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付き合っていないと言いつつイチャつくカップルが面白い  作者: masterpiece (村右衛門&モ虐)
<中学2年生--1学期>
2/50

―――鈴木 大輔の出会い


 美術部に、伊藤里奈が転部してきた。和やかな雰囲気で自己紹介も終え、多分だがトラブルというトラブルも起きそうにない。

 中々に美術部も楽しくなりそうだが、大輔はこれから美術部に参加できない日が増えそうになっていた。


「失礼します、二年三組鈴木大輔です。木村先生いらっしゃいますか?」

「鈴木君、どうかした?」

 職員室に赴くと、ふんわりとした体形の木村先生が現れる。因みにだが、これは誉め言葉である。何なら、最上級の。それだけはゆめゆめ忘れないでもらいたい。

「生徒会本部立候補者紹介の広報原稿と立候補者立会演説会の演説原稿草案が出来ましたので、確認をお願いします」


 何やら呪文のようなものを言われ、木村先生は少し引きそうになっていた。因みに、大輔はこの呪文を言うために十回ほど脳内シミュレーションをしている。

「失礼しました」

 呪文で述べた二つの原稿草案を木村先生に渡し、大輔は教室へと戻る。一週間後に迫る選挙活動期間のため、準備しなければいけないものが山積みだった。二つの原稿草案は最も面倒だと考えたから早めに終わらせただけで、他にもやるべきことはいくらでもある。


―――とかなんとか、あって。

 苦労の甲斐あり、大輔は生徒会本部役員に信任された。といっても、立候補者が定員と等しかったために決選投票ではなく、信任投票だったのだ。この場合、先生たちの圧力もあって九割九分信任される。

 そして、今日が生徒会本部役員会議の第一回予定日だった。『生徒会室に放課後集合』担任の先生から連絡されたことを反芻しながら、大輔は生徒会室へと向かう。

 階段を上っていると、生徒会室前の廊下に荷物が置かれていることに気づいた。大輔も初日に遅れまいと急いできたのだが、もう既に到着した人がいるのかもしれない。


―――ドタ……ドタ


 あれ……? もう一度廊下に置かれた荷物を見て、大輔は既視感のようなものを覚える。


―――ドタドタ……


 あのリュックに付いているお守りは……と大輔は自分の記憶の中を探る。


―――ドタドタ……キュッ


「あ! 鈴木!」

 横から飛ばされた槍のように突っ込んできた人影を、大輔は足らぬ運動神経で間一髪、回避する。その瞬間、既視感のあったお守りが何だったか、思い出した。少し前に美術部に転部してきた里奈のリュックにも同じお守りが付いていたのだ。連鎖的にリュック自体が同じであることも思い出した。

 ふと、生徒会室の扉の方を見ると里奈が鍵を開けて中に入ろうとしているところだった。そこで大輔は里奈が生徒会室の鍵を職員室で借り、ここまで走ってきたのだと気づいた。そう言えば、先程から頭の片隅で誰かが走る音が聞こえていたような気もする。

 里奈が放っていったリュックを片手に持ち、大輔は里奈に続いて生徒会室に入る。

 しかし、美術部での初対面の里奈はもう少し大人しいような気がしていたのだが、職員室からここまでをスカートで走り抜けてきたであろうことを考えると、そうでもないのかもしれない。まあ、キラキラした女子が苦手な大輔からすれば正直その方が生徒会本部役員仲間として関わっていきやすいのだが。

「えぇーっと、あともう一人でしたよね?」

 軽く廊下を見て、生徒会室に向かう人影がないことを確認しながら大輔は里奈に問う。

「うん、あと美緒が来てへん」

 里奈の口から出た「美緒」という名前から、大輔は立候補者名簿を思い出す。確か、推薦による立候補だったはずだ。

「遅れましたっ! ……って未だ先生来てはらへんのか……」

 「美緒」のフルネームは何だったか、と記憶の中を模索する大輔だったが、思い至るより先に本人が到着した。


「あれ、今年の生徒会は優秀やねぇ。先生が遅れたみたいや」

 美緒の後ろから、生徒会担当の木村先生が現れ、全員が揃う。

「じゃあ、それぞれどっか適当でいいし座って……今日は役職決めくらいやし」

 木村先生はそう言って議長席に座る。大輔、里奈、美緒の三人も、それぞれ近くにあった席に座った。

「えっと……まずは生徒会本部役員信任おめでとう。規模縮小で三人しかおらんねんけど、三人寄れば文殊の知恵の三人はクリアしてるし、まあいけるかな」

 三人は無意識に背筋を伸ばす。今更だが、生徒会本部役員としての実感が湧いてきたのだろう。

「まあ、自己紹介だけしようか。僕は三人とも英語持ってるし、割愛で……石井さんから」


 そうだ、「石井美緒」だ。大輔はそこで思い出す。

「はい、石井美緒です。卓球部です。お願いします」

「じゃあ、次は鈴木君」

「えっと、二年三組、鈴木大輔です。美術部に所属し、小学校で一応は児童会に入っていました。よろしくお願いします」

「最後、伊藤さん」

「はい、伊藤里奈です。最近美術部に転部しました。水泳教室で生徒会本部にこれない日がないことを願ってます。よろしくお願いします」

 全員の自己紹介を終え、一人ひとり個性が出るもんだな、と大輔は一人思う。


―――何とも面白い


「じゃあ、役職やけども……最上級生が生徒会本部にいない場合は会長職は空席にするのが決りらしいし、それ以外で立候補ある?」

 木村先生に言われ、それぞれ考えだそうと、大輔が顎に手を添え、美緒が腕を組んだ瞬間、里奈がガタン、と椅子を鳴らし、立ち上がった。全員の視線が一度に少し上に上がる。

「議長やりますッ!」

「じゃあ、伊藤さんは議長、と」

 木村先生が手元のファイルに名前を書き込み、他の二人は?と続けようとする、がそれを遮ったのは里奈だ。

「美緒は絵上手いし、何となく庶務ちゃう? 鈴木は……何となくお堅い感じやから副会長! ほんとやったら会長やらしたかったけど」

 里奈は勢いのままに全員の役職を宣言してしまった。木村先生も何も躊躇することなく、ファイルにそのままの役職をメモしていく。

 大輔の中で、脳内に少しだけ残っていた里奈のキラキラ系女子のイメージが完全に取り除かれていく。

 こうして、役職が半強制的に決定され、新生生徒会本部が組織された。

 

これもまた、一つの出会い―――。




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