―――佐藤 健太の出会い
「いや、石井さんっていいよなぁ……」
「おんなじ卓球部やのに、男女の入れ替えの時くらいしか見れへんのが悔やまれるわぁー」
「なぁ、お前もそう思うやろ? 佐藤」
「興味ない」
同じ部活の男子たちの下卑た、と形容せざるを得ない発言の数々を、佐藤は冷酷にもばっさりと切り捨てる。
恋愛など興味ない、というか思春期はアオハルだなんだ言うより、反抗期。それが佐藤健太であった。
地元の小学校は地域でも特に男女の壁が厚く、健太もその影響を色濃く受けていた。今でも、小学校時代からの関わりがある女子とはほとんど話さない。
ギリギリ話すとすれば、小学校の頃から仲の良い大輔繋がりで仲の良い女子くらいである。それでも、最小限の会話しかしないのが当然であるが。
『健太って、好きな人いーひんの?』
何度となく、周りから言われてきた言葉である。勿論、大輔からも言われた。そして、その度に一言で話を終わらせているのも事実だ。
その部分だけ切り取ると何とも無愛想な人だと思われがちだが、自分の恋愛話が苦手なだけで、他人の恋愛には少々の興味があり、元々の性格こそ人懐こい。
だが、やはり周りからすればクールに見せて実際は好きな人の一人や二人、居るのではないか、と勘ぐりたくなるものだ。これまで幾人が切り捨てられてきただろうか。
そして、小学校の頃から女子との間に境界線を引いてきた健太だったが、中学校に入れば隣の小学校の生徒も混じることになり、その半分は当たり前のように女子である。少しは女子とも仲良くなれてきたころであった。
そんなさなかのことであった―――。
「ゲームが、したい!」
下校中、大輔に言われた言葉に健太は「は?」と返しそうになって如何にか言葉を呑み込む。周りからは買いかぶられ、超優等生のような扱いを受けている大輔だが、実際には「こんな感じ」である。
「いや、すればいいんちゃう?」
健太は、いたってまともに返事をした。確かに、そうと言えばそうなのだ。ド正論過ぎて面白くないが。
「いやいや、そう言うわけじゃぁない。中々に大人数でやるゲームをしたいわけなのだ」
大輔は最近はやっている大人数パーティ系のゲームを幾つか挙げながら語る。
「そう言う系のゲームは一人では出来ない……そこで、ゲームをする用のコミュニティを作ろう!」
変にコミュニティとか横文字を使いださないで欲しい、と思いながら健太は「げーむをするようこみゅにてぃ」?と反芻しながら聞き返した。
「そう! 最近は美術部の人達とも仲良くなり、かなりゲームの嗜好が似ていることも発覚。因みに健太ともそれが一致している。そこで、そのあたりをくっつけてちょいと大きめのコミュニティを作ろうかと。最近僕もスマホデビューしたわけだし、グループ通話とかしたら楽しそうじゃない?」
目を輝かせながら語る大輔に乗せられ、健太も途中からかなり乗り気になってきていた。美術部の人、と言うと、知っているのは大輔と祐介くらいのものだ。大輔の話によく出てくる人たちがグループに入ってくると考えると、あと知らないのは「渡辺美穂」、「伊藤里奈」辺りだろうか、とあたりをつけながら健太は思考を巡らせる。
「美穂」は元気なまとめ上手、「里奈」はキラキラ系と思ったら中々不思議な人、というように大輔からは聞いている。知らない二人がどちらも女子、ということには辟易してしまいそうになるが、両方とも大輔の知り合いであり、小学校が同じというわけではない。まだ、いけるかもしれない。と淡い期待を乗せて健太は大輔の案に乗った。
「という話が進んでるんですが、皆さんいかがですか?」
大輔は早速、翌日の美術部の活動時間に話題を振った。その場にいるのは健太の予想通り、祐介と里奈、美穂である。
彼らは共通の大人数パーティゲームをプレイしており、その関連の話もよくしていた。
三人とも、大輔の提案には二つ返事で賛同し、早速家に帰ったら全員のアカウントを持っている大輔がグループを作ることとなった。
〈チャット〉
大輔『よろしくお願いします』
健太『よろしく~』
『あとの人らはこれから来る感じ?』
大輔『もう招待したし、もうすぐやと思う』
里奈『よろしく( `・∀・´)ノヨロシク』
『ハッピーハッピー、ハッピーハロウィン』
美穂『よろしく』
大輔『よろしくお願いします』
健太『初めましてやんな。よろしく~」
里奈『初めましてぇ』
美穂『初めまして』
祐介『俺が最後か、よろしく』
里奈『よろしくよろしく』
大輔『よろしくー』
美穂『よろしく』
健太『よろしくー』
大輔『早速ワールド開いておくので良ければ皆さんどうぞ』
里奈『いっきまーす』
健太『行くわ』
祐介『俺も』
美穂『行こかな』
グループ通話が開始されました
祐介『明日提出の課題やらなあかんし、そろそろやめる』
大輔『お疲れー』
高橋 祐介が退出しました
大輔『九時半くらいにやめます』
健太『りょうかーい』
里奈『十時からはスマホのアプリ封印されるんでよろしく』
美穂『分かった、お疲れ』
鈴木 大輔が退室しました
伊藤 里奈が退室しました
0:23通話が終了されました(4h.28m)
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こうして、健太の新たな出会いは果たされた。
運命の輪が廻り出す―――。
これで第1話は終わりです。
次回の投稿からは毎回話数が進む予定です。
それでは再来週の投稿をお楽しみに!