三十七話「手回し、奇しくも砕かれたもの」
男子部屋では祐介が、女子部屋ではくるみが。それぞれがした、静かすぎる激白は、それぞれ終わりを迎えていた。
否――、くるみは、丁度終わるところだった。
「そう、やったんや……」
いつもなら想像できないほどに声を静かにし、里奈が呟く。それにくるみは頷きを返してから、最後の言葉を紡がんとして口を、開いた。
「だから、私は――――――」
それは、単純すぎる言葉。ただ、くるみの純粋な『――』だった。
◇
激白の夜を越えて、翌日。
沖縄旅行も一泊二日で今日が最終日だ。
「――てことで、国際通り到着!」
最終日というのはやはり、お土産選びが常というものだろう。ということで祐介が提案したのが、ここだった。
国際通りは飲食店やらお土産屋やら、多くの店が建ち並ぶ大規模すぎる商店街のようなところだ。南国らしさを感じさせる景観は、あまりに沖縄らしかった。
初日の美ら海水族館も当然のように沖縄らしかった訳だが、景色や雰囲気そのものから全て沖縄らしさを感じるというのはやはりこういう場所なのだろう。
「では、毎回恒例、ペア組みをしましょう!」
そうして、大輔が取り仕切る。その瞬間に、祐介と里奈の表情が人知れずに引き締まった。美ら海水族館では自然とペア分けがされてしまったので使わずじまいだったが、この三人は当然のように裏で手を引いている。
全ては健太と美穂をくっつけて幸せにしてあげよう、という粋な計らいである。まさかくっつくかどうかの瀬戸際をニヤニヤと観察したいなどと言う私欲ではないのだ。
「ということで、地方各地で違う呼び方のアレで――」
「あ! それなら、良いもの用意しましたよー!」
――ハッ、くるみの説得忘れてた!!
三人組、一生の不覚である。
健太と美穂の状況についてはある程度くるみの耳にも入ったが、それは三人組の用意した諸々の手回しを全て理解し把握した、と言うわけではない。それをさせるだけの時間もなかったのだから仕方がないが――、
「簡単なお箸のくじ作ってきたんですよー。どこかで使うかなって」
そう言ってくるみが出してきたのは確かに既に割れている割りばしで作ったらしいくじだ。先端に三色のマークがそれぞれつけられており、同じ色を引いた人同士がペアになるらしかった。
大輔が咄嗟に観察するが、割り箸は完全に円柱形に整えられているタイプで、何かしらの模様や傷の有無などの差異はない。本当に、運否天賦の勝負なのだろう。
「はーい、皆さん引いていってくださいよー」
くるみがくじを出した瞬間に口を挟みかけていた祐介、咄嗟に観察を始めた大輔、変な雰囲気を気取られないよう早々に諦めた里奈。三人が肩を竦めて目を合わせ合う。
時にはこういうのも、いいのかもしれない。特に、今日はくるみと言うイレギュラーな存在がいるのだから。
「じゃあ、皆さん一斉にー、オープン!」
◇
「また、これは――珍しい組み合わせ、ですね」
大輔が周りを小さく見まわしながらつぶやく。
その呟きも、当然のものと言えるだろう。それぞれのペアでまとまって分かれてみたところ、本当に恐ろしい程珍しい組み分けになったのだから。
「――付き合い短く無い方ではあるし、俺らのところが一番珍しくはない、か?」
「まぁ、そうやねぇ。他のところが圧倒的に珍しい感じがするし……」
――付き合いの長さは一位の美術部ペアとして祐介と美穂。
「あんまり話したことないんやけど――」
「まあまあ! 共通の友達持つもん同士、堅物副会長の評判で盛り上がろか」
――奇抜と冷静の氷炎ペアとして健太と里奈。
「なんだかんだ、一対一で話すのは初対面以来かな?」
「そうですねー。メガネ教授相手ですか――戦士の魂が滾りますよ」
「滾らんでくれるとありがたいかな」
理論と狂気の年齢差ペアとして大輔とくるみ。
「いやはや、本当に珍しいし……くるみは何も小細工してなかったのか」
普段の行いが悪いからか、くるみはやはり祐介から怪しまれている。何らかの小細工をして自分と祐介をくっつけようとしているかと。しかし、その疑いは結果が否定していた。実際にくるみが一緒のペアになったのはメガネ教授こと大輔であり、祐介ではないのだから。
「あれ、お兄ちゃん――小細工して欲しかったー?」
「いや、いらないけど」
誤解は徹してさせまい、と祐介が真顔で否定する。それにくるみは頬を膨らませ、しかし今回は素直に引き下がった。いつもよりも変態的な追及が少なく、寂しく……はないが、悲しく……もないし、だからと言って嬉しくもないし、と複雑な感覚だった。
というのも、祐介としても昨日大輔にしていた話もあるのだ。くるみのことを恋愛対象として意識するなどと言うことは、まあ自分が老いて認知症になってくるみが誰なのか、自分とどんな(血縁)関係にあるのかも忘れてしまったとしてあり得ないことだと、祐介は思っている。しかしまあ、妹のような可愛らしさはなくもないのかな、と思ったり――、
「よし。メガネ教授! 楽しみましょうね、お兄ちゃんのストーキング!!」
やはり、可愛らしさなどその変人っぷりに隠れて見えなくなってしまっているらしい。
自分のところから離れて行ってすぐにそんなことを言っている従兄妹のことを思えばこそ、やはり彼女を可愛い妹として認識することすら難しいのだ、と思い知らされる。
せめてもの救いは、くるみの相手が大輔であったことだろうか。小耳を傾けてみれば、今も大輔がくるみをどうにか説得して制止しようとしているし、常識人の大輔がついていれば大丈夫、という安心感はあるというものである。
――而して、国際通りでのお土産選びは始まる。
沖縄旅行、最後のイベント。開幕。
【くるみ】(あれ……?木目で見分けたはずなのに………)
【祐介】俺らのところが一番珍しくはない、か?
【くるみ】(…………あ、見間違えてたぁぁぁぁぁぁ)
【大輔】なんだかんだ、一対一で話すのは初対面以来かな?
【くるみ】(メガネ教授かぁ………なら都合がいい!私が知らない普段の学校でのお兄ちゃんについていっぱい聞き出しちゃお!) そうですねー。メガネ教授相手ですか――戦士の魂が滾りますよ




