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第37話「いにしえの竜王と出会う」

 お待たせしました。

 第2章、開始します。



──────────────────────


・第1章のあらすじ


 綾垣航也(あやがきこうや)は異世界に召喚(しょうかん)された。

 そこは強大な王家が、力で他者を支配する世界だった。


 王家の力の源は、初代王が残したマジックアイテム。

 それは王家の血筋で、『王位継承権』を持つ者のみが操れる、強力なものだった。

 王家はその力によって人々を支配していたのだ。


 召喚されたコーヤは、自分の中に『王位継承権』スキルがあることに気づく。

 それは王都にいる(・・・・・)コーヤにとっては、最悪のハズレスキルだった。


「王家の連中に……俺が王位継承権を持つ異世界人だってバレたら、絶対に殺される」


 コーヤは能力を(いつわ)ることで、北の果てに追放されることを決めるのだった。




 北の果ての灰狼侯爵領はいろうこうしゃくりょうで、コーヤは侯爵令嬢(こうしゃくれいじょう)のアリシアと出会う。

 コーヤはアリシアに自分の事情を教え、彼女を拘束(こうそく)していた『首輪』を外す。

 アリシアはコーヤの共犯者(きょうはんしゃ)なることを約束する。


 その後、コーヤは封印されていた精霊たちを解放して、精霊王の地位を得る。

 マジックアイテムと精霊の力を得たコーヤは、灰狼を魔物に襲われる心配のない、快適な場所に替えていく。


 その後、コーヤたちは黒熊侯爵(こくゆうこうしゃく)干渉(かんしょう)をはねのけて、灰狼に隠されていた魔王剣を手に入れる。

 それによって、コーヤは魔王を継承することに成功する。


 精霊王と魔王の力を示し、コーヤは王家と交渉する。

 精霊王と魔王の力と、マジックアイテムの使用権を持つコーヤに、王家の力はおよばない。

 王家は敗北を認め、コーヤと灰狼領に自由を認めるしかなかった。



 王家の干渉をはねのけたコーヤは、のんびりとスローライフを楽しむことにする。

 そんな彼の前に、伝説の竜王ナーガスフィアが姿を現したのだった。




・第2章





 ナーガスフィアの伝説については、以前、アリシアが教えてくれた。


 ──ナーガスフィアは北方の海に住む巨大な竜で、船乗りの守り神。

 ──気に入った人間の船を守り、無事に港に導いてくれる。

 ──シーサーペントやジャイアントタートルなど、海に住む魔物たちを鎮める力を持つ。

 ──人間からは水竜(すいりゅう)とも、竜王とも呼ばれている。


 ということだった。


 その竜王ナーガスフィアが目の前にいる。

 ……すごいな。

 本当に巨大だ。頭だけで、ちょっとした自動車くらいの大きさがある。


 瞳は金色で、頭には角が生えている。

 鱗は銀色に光っている。

 姿は……東洋の絵姿に描かれるような、長大なかたちをしている。蛇の胴体に、かぎ爪のついた前脚。それ以外は水面の下にあるから、よくわからない。

 本当に、きれいな生き物だ。


 アリシアの話によると、竜王は海を統べるものらしい。

 だとすると、海についても詳しいだろう。

 そう思って海の向こうのことや、潮の流れについて聞いてみたんだが……失礼だったか


「異世界人で精霊王で魔王……であるか」


 やがて、竜王ナーガスフィアは、口を開いた。

 竜王は水面から身体を出したまま、ほとんど身動きしていない。

 ただ、角だけがかすかに震えている。


 それが関係しているのかどうかはわからないけれど、さっきから海面が()いだままだ。

 竜王ナーガスフィアがいる場所を中心に(しず)まり、(かがみ)のようになっている。

 ティーナにも似たようなことはできるけれど、効果範囲も力のレベルも違う。

 これが、竜王の力なのか。


「一人の人間が精霊王と魔王を兼ねるなど、そのようなことが……」

「信じられないかもしれませんが──」

「まあ、そういうこともあるだろうな!」


 あれ? 納得したのか?

 俺はまだ『精霊王モード』にも『魔王モード』にもなってないんだけど。


「信じてくれるんですか? 竜王さま」

「うむ!」

「そんなにあっさり?」

「お主は(うそ)をついているのか?」

「ついていませんが」

「ならばよし!!」


 竜王ナーガスフィアはうなずいた。


「実際に海の封印は解かれておる。お主の(となり)には精霊姫(せいれいひめ)がおり、頭上には精霊たちが飛び回っておる。その姿を見ればわかる。お主は確かに、精霊王を継承しておるのだろう」

「は、はい。コーヤさまは精霊王でいらっしゃいます!」

「「「精霊王さまなのですー!!」」」


 ティーナは竜王に向かって宣言(せんげん)し、精霊たちが唱和(しょうわ)する。


「「「お疑いなら精霊王をたたえる歌をうたうですー! らららー」」」

「よいよい。疑ってはおらぬでな」


 その姿を見た竜王は満足そうに、


「コーヤ=アヤガキよ。お主は嘘をついておらぬ。ならばお主は魔王でもあるのだろう。うむうむ。よしよし」

「は、はい。納得してもらえてうれしいです」

「それに、余には人間のことは、よくわからぬからな」

「そうなんですか?」

「うむ。余たちがアルカインに封印されたのも、それが理由だ」


 竜王は()れたように、前脚を伸ばして、(あご)を掻いた。

 その拍子(ひょうし)に大波が立つ……けれど、俺たちがいる場所に来る前に、すぐに消える。


 やっぱり、竜王が水面をコントロールしているらしい。

 しかも、俺たちに海水がかからないようにしてくれてる。すごいな、竜王は。


「恥ずかしい話だがな、余は人間をなめておったのだ。人間は身体が小さく、寿命も短い。余たちが助けてやらなければならぬ者たちだと、見下しておった。その結果、敗北して封印されてしまったのだよ」

「では、竜王さまも初代王アルカインに?」

「うむうむ。不意を突かれて封印されたな」


 恥ずかしそうに顔を押さえる竜王。

 ()()さんだった。


「200年前、この地に住む者たちは年に1度、竜をたたえる祭りを行っていたのだ。そこに娘とともに顔を出したところ、アルカインと聖女と賢者によってたかって攻撃されてな。弱ったところを封印されてしまったのだ。その後は、海の底で眠りについておった」

「そうだったんですか……」

「気がつかずに申し訳ありません。竜王陛下(りゅうおうへいか)


 不意に、アリシアが前に出た。

 彼女はスカートの裾をつまみあげ、一礼(いちれい)する。


「わたくしたちは竜王陛下のことも、古の祭りのことも失念(しつねん)しておりました。この地を治める者として、お恥ずかしい限りです」

丁寧(ていねい)なあいさつ、いたみいる」


 竜王は会釈するように、小さく(あご)を動かした。


「この地を治める者ということは、貴公は領主か、その縁者であるか?」

「はい。灰狼侯爵家(はいろうこうしゃくけ)の長女アリシア=グレイウルフと申します」

「おお。なるほど。灰狼(はいろう)……狼の名を(かん)した貴族か。なるほど、そういう名の貴族が残ったか」

「竜王さまは灰狼の名をご存じなのですか?」

「そうなのだが、その前に確認することがある」

「はい?」

「アリシア=グレイウルフどの。貴殿はコーヤ=アヤガキどの……つまり、精霊王で魔王でいらっしゃる方の妻であられるか?」

「つ、つみゃ!?」


 あ、()んだ。


「つ、つみゃだなんて……わ、わたくしはそんな立派な者ではありません! わわわ、わたくしは、コーヤさまの共犯者(きょうはんしゃ)にして、臣下(しんか)です。部下(ぶか)です! 常にコーヤさまの存在をこの胸に感じながら生きる者ですから、むしろ下僕(げぼく)のようなものだと……」

「え? 俺、アリシアを下僕あつかいしてたのか?」

「ち、違うのです! それはわたくしの願望……いえ、希望……でもなくて! と、とにかく、言葉を間違えました! わたくしは常に、コーヤさまのご命令を全身全霊で果たすことを考えておりますので! それをよろこびとしていますので!」

「俺はアリシアのことを、家族みたいに思ってたんだけどな」


 元の世界では、俺は家族運が良くなかった。


 父親は俺が生まれてすぐに死んだことになっていた。

 母さんは、俺が学生のうちに死んでしまった。

 実は生きていた俺の父親は、結局、顔を合わせる前に死んで、そのせいで父親の配偶者(はいぐうしゃ)からはバッシングを受けることになった。

 結局、そのせいで、仕事も()めることになってしまった。


 でも、それは元の世界での話だ。

 この世界の俺には、それなりの力がある。家族を守ることくらいできる。


「もちろん、俺は異世界人だからね。アリシアたちとは、家族についての考え方も違うのかもしれない。だけど、俺は家族みたいな存在になりたいと思ってる」

「わ、わたくしが……コーヤさまの家族に。わたくしのようなものでいいのでしょうか……」

「アリシアはそのままでいいと思うよ」

「そのままで!?」

「うん。ありのままのアリシアでいい」

「ありのままのわたくし!? (かざ)らない……自分を隠さないわたくしでよいのですか!? それを、コーヤさまは受け入れてくださると……」

「うん? えっと……いいんじゃないかな?」

「わ、わかりました。よーくわかりました」


 それからアリシアは、竜王ナーガスフィアの方を見て、


「……ということなのです。わたくしコーヤさまの家族のようなもので、これから、ありのままの、飾らない、自分を隠さないわたくしでコーヤさまのお側にいることになるのです! ですから、つ、つみゃではないのです! そもそも、一人目か二人目かも決まっておりません。だから、申し上げにくいことではあるのですが! 竜王陛下のお言葉を否定するのは心苦しいのですが、アリシア=グレイウルフはコーヤさまのつみゃではありませんっ!」

「さようか。では、精霊姫(せいれいひめ)はどうなのかな?」

「ティーナは、そういうことにはこだわっていないの」


 ティーナは落ち着いた表情で、答えた。


「ティーナはマスターと(つな)がれれば、それで幸せなの。側にいて、繋がることで、満たされた気分になるの。これをずっと深めていくことが、ティーナの希望なの」


 なるほど。

 俺とティーナは魔法を使ったり、精霊に指示を出したりするときにくっついて、魔力的に繋がってる。

 そうするとティーナは満たされた気分になるらしい。

 その技を(きわ)めるのが、ティーナの希望ってことか。


「うむうむ。よしよし」


 アリシアとティーナの言葉を聞いて、竜王がうなずく。


「それで、竜王さま」

「なにかな?」

「海のことについて聞きたいんですが、詳しく教えてもらえませんか?」


 海の向こうになにがあるのか。

 停泊できそうな小島や、有人島や無人島の位置など。

 潮の流れや、魚の動き。

 船で行くのにちょうどいい、他の侯爵領(こうしゃくりょう)について。


 ──それらの情報は、今後の灰狼侯爵領はいろうこうしゃくりょうために役立つはずだ。


「情報を教えるのは構わぬ。封印を解いてくれた者にお仕えすると決めたのは余だからな」

「別に仕えるとかはいいんですけど……」

「竜王に二言(にごん)はない! だが……提案はする!」


 竜王は、にやりと笑ったように見えた。


「実は……余は、人の世界に我が娘を派遣(はけん)したいと思っているのだよ」

「……はい?」

「さっき話したであろう? 人間をなめていたせいで、アルカインたちに不意打ちを受けて、封印されたと」

「あ、はい。そうでしたね」

「つまり、余たちは人間について知る必要があると思うのだ。本来は余が人の姿になり、人間とともに()らすことができればいいのだが……それは難しくてなぁ」


 それから竜王は、自分たちの生態(せいたい)について話してくれた。


 竜は卵で生まれてくる。

 幼いころは存在自体がやわらかくて、竜になったり、人間になったりできる。

 成長して成体になると存在が固定化されて、竜の姿にしかなれなくなる。

 だから竜王が人の姿になることはできないらしい。


「そこで我が娘を、お主たちに預けたいのだ」

「竜王さまの娘さんを、ですか?」

「うむ。次の世代の竜王は、人間の世界のことをよく知る者がふさわしい。我のような間違いをせぬためにも。人の中で暮らし、人について学び、ある程度の力を持つ者こそが、次の竜王になるべきだと思うのだよ」


 竜王ナーガスフィアは角を揺らしながら、そんなことを言った。


「娘は海のことをよく知っておる。お主の知りたいことは、娘から聞くがよかろう。娘は人間の姿になれるからな。人の側で、時間をかけて、知りたいことを伝えることができるだろうよ」

「確かに……そうですね」


 いい話だと思う。

 灰狼領(はいろうりょう)が生き残るためには、味方が必要だ。

 王家は灰狼領に手を出さないと約束してくれたけれど、それがいつまで続くかはわからない。王家が他の侯爵領(こうしゃくりょう)を動かす可能性もある。

 その前に、他の侯爵領と連絡を取っておきたい。

 王家に知られないように動くには、海路(かいろ)を使う方がいい。

 どうせ街道は見張られてるだろうし。


 竜王の娘さんに灰狼に来れば、海のことを色々教えてもらえる。

 もしかしたら、俺たちの理解者になってくれるかもしれない。

 竜王も人間について知ることができる。


 うん……利害は一致してるな。


「娘さんは、まだ人間の姿になれるのですよね?」

「うむ。あと20年は大丈夫だろうな」


 竜王はうなずいた。


「それに、ある条件を満たせば、成体としても人に変身できるのだ」

「そうなんですか?」

「できれば娘には、そうなって欲しいと思っている。だがな、それには幼体のころから、人に混じって生きる必要があるのだよ。余は、娘に選択肢(せんたくし)をあげたいのだ」

「わかりました。それじゃ、アリシア」

「は、はい。コーヤさま」

「俺は竜王さまの娘さんを受け入れるべきだと思う。竜王さまの娘さんのことは、灰狼公爵家(はいろうこうしゃくけ)に来る留学生(りゅうがくせい)だと思えばいいんじゃないかな」

「……ですね」

「灰狼の(ふところ)は深い。みんな、異世界人の俺を普通に受け入れてくれただろ。竜王の娘さんも、同じようにしてくれるんじゃないかな」

「はい。問題ありません。父も、賛成(さんせい)してくださると思います」


 アリシアは興奮(こうふん)した表情だ。

 ……いや、それはさっきからだけど。


「わたくしも、竜王ナーガスフィアさまの物語は何度も読んでおります。その娘さまとお話ができるのはうれしいです」

「ティーナも、いいかな? 精霊たちにも、竜王の娘さんのお世話を頼むかもしれないけど」

「もちろん、いいの。というより、たずねる必要もないことなの」


 ティーナはそう言って、笑った。


「マスターは精霊王なんだから、命令すればいいの」

「俺は風通しのいい職場を目指してるからな。部下の意見も聞くよ」

「ふふっ。そういうマスターだから、精霊たちもよろこんで従うの」

「というわけで、灰狼侯爵家のアリシア=グレイウルフと、灰狼の代官であるコーヤ=アヤガキ、それと精霊姫のティーナは、竜王さまの娘さんを留学生として受け入れます」


 俺とアリシアとティーナ、竜王に向かって頭を下げた。


「うむうむ。感謝する」


 竜王が笑ったように見えた。

 竜の表情はわかりにくいから、なんとなくだけど。


「娘が成体となっても人間でいられるように、協力してくれることを願う」

承知(しょうち)しました」

「それでは、我が娘メルティよ。あいさつを──」

「父さまは勝手に話を進めすぎです!!」


 不意に、声がした。

 竜王の背後からだった。


 よく見ると、竜王の首の後ろに、小さな人影があった。

 真っ白な腕が、竜王の(うろこ)をつかんでいる。

 肩まで伸びた髪は、淡い水色。

 (ひとみ)は海を思わせる、深い青。


 竜王の後ろにいた人物は、心を決めたように移動を始める。

 竜王の身体を登って、頭の上に。

 それから、角をつかんで、竜王の頭頂部で立ち上がる。


 そこにいたのは年若い少女だった。

 アリシアやティーナより幼く見える。人間で言えば、12歳前後ってところだろう。

 身に着けているのは、貝で作られた服だ。

 それで胸と腰を覆っている。

 耳の後ろには、短い角がある。あれが竜の証なんだろうか。


 彼女はじっと俺を見て、(あわ)てて視線をそらす。

 それからまた、俺たちの方を向いて、


「あいさつはちゃんとします。竜王ナーガスフィアの娘、メルティよ。海の生き物たちからは竜姫(りゅうき)と呼ばれてるわ」


 風になびく髪を押さえながら、彼女は言った。

 そして、


「あたしを受け入れてくれたことに感謝してます。で、でもね。あたしが人間の世界に行くのは、竜や海の一族のためなんだから。人間のことを学びたいだけなんだからね?」

「は、はぁ」

「別に人間の文化に、あこがれてなんかいないんだから。ま、まあ、人間の服はかわいいけど、海の中じゃ、貝や海草で作った服しか着られなくてさみしいけど! でも……だからって、人間を尊敬したり、あこがれたりしてるわけじゃ……」

「すまぬ。うちの子は、素直になれない性格で──」

「お父さまうるさい!!」

「ごめんよ」

「最初が肝心(かんじん)でしょ!? 人間を見下したりはしないけど、警戒はするんだからね。あたしたちは、人間によって封印されちゃったんだから!」

「それはわかる。だから、良きお方から学ぶべきだと。できれば、成体になっても人間になれるように──」

「人間の世界のことを学ぶのはこの姿の──幼体のときだけだもん!」


 竜王の娘メルティは、父親の角をぺちぺちと叩いている。


 確かに、彼女が戸惑(とまど)うのはわかる。

 封印から解かれて、目覚めてすぐに人間の世界に行くことになったんだ。

 びっくりするし、抗議(こうぎ)もしたくなるよな。


 それでも彼女は、一族の留学生になることを受け入れようとしている。

 灰狼侯(はいろうこう)のレイソンさんや精霊王ジーグレットのように、高貴な者としての責任を果たそうとしている。

 それは、すごいことだと思うんだ。


「はじめまして、異世界人のコーヤ=アヤガキと言います」


 俺は竜王の娘メルティに向かって、深々と頭を下げた。


灰狼領(はいろうりょう)の代官として、俺はメルティさんを歓迎します」

「……えっと」

「あなたがこの地で心地よく過ごせるように、人間のことをよりよく学べるように、俺が協力することを約束します。どうか、安心してください」

「…………あなたは、人間?」

「人間だけど、精霊王で魔王です」

「わ、わかったわ。よ、よろしくお願いするわね」


 竜王の頭の上で仁王立ちして、メルティは言った。


「約束通り、海のことはなんでも聞いていいわ。でもね、何度も言うけど、あたしがあなたたちにお世話になるのは、人間のことを知るためで──」

「これからお世話になる方をいつまで見下ろしている!? 失礼であろう!!」

「わ、わわわ。父さま……!?」


 竜王ナーガスフィアが、その頭部を下ろした。

 波打(なみう)ち際──俺たちのすぐ側へ。


「余はこれから、竜王復活を海の者たちに伝えに行かなければならぬ。後のことは、灰狼の方々に任せる」

「は、はい。父さま……」

「灰狼の方々よ。メルティをよろしくお願いする。できれば客人ではなく、身内のようにあつかって欲しい。多少は(ざつ)でも構わぬからな。あと、メルティよ。お前もいい加減に地上に下りろ!」

「お、お父さま!? わ、わわわっ!?」


 竜王が頭を振った。

 メルティがバランスを崩して、砂浜に倒れ込む。

 俺は手を伸ばし、彼女の手をつかんだ。


 体勢を立て直した彼女は、砂浜に降り立つ。

 そして──


「あ、ありがとう。えっと、アヤガキさん?」

「コーヤでいいですよ」

「じゃあ、コーヤさん。あの、あのあの……」


 メルティは言葉を探すように左右を見て、後ろを見て、竜王がさっさと海へと去って行くのを確認して──

 それから、覚悟を決めたように、目を閉じて──


「竜姫のメルティよ。こ、これからよろしくお願いするわ!!」


 ──俺たちに向かって、深々と頭を下げた。

 俺の手を、しっかりと握ったままで。


 こうして竜姫(りゅうき)メルティは、灰狼の客人となったのだった。





 第2章、スタートしました。

 しばらくの間は週に1回か2回の、不定期更新になる予定です。




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― 新着の感想 ―
[良い点] 何話も貯まったので読み始めました。 あのスキルの作品と元中二病の中年の作品とが合体した様な作品ですね! 話しのノリと流れがよく似ていて、大変面白いです!
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