第42話「魔力の泉を探す」
「おうさまおうさまー!」
「まおうさまー!」
「せいれいおうさまーっ!!」
その日の午後。
打ち合わせを終えて屋敷を出たら、子どもたちが近づいてきた。
灰狼に住む子たちだ。
「あのね。おうさまのおかげで、父さんがおうちに帰ってきたの!」
「へいしのしごとがおやすみになったから、家でお仕事をしてるんだよ! まおうさま!」
「せいれいおうさま、ありがとうございます!」
「そっか。よかったな」
灰狼では最近、兵士の数を減らしている。
防壁や結界を作ったことで、領地の守りが強化されたからだ。
それで、兵士さんたちは家に帰れるようになったんだ。
「俺も仕事をしたかいがあったよ。ありがとう」
俺は子どもたちの頭をなでた。
子どもたちはうれしそうに、目を細めてる。
みんな元気いっぱいで、血色もいい。
作物がたくさん採れるようになったからな。栄養状態もよくなったんだろう。
黒熊領からは魔物討伐の報酬として、家畜や穀物をもらってるし。
それに精霊たちの住処──精霊樹からは魔力たっぷりの果実が採れる。
食べると、ちょっとした体調不良ならすぐに治ってしまうものだ。
おかげで灰狼領の食物事情は、かなり豊かになってるんだ。
「あのねあのね。おうさまにしつもんがあるのー」
「しつもんしてもいいですか!」
「ぼくもぼくも、ききたいことがあります!」
子どもたちは一斉に手を挙げた。
「いいよ。なにが聞きたいのかな?」
俺がたずねると、子どもたちは興奮した顔で、
「おうさまのことは。『おうさま』って呼べばいいんだよね?」
「ちがうよ! 『せいれいおうさま』だよ!!」
「『まおうさま』だって言ってるだろ!!」
……呼び名かー。
そういえば俺の肩書きって『精霊王』と『魔王』の2種類あるんだよな。
「普通に『アヤガキさん』『異世界人さん』でいいよ」
「「「だめだよ!!」」」
「だめなの!?」
「りょうしゅさまよりえらいひとなんだから、名前で呼ぶのはしつれいなんだよ!!」
「えらいひとには、それなりの呼び方があるって、おかあさんがゆってた!」
「だから、なんて呼べばいいのかおしえてー!」
「いや、好きな呼び方で……」
「やっぱり『おうさま』だよ!」
「いつもせいれいさんたちをつれてるんだから、『せいれいおうさま』だってば!」
「『まおうさま』って言ってるだろ! もんくがあるならおもてにでろ!」
「なんだとー」
「やるきかー!」
「せいばいしてやる!!」
「待って待って。ケンカしないで」
俺は子どもたちの間に割って入る。
……俺の呼び名か。
別にこだわりはないんだけど、決めた方がいいんだろうな。
俺にとっては『精霊王』も『魔王』も仕事だ。
で、仕事を円滑に進めるためには、わかりやすい呼び名がいる。
『精霊王』で『魔王』の人間を呼ぶための肩書きがあった方がいい。
「わかった。早いうちに、俺の呼び方を決めておくから」
とりあえずしゃがんで、子どもたちと目線を合わせる。
「それまでは、それぞれが呼びやすいやり方でいいよ」
「「「わかりましたー!」」」
「うん。いい返事だ」
この子たちにとって俺は『精霊王』で『魔王』だ。
いずれこの地位は誰かに引き継ぐことになるんだろうけど、それまでは、いい王でいようと思う。
正直、『いい王様』がどういうものかはわからない。
この世界にはランドフィアの王家がいるけど、あれを見本にはしたくない。
たぶん、手探りでやっていくしかないんだろうな。
俺が、灰狼の人たちにとっての『いい王様』でいられるように。
「呼び名が決まったら教えるよ。今は、好きによんでいい」
「「「はーい!!」」」
「じゃあ、とりあえず呼んでみて」
「「「はい! せーのっ!!」」」
子どもたちが一斉に息を吸ったとき──
「おうさまー!」「精霊王さまー!」「というか魔王さまー!」
「「「お迎えに来ましたー!!」」」
──空から、精霊たちがやってきた。
「『魔力の泉』について調べましたー。ご主人さまー!」
「ティーナさまのマスターにも現場を見て欲しいのです!」
「精霊の使い手としての感想も聞きたいのです……」
……えっと。
「「「やっぱり気になります! どれが正しいよびかたなんですかっ!!」」」
子どもたちが叫んだ。
「わかったから! 肩書きを考えておくから!!」
俺はすぐに『精霊王』モードにチェンジ。
精霊たちと一緒に空を飛び、その場を離れたのだった。
「このあたりに、強い魔力の流れがある……と思うの」
その後、俺とティーナは山岳地帯を飛んでいた。
精霊たちによると、『魔力の泉』らしきものが、この近くにあるらしい。
ただ──
「確信が持てないの。たぶん……魔力が地面の下の、深いところを通っているのだと思うの。ごめんなさい。マスター」
「謝らなくていいよ。このあたりなのは間違いないんだから」
精霊には土地の魔力を読み取る能力がある。
彼女たちの感覚によると、このあたりに魔力の流れがあるのは間違いない。
ただ、あまりに深い場所を流れているので、場所が特定できないそうだ。
「ぼんやりだけど……このあたりにあるのはわかるの」
ティーナは、落ち込んだ様子だった。
「なのに……正しい位置をマスターに教えることができないの。悔しいの」
「「「悔しいのですー!」」」
ティーナはうつむいて、精霊たちはじたばたしてる。
「この辺りにあるのは間違いないんだろ。地上に降りて探してみよう」
「……はいなの」
「「「承知しました……」」」
俺たちは山の中を歩き出す。
横を歩くティーナは、俺の服の裾をつかんでる。そうすると落ち着くらしい。
精霊たちは、俺たちの後ろを歩いてる。
みんな油断なく、まわりを見回してる。
『魔力の泉』とは、高濃度の魔力が湧き出す場所だそうだ。
この世界の大地には、魔力が流れている。
時々、それが集まって、大きな流れを作り出すことがある。
それはとあるポイントに集まって、大きな魔力だまりを作り出す。
地上に湧き出すと、魔力の泉になる。
──それが、メルティの説明だった。
だけど、魔力が深いところにありすぎて見つけられない、というのは盲点だった。
まあ、どうしても見つけなきゃいけないってものでもないんだけど。
だた、俺は王家に対抗するための力が欲しい。
王家は油断できないからな。
魔王の称号を手に入れたことで、一応は休戦状態になってるけれど、向こうが完全に手を引くとは思えない。
王家はマジックアイテムを大量に持っているはずだ。
物量で押してくることもあり得る。
それに、王家の人間相手には『不死兵』が使えない。
あいつらが『不死兵』に触れたら、管理権限を奪われるからだ。
王家に対抗するには、魔王剣だけじゃ足りない。それ以外の切り札が必要だ。
隙を突かれて……ティーナやメルティが封印されたら嫌だからな。
『魔力の泉』の近くには重要素材があるって話だし。
それを見つけることができれば、王家への対抗手段になるはずなんだが……。
「……やっぱり、わからないの」
「……感じ取れないですー」
「……このあたりに、なにかがあるはずなのですー」
「……確信がないのですー」
「「「……精霊なのに、役に立てないのですー」」」
ティーナと精霊たちは歩きながら、しょぼん、と肩を落としてる。
「だから落ち込まなくていいって。面倒なことを頼んでるのは俺の方なんだから」
ティーナも精霊たちも気負いすぎだ。
いつの間にか軍隊みたいに、一列縦隊になってるし。
30人の精霊たちが、足並みをそろえて行進してる。
もっと気楽にやってもらっても……って、あれ?
「あのさ。精霊たちに聞きたいんだけど」
「「「はいー。精霊王さまー」」」
「さっきまでみんなバラバラに歩いてたよな? なんで、きれいに一列縦隊になってるんだ?」
「「「……?」」」
精霊たちが首をかしげる。
それから彼女たちは自分たちの状態を確認して、ぽん、と手を叩いた。
「あれれ?」
「いつの間にか、ですー」
「本当です。わたしたち、一列になってるですー」
なるほど。
精霊たち自身も、意識してなかったのか。
「確認したいことがある。ついてきてくれ」
俺は来た道を戻ることにした。
しばらく戻ると……精霊たちの隊列がバラバラになる。
ふたたび進むと、あるポイントで一列縦隊になる。よく見ているとわかる。山の途中のあるところに来ると、列がくずれてバラバラになってる。
精霊たち自身は気づいていない。やっぱり無意識にやってるのか。
俺は列がバラバラになるところで、進む向きを変えてみた。
ある方向に進むと……また列が乱れる。
別の方向に進むと……一列縦隊のままだ。
まるで精霊たちが、なにかの流れに沿って歩いているようだ。
なんだろうな。これは。
あれ?
精霊たちは土地の魔力を感じ取れるんだよな。
でも、『魔力の泉』に関わる魔力は、土地の深いところにあるからわからないと言っていた。
だけど精霊たちの動きは変わってる。
もしかして、本人たちが意識していないだけで、魔力を感じ取ってるんじゃないか?
無意識に、地下の深いところにある魔力を感じて、その流れに沿って歩いている、とか?
一列縦隊で歩くのは、地下の魔力の流れに、自然と沿うようにしているから。
列が乱れるのは、その流れから逸れたから。
そう考えると話が通る。
もちろん、これは仮説だ。でも、試してみる価値はある。
「ティーナと精霊たちにお願いだ。しばらく、俺の指示する場所を歩いてみてくれ」
「はい。マスター!」
「「「承知なのですー」」」
俺たちは、ふたたび山の中を歩き出す。
──精霊たちが自然と、一列縦隊になるコースを進んで。
──列が乱れた場所をおぼえて、少し戻って、一列縦隊になる方向を選んで。
そうして進んでいるうちに──
「「「なんだかこの場所、落ち着くのですー」」」
精霊たちは、地面をごろごろと転がりはじめた。
ここから先はどっちの方向に進んでも、一列縦隊にならない。
この場所で、魔力の流れが止まっているってことか。
「この下に『魔力の泉』……というか、魔力だまりがあると思うんだけど、ティーナの意見は?」
「う、うん。そうなんだけど……マスターはすごいの……」
ティーナは大きな目を見開いて、じっと俺を見てる。
「精霊たちの動きから魔力の流れを見つけるなんて、ティーナには思いつかなかったの。マスターは、精霊自身も気づかなかった習性に気づいてくれたの。本当に、精霊たちのことをよく見てるの」
「たまたまだよ」
元の世界ではシステムの保守作業とかやってたからな。
職業柄、細かい変化には敏感なんだ。
「それより、この下に魔力だまりがあるんだよな?」
「うん。間違いないの」
「わかった。じゃあ、掘ってみよう」
俺は精霊王の杖をつかんだ。
「掘削用の集団魔法を作ろう。ティーナ、イメージを」
「はいなの。マスター!」
俺とティーナは額を触れ合わせた。
俺は、地面を掘り進める魔法をイメージする。
ドリルのように奥深くまで。温泉や石油を掘り当てるイメージで。
「──『ディスインテグレイト・ドリル』!!」
「「「『ディスインテグレイト・ドリルなのです────っ!!』」」」
俺たちの目の前に──漆黒の螺旋が生まれた。
それが回転しながら地面に突撃。
そのまま、土と石を分解していく。
『ディスインテグレイト』は物質を分解する魔法だ。
『ディスインテグレイト・ドリル』はそれを螺旋状にしたもの。
ドリルのように回転しながら、大地を掘り進む魔法だ。
漆黒の螺旋は地面にめり込み、地下へと姿を消した。
それでも魔法は維持されている。
分解された土や岩が、穴から噴き出してる。
俺もティーナは魔力を注ぎ続ける。
精霊たちと力を合わせて、集団魔法の維持を続ける。
目の前には直径数メートルの縦穴がある。
深さは──もうわからない。
たぶん、井戸よりもはるかに深くなってるはずだ。
その底で、『ドリル・ディスインテグレイト』が大地を掘り進んでいる。
感覚でわかる。地下100メートルは超えた。
それでもまだなにも起こらない。
200メートル。300メートル。400メートル──
「……届いたの」
「「「届きましたーっ!!」」」
直後、ティーナと精霊たちが集団魔法を解除。
俺のまわりに魔法の防壁を張り巡らせる。
そして、地面が震えて、大きな水音が響いて──
湯気とともに、大地から巨大な水柱が発生した。
これは──
「……たくさんの魔力を含んだ水。ううん。お湯なの。つまり──」
「「「温泉なのです────っ!!」」」
そうして俺たちは、熱い、魔力の泉を掘り当てたのだった。




