第二十五話「席順、奇しくも決められていたもの」
「はい、今から飛行機の搭乗やねんけども……席順どうする? 二人と三人に分かれて欲しいねんけど」
「飛行機の搭乗って、もう時間あんまないんやろ?」
「そやね、こっから話し合いでゆっくり決める時間はない」
「じゃあ、グッパで決める?」
「それでいっか」
さて、全て……想定内―――!!
当然の如く、健太と美穂を二人隣の席にするための仕込みは終わらせてある。グッパをする、という選択肢を提示し、時間の事情を持ち出すことでそれ以外を選びにくくするという誘導である。ここまで、全ては里奈発案、大輔と祐介実行の作戦だった。
勿論のことだが、大輔と祐介と里奈は事前にどちらを出すかについて相談済みである。何もかも、里奈たちの掌の上で転がされている。
そんなことにも気づかないままに健太と美穂は術中に嵌り、結果として二人が隣に座ることになる。
こういう時にそもそも男子と女子で分かれよ、とか言われないところ美術部メンバーは仲がいい。
*
「そろそろ離陸やけど、ダイジョブそ?」
「大丈夫、っていうのは? 僕は高所恐怖症ではあるけど、外みぃひんかったら大丈夫よ」
「いやぁ、それが……離陸の時の高度が上がる感覚が苦手な人おるんよ」
「―――それは大丈夫、と断言はできひんけども……大丈夫やろ」
実際、飛行機が離陸するときの感覚は人によって個人差があるものの、中々怖いものであるらしい。飛行機に乗ったことのない大輔によれば、その感覚はブランコで勢いよく上に上がるときの感覚をひどくゆっくりにしたようなものであるとか。
そんな感覚を想像してみて、確かにそれは怖いかもしれない、と大輔は思う。一つ息を吐いて、深呼吸をしてみた。
「何、怖いん、鈴木? 手でも握っといたげよか?」
「いえ、大丈夫です……多分」
「こりゃ怖がってますよ……鈴木はこういう時はっきりと『いりません』って鋭く言うもん。『多分』なんて言わへんもん!!」
「大丈夫ですって!! ―――恐らく」
「多分も恐らくもメイビーも変わらへんわ!!」
わいわいと燥ぐ里奈を苦笑とともに見つつ、この飛行機が比較的空いていてよかった、と祐介は考える。今、こうやって里奈や大輔が話せているのも、周りに客がいないからである。もう少し離れたところにはちらほらとほかの客がいるのが見えるけれども、里奈の声がうるさく聞こえる範囲には誰もいないだろう。
里奈も、おしゃべり好きでありながらしっかりとした常識……『常識人』……(?)である。周りに客がいて自分が声を出すことが迷惑になる可能性があれば自重もする。
そう考えれば、もしやすると自重させるために客もいたほうがよかったのかもしれない、と思う大輔であった。
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「―――シュガー君は飛行機とか乗ったことあんの?」
「いや、ないかな。子供の頃に飛行機を見るためだけに空港来たことはあったけど、実際乗ったんは初めて」
「そうなんや、私は空港行ったんも初めてやわ」
里奈が暴走モードに入りかけている横で、穏やかな雰囲気の二人もいた。
里奈たちの策略によりしっかりと二人が隣の席になるよう仕組まれた健太と美穂である。
以前の夏祭りによって完全なプライベートでの距離感をどうにかつかみ、少しは会話も滑らかになってきたところ。大輔たちに言わせれば、この沖縄旅行でさらに距離を縮めて欲しいものである。
「離陸って、怖いんかな」
「どうやろ、人によって違う気はするけど……」
「怖かったら手つなぐかもしれんけど……気をつけてな」
「へっ……? 気を付ける、ってのは……??」
これはさっそくラブコメの予感か? と興味深そうにこちらを眺めている里奈たちには気づかず、健太は尻すぼみな言葉を残す。
美穂は健太から少し視線を逸らし、恥ずかしそうにしていた。
「いやな? 私、怖い時って無差別に人の手握るねんけど……終わってから見たらその人の手、めっちゃ爪の跡が……」
「あぁ~……そういう?」
気を付けて、という言葉からどこまで想像していったのかは、健太にしか分からない。しかし、彼の想像通りではなかったのだろう。
ちなみに、美穂が怖い時に人の手を握るというのは基本的に彼女の母か、弟あたりが対象となるのだが、毎回のように強く握られて跡がつくので、怖いかもしれないところに行くときは手袋なりなんなりして行くのが渡辺家の鉄則となっている。
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『―――まもなく、出発いたします。シートベルトを腰の低い位置でしっかりと締め、ごゆっくりおくつろぎください』
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機内アナウンスが聞こえ、終にその時が来たのだと覚悟する。
大輔は左側の手が思い切り握られているのを感じて、苦笑を漏らした。
「第三者視点やった君が握るんかい」
「苦手な人もいるっていったやろ? あれ、俺の事」
まさかの大輔も里奈も飛行機の離陸は得意なタイプだったようで、祐介が大輔の手を強く握ることとなった。
なお、健太の手の甲にはいくつかの赤い跡が残っていたことをここに報告いたします。
「ふぅ、やっと軌道に乗った」
「もう安心なん?」
「まぁ、飛行機の墜落事故は極めて稀やからね」
離陸時には怯えて大輔の手を強く握っていた祐介だが、一度飛行機が軌道に乗ってしまえばあまり怖くないようで、余裕をもって飛行機の墜落事故の可能性について語っていた。
「あ、先に言っとくけど、俺は離陸だけじゃなくて着陸も苦手やし」
―――ということで、無事に、とは言い難いが美術部組沖縄上陸である。
「はぁ……やっと着いたぁ……」
一度背伸びをして、椅子に座っていたせいで固まっていた体をほぐす。
空港での手続きを全て済ませ、祐介の祖母が迎えに来る時までは一旦待機である。
「あ、ちょっとトイレ行ってくるし、ここで待っといて」
祐介離脱により、他のメンバーは完全に動けなくなる。
地元の空港であればまだしも、ここは初めて降り立つ土地である。流石の里奈でも、うろうろと周りを歩いてみたりすることすら出来ていなかった。
―――と、そんなところに乱入者が現れる。
「―――あれ、お兄ちゃんって……どこ行きましたー?」
【インタビュー】
Q里奈のこと好き?
A
【大輔】まぁ、生徒会本部のお仲間同士ですし、嫌いでは困りますよね
【祐介】何で俺に聞くん?副会長のお兄さんあたりに聞くんがおもろいやろ
え?もう聞いた?
ーーーは?何その回答おもんねー




