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付き合っていないと言いつつイチャつくカップルが面白い  作者: masterpiece (村右衛門&モ虐)
<中学2年生--1学期>
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第三話「乱入者、若しくは協力」


―――生徒会室にて


 生徒会室は生徒会本部が基本的に会議や作業を行う場所であり、北校舎の四階、学校舎の端に位置している。

「えっと……原稿はこんな感じでいい?」

「そーです……ね。清書もお願いします」

 生徒会本部は、今の時期とても忙しくなっていた。

 生徒会本部役員が決定してから約二週間が経過して、六月に入ったことで、月目標を決める必要が出てきているのだ。慣れてくれば簡単に―――というか雑に―――終わらせるようになってくるものなのだが、生徒会本部役員になりたての三人にとっては簡単なものでもなかった。


 この学校、関西倉北中学校の生徒会本部では、毎月、月目標を決め、昇降口近くの掲示板にポスターを設置、「生徒会ニュースだよっ☆」という名のプリントで紹介もしている。

 因みに、プリントの名称について秘密裏に全校生徒にアンケートを取ったところ、「いいと思う一割」「おかしいと思う一割」「そもそも知らない八割」という結果となった。

「模造紙は……職員室からとってきたらいいですかね?」

 大輔が軽く周りを見回しながら誰に、というわけでもなく尋ねる。

 生徒会室の中央に置かれた人が一人寝る事も出来るような大きなテーブルでは、美緒がニュースの清書を始めていて、里奈がそのニュースに自らのイラストを書こうとして美緒に阻止されていた。

「多分、そこの何処かにあると思うけど」

 里奈が指差した方向を一瞥し、大輔はあぁ……と声を漏らす。

「職員室に取りに行ってきます」

 確かに、これまでに使われていたであろう紙が山のように積まれているのだから、そこに模造紙のあまりがある可能性も十分にある。しかし、大輔はそこを探して今より悲惨な状況にするより(いさぎよ)く職員室に取りに行った方が最終的に早く済むと判断した。


「失礼します―――」

 テンプレートのような言葉を舌の上で転がし、大輔は模造紙をとってくれるよう、近場にいた先生に頼む。

 小学校の頃は職員室に入る、ということが苦手だった大輔だが、児童会役員だとか、委員会だとかを経験する間に職員室に何度となく入ったため、最早慣れてしまった。

 小学五年生で敬語の授業をしてからはその優美さに惹かれ、極端にもクラスメイト全員に対して敬語を使うようになってしまった、云わば変人である大輔の敬語癖も、職員室に入るとかそのようなシチュエーションではとても役立つものだ。

「失礼しました―――」

 職員室の扉を静かに閉め、大輔は生徒会室への帰途につく。

 生徒会室は校舎の端にあるだけあって、運動不足の大輔にとっては職員室から帰るだけでも一苦労だ。

 職員室のすぐ横の階段を上って四階まで上がる。そのまま廊下を進んで三年生の教室を横切りかけて、大輔はふと立ち止まった。


〝他学年のフロアに進入しないこと〟


 生徒手帳に記載されている、学校則の一つである。これのせいで、こういうところで変にまじめさを発揮する大輔は一旦三階まで下り、二年生の教室の前を横切るという選択をするしかなくなった。

「仕方ない、か……」

 小さく呟いて、先程昇ってきた階段を下りようとする大輔だったが、ふと生徒会室から聞こえてきた声に足を止める。

 三年生の教室を挟んだ先にあるとはいえ、校舎の端から端である。そこまでよく聞こえたわけではないが、誰かの叫び声―――声の感じから美緒だろうか―――が聞こえてきたのだ。

 悲鳴、とはまた違う。悲鳴ならば流石の大輔も校則を無視してでも三年生の教室前を横切って生徒会室に向かっていたが、何とも、表現しがたい声の感じだった。

 強いて言うなら、「苛立ちを纏わぬ怒声」だろうか。

 自分でも何を言っているのかわからなくなり、大輔は予想するのを止めて生徒会室へと向かうため、階段を下りる足を速めた。


 生徒会室に到着するころには、大輔の息は十分に切れてきていた。六月ともなると微妙に暑くもなってくる。まだ汗をかくほどでもないが、体が火照っているような感じはしていた。

 生徒会室に入る前に息を整えようと、肩で息をする大輔だったが、突然現れた人影に間一髪の回避を求められる。


―――何というか、突然現れる人影が多いな


そんなことを心のどこかで思いながら、おっとっと、と大輔はバランスの悪い着地を決める。

「あれ、高橋君か」

 生徒会室から飛び出てきた人影の正体は、美術部所属、大輔とも中学校に入ってから仲良くしている高橋 祐介であった。

 生徒会本部役員でもない彼が、何故生徒会室にいるのか。

 疑問を持った大輔であったが、そんな事を考えている余裕はなかった。もう一人、生徒会室から飛び出てきたのである。


「さっさと、出てけぇ!」

 黒板の端にくっついている大きな定規を槍のように構え、美緒が飛び出してきた。

「いやいや、だから、俺だって手伝いに来たんだからさぁ」

 祐介もバランスを立て直し、抗議を始める。その様子を、大輔は呆然と見ていた。

「ちょっと、お待ちを。どういう状況か説明してください」

「なんか、祐介が急に入ってきて、美緒が追いだして、入ってきて、追い出してを三回繰り返して今が四回目」

「成程、全く分かりません」

 生徒会室の前の廊下で口論を繰り広げる美緒と祐介を一旦置いておいて、大輔は中でニュースに独特なイラストを描いている里奈に状況説明を頼む。しかし、説明を聞いて理解できるような簡単な状況ではないようだった。


「鈴木副会長ー、俺はただ手伝いに来ただけなんだけどぉ」

「鈴木君、この人って叩いたり殴ったりとかしても大丈夫?」

 突然水を向けられて、苦笑を漏らした大輔だが、二人ともに対応せざるを得ないのだと諦める。

「うぅん、生徒会本部役員以外が本部の作業に参加するのもなぁ……」

「そして、叩いたり殴ったりは十分に暴行罪、場合によっては傷害罪が適用されますので止めましょう」

 最早無慈悲とさえいえる正論を言われて、美緒と祐介の二人ともが唸りながら静かになる。

「まあ、今日は帰るわ」

 そう言って、祐介は生徒会室をあとにして美術室へと帰っていく。


 〝今日は〟というところに、これからも何度だって来るぞ、というようなニュアンスが込められているような気がして、そしてそれに美緒も気づいてじとぉ、と睨みを利かせていることにも気付いて、大輔は何とも複雑な気持ちになった。

 今日中で月目標のポスターはどうせ完成するわけもない。明日辺り、作業することになるのだろうが、その時も祐介が現れるのだろうな、と考えて大輔ははぁ、と溜息をつく。

 祐介が来るだけなら、先生がいないならいいか、と許容できる範囲である。しかし、それによって美緒との諍いが生じるというなら困るなぁ、というのが大輔の本音であった。


「よし、某怪獣映画のやつ描けた!」

 因みに、大輔の悩みには一切気づかず、里奈は黒板に色んな意味で凄い〝アート〟を完成させていた。




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