒の螺旋は地面にめり込み、地下へと姿を消した。

 それでも魔法は維持(いじ)されている。

 分解された土や岩が、穴から噴き出してる。


 俺もティーナは魔力を注ぎ続ける。

 精霊たちと力を合わせて、集団魔法の維持(いじ)を続ける。


 目の前には直径数メートルの縦穴がある。

 深さは──もうわからない。

 たぶん、井戸よりもはるかに深くなってるはずだ。

 その底で、『ドリル・ディスインテグレイト』が大地を掘り進んでいる。


 感覚でわかる。地下100メートルは超えた。

 それでもまだなにも起こらない。

 200メートル。300メートル。400メートル──



「……届いたの」

「「「届きましたーっ!!」」」



 直後、ティーナと精霊たちが集団魔法を解除。

 俺のまわりに魔法の防壁を張り(めぐ)らせる。


 そして、地面が震えて、大きな水音が響いて──



 湯気とともに、大地から巨大な水柱が発生した。

 これは──


「……たくさんの魔力を含んだ水。ううん。お湯なの。つまり──」

「「「温泉なのです────っ!!」」」



 そうして俺たちは、熱い、魔力の泉を掘り当てたのだった。



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ