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付き合っていないと言いつつイチャつくカップルが面白い  作者: masterpiece (村右衛門&モ虐)
<中学2年生--1学期>
6/52

第四話「休み、不謹慎にも好機」



 

―――美術室にて


「あぁぁ、ダルいぃぃぃ」

 今日の部活は里奈の女子とは思えないような情けのない声で幕を開けた。

 何があったのかわからない他の二年生組は首を傾げながらどこか苦笑を浮かべている。

 里奈がこんな感じで〝素〟を見せることは最近多くなってきた。というよりも、最近では基本的に取り繕っている里奈の様子など、見た記憶がない。

「どしたん、里奈」

 次世代部長候補と目され、地味にリーダーシップを発揮している美穂が声を掛けると、里奈は坂に転がされたスライムのようにどろどろと動きながら自らのリュックサックを探り始める。

 ガサガサと探りながら「これは違う」「これは……違う」と呟き、十秒ほどしてから茶色の封筒を取り出した。

 その封筒を見て、二年生組は何か、重要書類だろうか、とあたりをつける。しかし、その予想は翻された封筒を前にはずれだと分かった。

 

―――連絡袋 「佐々木 美咲」さんへ


 その封筒は、休みの人に配布資料などを持っていくためのものであった。

 そこに書かれた名前は、里奈の口から時々出てくる「みさっちゃん」というあだ名の本家である。もとから病気がちで、小学校時代にも良く休んでいた。

 中学校に入ってから少しは改善されたようだが、それでも時折休んでいる。

 今日がその日のようで、里奈はその美咲の連絡袋を任されたようだ。


「家が近いんですか?」

 大輔が尋ねると、里奈はうぅぅぅんと長く唸る。

 基本的に、休みの人の連絡袋を任されるのはその人の家に近い人、又は帰路の途中にその人の家がある人などである。大輔も、担任の先生が休みの人の封筒を届けやすい人に渡すため、わざわざ逆校舎の二つ階を降りたところの教室に向かう場面を幾度か見てきた。

「この子の家、ほとんど誰も知らんのよぉ……やから私が行かなあかん。ほんとに、知ってるの私か、美穂か、神谷君くらい」

 大輔は、里奈の返答に成程、と頷きを返す。

 それなら里奈には可哀想だが、仕方がないとあきらめるほかない。


「っていうか、皆、家どこなん?」

 祐介がぽっとそんな事を言う。里奈の深い溜息だとか、唸り声が聞こえてきているのに、ほぼ無視している。

「いやまぁ、個人情報やしあれやねんけど」

 そう言いながら、祐介は学校支給のタブレットを取り出す。

 ピポパッテテ、シュシュッと画面を素早く操作しながら、便利な地図アプリを立ち上げると、軽く操作して「あっ、ここ」と他三人の前にタブレットを出す。

 三人が―――大輔は女子二人を優先して精神距離の2メートル離れて―――タブレットを覗き込むと、一軒家がピン止めされていた。

「これが、俺ん家」

 そう言って、祐介は画面を縮小し、広範囲を地図に映し出す。大体、学校区が全体映し出されているくらいだろうか。


「皆んとこは?」

 祐介の質問に、三人はうぅん、と唸りながら細かい地図とにらめっこを始める。

 初めに自らの家を見つけたのは大輔であった。

「ここが、僕の家ですね。マンション群の近くなので、見つけやすい」

 そう言って大輔が指差したのは、祐介の家とは彼らの通う中学校を通って全くの逆といっていい、対角のような場所だった。


「あ、私ここ」

 大輔に続いて、自分の住所を探し当てたのは里奈である。

「ついでに、みさっちゃんの家はここ」

 そう言いながら、二つの一軒家を指さす。

 先程個人情報だから、というような話がなされたばかりだというのに、里奈はさっと友人の個人情報を曝す。

 まあ、大輔にせよ祐介にせよ、最早既に知っていた美穂にせよ、誰も悪用する気も他に情報を共有する気もないので今回ばかりはセーフである。

「成程、少し遠いですね……」

「そうなんよぉ、この公園とか突っ切れたら早いんやけど、校則的になぁ」


「ここが私かな」

 最後になったが、美穂が自宅の位置を探し当てる。

「おや、佐藤君と近いですね」

 ふとした呟きだったが、最近注目されている「美穂×健太ペア」に関連する話題に、里奈の目つきが変わる。

「待って! 美穂の方がみさっちゃんの家近ない?」

 少し大袈裟に、里奈が声を上げる。

 その意図を即座に汲んだ大輔と祐介も「確かにですね」「そうやな」と賛同の意を示す。何とも、全員で里奈が任された封筒を美穂に押し付けようといったような風潮だが、これも必要なことだ、許せ、と心の中で里奈は念じる。

「あ、じゃあ私行こか?」

「任せたッ!」


 待ってました、と言わんばかりに里奈が茶封筒を美穂に手渡す。

「ついでに、佐藤とか、連れてったらいいんちゃう? 最近リアルで会ったって言ってたし」

「そうですね、彼も部活終りで疲れているでしょうし、休憩と言いますか、癒しと言いますか、そう言うのも必要ですよ」

「……? 疲れてるなら、連れまわさんとはよ帰ったら良いんちゃう? まぁ、連れてくけど」

 畳みかけるように納得できるような出来ないような理由を並べ立てられ、押し切られる形で美穂が佐藤を連れて行く、ということに同意する。

 ヨシッ、とガッツポーズをとりたくなっているのを如何にか抑えながら、里奈はうんうん、と頷く。


 その日の部活は里奈を中心に、熱気にあふれていた。部活が終われば、美穂と健太が一緒に帰るのだ。その事を知っていれば、無意識にでも口角が上がるというものである。



 * * *


キーンコーンカーンコーン

 

部活終了時刻を告げるチャイムが鳴って―――。

 示し合わせたかの如く、里奈と祐介、大輔はそれぞれ行動に移る。

「では、僕は帰りますね」

 そう言って、大輔は独り早く美術室をあとにする。

 そのまま、昇降口を出て、健太を見つけると「やあやあ」と言いながら近付き、軽く足止めをした。美穂が来る前に健太が帰ってしまっては元も子もない。


 祐介は、健太を足止めしている大輔を追い越して走り、校門前で誰かを待っているかのようにそわそわと校門の方を見つめ始めた。

 人待ちをしている人の近くで人を待つ、という行為は学生にとってかなり気まずいことである。祐介が校門前で人を待っているふりをすることで、この場所から人を軽く遠ざけることが出来るわけだ。


 里奈は、窓の外から健太と大輔の様子を見ながら、美穂の連行係だった。途中で美穂の考えが変わっては困る。そんなことのないようにしながら、健太のところまで美穂を誘導するのが美穂の役目だ。


 三人が、何故かこの時だけ超優秀諜報員ばりの連携行動をとったため、大輔が健太を先程まで祐介が簡易的な人払いをしていた場所まで誘導したのとほぼ同タイミングで、美穂を誘導してきた里奈が到着した。祐介は大輔が来たのを見計らって少し離れたところで待機している。


「「ごめん、今日用事あるんやった!」」

 謀ったかのように、というより実際謀ったのだが、ほぼ同時に大輔と里奈はそう言って走り出す。曲がり角を曲がって、残りの二人から死角になるところまで走ってから、祐介と合流した。


「佐藤、これ届けなあかんし、行くで」

「へっ? まぁいいけど」




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