四十七話「天気予報、魅せるは大外れ」
ほんまごめんなさい
体育祭の準備が徐々に始まりつつある中、生徒会本部役員の人手不足が浮き彫りになってきた。その事実には当然本部役員たち自身がいち早く気づき、大輔を中心として生徒会本部役員の追加募集の算段がたてられていくこととなった。
木村先生越しに選挙管理委員会の公認ポスター用紙を入手し、美術部で追加募集を告知するポスターを作製。その裏で里奈や美緒、そしてくるみを通して追加募集の話題増強を企んだ。
「こんだけやれば、数人くらいは集まるんちゃうかな」
「美術部のポスターも結構目立つ感じに作られてたし……行けるやろ」
「――。そうも、上手くいかないかもしれませんね」
生徒会室で体育祭が近づいてきたことを告知する生徒会ニュースをそれぞれ作成しながら、大輔、里奈、美緒の三人が会話する。いくつかの策動によって生徒会本部役員の人手不足は解消されよう、としている――のだが、懸念を差し込んだ大輔の声は明るくなかった。
「選挙管理委員会――とは、正直仲が良くありませんから」
「なに? 鈴木が昔なんかやらかしたとか?」
「確かに正論で人を殺してそうやもんな」
「私個人が、ではないですよ。生徒会本部という組織自体が、選挙管理委員会という組織と仲が良くないんです」
大輔は、ふと生徒会室の前の廊下に掲示されたポスターに視線を向ける。確かあれは祐介が作ったポスターだったはずで、『生徒会非公式お手伝い係なんやから、俺のは生徒会室の前に飾っといてや』と祐介が言っていたことも思い出す。
そこには大輔が指定した通り、本部役員追加募集に関する要項がそれぞれ記載されているわけだが――、
「『立候補者は事前に生徒指導部、生徒会本部のそれぞれ担当教職員に許可をもらったうえで、立候補届を職員室に直接提出すること』――逆によく考えますよ、それだけ厳しい条件を」
「確かにまあ、やりたいって人がいたところで、そう簡単には立候補できないシステムよな」
「けど……なんで選挙管理委員会がそこまで厳しい条件を出す訳?」
「人は、上に立ちたいんですよ。――生徒会本部は、学校に在学・所属する生徒たちの言わば司令塔に当たります。全体の最高意思決定機関。まあ、当然ながら決定権の幾らかは持っているわけですが……」
「その生徒会本部役員の選挙やら選出やら、そういったことには選挙管理委員会の許可が必要やった――つまり、そういうことやろ」
「そういうことです、議長先生。学校において、名目上だけでも最上級の機関とされている生徒会本部に、唯一上から許可を出す組織が選挙管理委員会なわけで、常にあちらは、こちらに対して上位でありたいんですよ」
「……面倒くさいな、うちの学校の選挙管理委員会。それのせいで、鈴木君の作戦も、里奈のポスターも半分くらいは水の泡になった、ってことか」
「いえ、議長先生のポスターが水泡に帰したのは、純粋に彼女が筆洗の水をポスターに零したせいです。まあ、現代アートっぽいって有名になってるそうですけど」
大輔の冷たい指摘に、里奈は何故か誇り顔だ。なんにせよ、自分のポスターが有名になっているというのはやはり嬉しいらしい。もしもそれが、水に濡れて本物の絵が霞んで見えなくなったからだとしても、だ。
何にせよ、選挙管理委員会は生徒会本部を自分たちの下に据えたうえで、その状態を維持したい。そのためにも、安易な役員追加を許可するわけにもいかなかったのだ。
大輔らにとっては困ったことだが、お互いの威厳というものを維持するために必要なものであることは否めない。
「期待せず行きましょう。打てる策は当然打ちます――が、最終的には立候補の意思を持つ生徒の方がいなければどうしようもありません」
大輔は、生徒会長となるため、本部役員に立候補した。しかし、自分のような積極性が一般的に多数派である、とは思っていない。立候補を促され、時には半ば強制される生徒だって多いはずだ。そういう生徒が生徒会長になってきた歴史だってあるだろう。
しかし、今回はそうもいかない。最低人数が決まっている生徒会本部役員選挙と違い、追加募集は最低人数が設定されていない。つまり、先生方が誰かしらを選び抜いて立候補させる、ということも期待できない。
「立候補届を出す人間が一人でもいたら、次の日は立候補届が空から降るでしょう」
「なんちゅう天気予報してんねん」
「けどまぁ、そうかもしれんよな……一人でも出してきてくれるかどうか」
「――立候補届、落ちてくるんすか」
「そうそう、もしも立候補してくる生徒が一人でもいれ、ば……?」
里奈の言葉は尻すぼんでいき、最後には音でもなくなった。そして、次の瞬間里奈が立ち上がる。その隣りに座っていた美緒も、部外者の声を聞いていつも通りに立ち上がった。
向かいに座っている大輔だけが、座ったままだ。状況をいち早く理解し、だからこそ驚きに表情を染めている。
「本部役員の追加募集って聞いて。立候補届って提出するのここでしたっけ」
「正確には違う――けど、ここに来たことも無駄にはならないと思うよ」
ここで、大輔がやっと立ち上がる。そして目線を扉のところにいる生徒に合わせた。その眼光が少し強かったか、立候補届を持ってきた男子生徒が怯む。
「選挙管理委員会の設定した仕組みでは、我々元からの生徒会本部役員と、立候補者の面識がないままに役員が追加される可能性があった。手続きのどの段階にも顔合わせがなかったからね」
「――なるほど」
「けど、君が間違えてくれたからこそ、立候補前に顔合わせが叶った。この方がいいやんね、人の好感度は単純接触回数によってある程度変動する。顔合わせしといたほうが、馴染みやすい」
「……そう、っすね」
「おい、鈴木が理論武装展開するせいで引かれてるやん。ごめんな、こいつ、人手探しが成功して喜んでるだけなんよ。いっつもこうってわけやないんやで? 大体、全体の八割こうなだけやから」
「それ、かなり変なやつやろ。まぁ、事実やからなんとも言い難いんやけど」
「――すごい、何というか……印象と違う、というか」
生徒会本部役員の洗礼かのように、変人たちに捲し立てられた男子生徒が半ばたじろぐようにして苦笑いを浮かべる。しかしその奥、どこか高揚する表情も見え隠れする。あまりに混沌とした状況を前にして狂ったのかもしれなかった。お気の毒に。
「じゃ、改めて――蒼井拓也です」
――生徒会本部役員、一人追加。




