三十四話「合流、奇しくも同時に離散」
健太と美穂、大輔と里奈が水族館を巡り歩き、祐介とくるみ、そしておばぁは休憩スペースで体調を整え――、
「――っし、そろそろ見終わるってさ」
「じゃあ、私たちも動こっか」
「わんねー車ぬしこーてぃ出口っし待っちょーくとぅ〜」
スマホで大輔と連絡を取りながら、祐介が立ち上がった。先程と比べ、祐介の表情が回復しているのを見て、くるみも少しは安堵の表情を浮かべる。
車の準備のために離脱したおばぁと別れ、祐介とくるみは大輔らに合流するために休憩スペースを後にした。
*
「――あ、高橋くんたち来ましたね」
集合場所に着いたとき、大輔と里奈は先に到着していた。ふと見まわしてみるが、健太と美穂はまだ来ていない。
「大丈夫やった? しんどくなって休憩したって……」
「あぁ……まぁ、一旦大丈夫そう」
「そう」
祐介が体調を少し崩した、というのは健太と美穂は知らない。そのことを大輔も知っているからこそ、あまり伝えない方がいいのかと察して周りに二人がいないことを確認してから祐介に体調を確認した。
祐介の返事、実際に体調が悪いようには見えない顔色を受けて、大輔も納得したように二度三度と頷いた。
「まぁ、次はおばぁんちやから……」
「大丈夫? おばあちゃんちにも人混みが……とかならへん?」
「なんでやねん……急遽参加のくるみ併せておばぁんちには七人やから」
軽口を交換しながら、大輔と祐介は壁に寄りかかったままに未だ合流していない最後の二人を待つ。その間、くるみは珍しく静かだった。
「――おっ、美穂たち来た」
ふと、通路の先を覗いていた里奈が声を上げる。そして、こちらに歩いてくる男女二人組に向かって大きく手を振り、更には腕を大きく広げて美穂が飛び込んでくるのを待つ。
相対する美穂は大きく手を振るばかりで、健太は顔の横辺りでひらひらと小さく手をひらめかせるばかり。それを見ていた大輔は苦笑い。
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「? どうしたよ」
「お兄ちゃんお兄ちゃん」
「あぁ、遂に壊れたんやな」
里奈と美穂の温度差も気にすることなく、大輔が離れて身軽になった祐介のもとでお兄ちゃんお兄ちゃんしているくるみとそれに軽口で応戦する祐介。大輔は苦笑い。
「よしっ、これで全員集合やな」
「うん、お待たせー」
「お待たせ」
こうしてようやくの全員集合である。
よくよく考えてみると、全員がしっかり集合して行動したのは最初の深海生物との相性診断だけだったのかもしれない。
「そういえば、どうだった、美ら海は?」
「面白かったよぉ、いやはや興味深い。クラゲの生存戦略とか……」
「ちょい待ち。その話、絶対長くて面倒な奴やろ」
「お、高橋よくわかったな。被害者と言う形での経験者であるこの伊藤里奈が保証してやろう」
残念ながら、大輔は感想を語れずじまい。
楽しみ方は自由かもしれないが、どうしても大輔は変人枠であった。
而して、適当な軽口を交わし、雑談を交わし――一行はおばぁの待つ車まで進んでいく。どうしてもボケとツッコミの応酬となるのは何の因果なのか。
*
「――そういえばさ、『かめーかめー攻撃』って知ってる?」
全員が車に乗り込み、おばぁの家に向かって出発して五分ほど経っただろうか。そんなころに、最後列に座っている祐介が隣の大輔と里奈にコソリと問いかけた。
わざわざと小声にしているというのもあって何かあるのか、と大輔と里奈もどこか身構える。
「亀? かーめさん、こーちら、てーのなるほうへ?」
「それ鬼や」
やはり、里奈は身構えてなどいなかったらしい。
どこから発想したのかも分からないようなボケを繰り出しながら、里奈は小声で「違うか」とだけ呟いた。
それを苦笑いと共に見ていた大輔だが、大輔も祐介の問いに対する答えを知らない。深海魚関連でも専門分野違いで知識不足を経験した大輔だが、まだまだこの世界には知らないものがごまんとあるのだと、そう思い知らされる気分だ。
――いや、しかし待て
軽口を交換し続ける祐介と里奈を横目に、大輔の思考は回転する。
まず、祐介がその問いを投げかけてきた動機は何なのか。
――純粋に知らないことを聞きたかった? 否だ。それにしては問いかけ方に疑念が見られなかった。恐らく、祐介は答えを知っていて、大輔と里奈を試している。
――いや、本当にそうか? 祐介は、大輔や里奈を『試して』いるのか?
大輔の本能が、その自問にNOを突きつける。
祐介は問いの答えを知っていて、それを大輔や里奈に聞きに来ている。それは祐介が自分たちを試そうとしているのではない。彼はそういう事はしない。そんなことをするくらいなら――『絶対に答えを知らないだろうと予想した問い』を投げかけて、その反応を楽しむ。
では、祐介はどうやって、大輔や里奈がその問いの答えを知らない、と確信できたのか。
――それは、『確認』したからではないのか。
既に、大輔や里奈がその問いに対して答えを導けない、ということが今日までの経験上、確認できている。
つまり、自分たちが二人とも「知らない、分からない」と述べたことに関連する問いである、というところまでは絞れた。あとは、賭けである。
「高橋くん――――その言葉、沖縄弁でしょ?」
「え――っ、お兄さん、知ってた?」
「いや? ちょっとした、推理ともいえない妄想と、賭けの勝利の結果だよ」
「あぁ~……お兄さん、傷つかんといてな、悪意ないから。――こわ」
「――――――ぐはっ」
*
「あぁ、お兄さん、意味までは分からんかったんや。それならまだ恐怖も薄れるわ。まだ怖いけど」
「怖い怖いって失礼な……っていうか、なんでこのタイミングでその話が戻ってきた……?」
現在、おばぁの家には既に到着し、夕食中である。
「あ、くりかみ。あとぅ、くりとぅ………若さるんやくとぅ、みっちゃかーんかまんだれー」
「あ、ありがとうございます……」
「ありがとうございまーす!!」
とんでもない勢いでよそわれ、手渡され続ける食事の波に気圧されつつもそれらを胃に収めていく。そんな中で、祐介はふと車の中で発した問いの話に戻った。
大輔は、正直言ってこのタイミングでする話なのか? と首を傾げる。
しかし、祐介はこのタイミングだからこそ、と言わんばかりの表情で頷いた。
「『かめーかめー攻撃』ってな、これ」
「『これ』……?」
「そう、何か知らんけど祖父母の家とか行くと『これ食べあれ食べ』って言われるやろ? それのことを、沖縄弁では『かめーかめー攻撃』っていうねん」
「あぁ……いや、えぇ……なんでそんなニッチなところが言語化されてんの」
「けどさ――絶妙にありがたいやろ。この状況、一言で説明できるで」
「――――まぁ、ね……」
大輔「高橋君ほんと尊敬するわ………ほんとに僕よりすごいかもしれんよ?」
祐介「いやぁ、ついに俺も大輔とか里奈とかを超える天才になれたかぁ………」
大輔「あ、沖縄方言に関しての話ね?学力ではまだ負けないよ?」
祐介「あれ………?ソンナコト……ナァ、クルミ?」
くるみ「うん!お兄ちゃん天才!」




