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付き合っていないと言いつつイチャつくカップルが面白い  作者: masterpiece (村右衛門&モ虐)
<中学2年生--1学期>
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第一話「各々の出会い」 ―――伊藤 里奈の出会い

―――中学二年生

 

 学年が変わるとともに、人間関係も変わりだす。

 幼さと成長の混じる思春期、初々しくも難しい、人間関係の輪が廻り始めた。



「本当に辞めちゃうん? 里奈ちゃん」

 陸上部の部長から、辞めてほしくないオーラのようなものをひしひしと感じ、里奈はどうしても申し訳ない気持ちになってしまう。だが、これは仕方がないことだ。もう、戻ることは出来ない。

「すみません、でもこれ以上色々重ねるんは難しくて……」

 それに、転部届は顧問の先生に提出してしまいましたし……と里奈は続ける。


 小学校時代から続けている水泳教室と中学校から始めた陸上部を如何にか両立していた里奈だったが、二年生になってすぐ行われた生徒会本部役員選挙で生徒会本部に推薦され、立候補することになったという事情もあり、どれか一つを切り捨てざるを得ない状況になっていた。

 もう既に手遅れだと言っているのに抱き着いてまで引き留めようとしてくる部長をどうにか引き剥がし、里奈は家路についた。


「ほんと、女同士やからいいけどさぁ……」

 部長が帰り道までも追いかけてきていないことを確認し、里奈は先程の部長の引き留め祭りを思い出しながら軽く悪態をつく。

 しつこいところは辟易するが、それ以外の点では部長は里奈にとって好きな部類の人間だ。話し上手で、話すことが好きな里奈の話をよく聞き、上手く話を引き出すことのできる部長を尊敬もしていた。そのことも有って、陸上部からの転部を決断するのはなかなかに難しかった。

 だが、これ以上重ねてしんどくなるのもまた違う、というのが里奈の考えである。

 

〝もうどうにでもなーれ〟


 最終的には、その精神で覚悟を決めた。陸上部を止めることには変わりなくとも、陸上部の部長を筆頭とする部員たちや陸上部として関わってきた人との関わりが消えてなくなるわけではない。

 加えて、これから他の部活に入るのならば関わりが増えることでもある。

 早速、翌日から転部先である美術部に通うことになっている。次の出会いに少々期待を膨らませ、里奈は水泳教室に急ぐべく、地面を蹴り走り、砂利を飛ばした。


 少しだけ……ほんの少し、緊張している。まあ、緊張していないと言えば嘘になる。

 同じようなことを心の中で呟き、自分を落ち着かせようとする里奈だが、その呟きがより一層自分の焦りや緊張を助長していることには気づけていない。

『明日からやし、一応自己紹介の練習くらいはしといて』

 昨日、転部先の美術部の顧問である金子先生から言われた言葉を反芻する。

 自己紹介の練習も何も、里奈は人付き合いがある程度得意な人種である。変人相手でも何となくでコミュニケーションできるだろう。

 それでも、緊張するものはするのだ。


「―――失礼、しまぁす……」

 何だか、間延びした声になってしまったなぁ、とその場で後悔しながら里奈は美術室の扉を開く。建付けが悪いのかギィィ、と各部が軋む音がした。

 中に入ると、幾つかのグループがそれぞれ机をくっつけ合って活動している。顧問である金子先生は教卓の方に立っていた。


「―――あ、伊藤さんも来たし、軽く自己紹介だけしてもらおうかな」

 里奈はそう言われて、教卓の方へと歩く。緊張が足に響いたのか、とてとてと覚束ない足取りとなってしまったが、教卓の前で如何にか床を踏みしめる。

「えぇーっと、伊藤里奈です。陸上部から転部してきました。怪獣の絵とか……そう言うの得意です。えっと……よろしくお願いします」

 そう言って里奈が礼をすると、テンプレートのような拍手が帰ってきた。部員たちは既にグループが出来ているのか、新参者の里奈は歓迎とまでは行かないようだ。

「美術部と言っても、特にこういう活動をしないといけないっていうわけでもないし、雑談も重要なインスピレーションを得る場ってことで、自由にしてくれたらいいからね」

 金子先生から美術部の簡単すぎる説明を受け終わると、里奈は見知った顔を探した。


「――里奈、こっちこっち。」

 突然、一番端に位置するグループから声を掛けられ、里奈はそちらに視線を投げた。

「あ、美穂! 良かったぁ、どこにいるのかと思って探したわ~」

 里奈と美穂は小さいころから家族ぐるみで仲が良い。お互いの家によく行くせいで学校の帰りにそれぞれが逆の家に帰ってしまったのは良い思い出だ。

「――伊藤さん、お久しぶりですね」

 ふと、里奈は、声を掛けてきた男子に目を向け、里奈と同じグループなのか、と座っている位置から推測する。同じく位置からの予想だが、彼と美穂は何というか絶妙な関係のようだ。友達になりかけている、というところだろうか。というか、そんなことより―――


「誰、だっけ?」

 里奈は首を傾げる。お久しぶり、というからには小学校辺りの知り合いだろうか?だけれども、同じ学年には少なくこんな男子はいなかった、と記憶を探りながら里奈は思う。

「同じく、生徒会本部役員に立候補した鈴木です。覚えて頂けていないなら以後、お見知りおきを」

 生徒会本部役員、と聞いて里奈ははっと思いだす。生徒会本部役員に立候補することを選挙管理委員会に報告にいかなければならなかった時、確かに彼がいた。名簿によれば、名前は「鈴木大輔」だっただろうか。里奈が「推薦による立候補」と名簿に記録されているのに対し、彼の名前の横には「立候補」としか書いていなかった。わざわざ生徒会本部に自分から立候補しようという変人もいたのか、と思ったものである。


「大輔、やっぱ『以後お見知りおきを』って気に入ってんのよなぁ。あ、因みに俺は祐介。高橋祐介」

 こっちは多分、小学校で見たことがある。同じ小学校ではあったんだろう。一学年に百人ほどいた小学校に通っていたことも有り、彼のことをしっかり覚えているわけではないし、話すのも初めてだとは思うが。

「これでグループ『三人』だね」

 これまでもまとめ役のようなものを担っていたのであろう、美穂が話をまとめる。しかし、里奈はん?と違和感を感じた。そして、少し言われたことを反芻する。その時間、僅か一秒に満たず。

「いや、美穂、自分入れてないやろ」

「あ、忘れてた」

 小さく爆笑が起き、里奈は美術部でもうまくやっていけそうだ、と根拠もなかったが感じた。




村右衛門様とのコラボ企画の初投稿です。いかがだったでしょうか。

僕としては自分の考えた物語が他の人の文章で描かれるという不思議な感覚で読んでいました。


1話は長くなったので3回に分けて投稿いたします。3人の登場人物の視点から”それぞれの出会い“を描く予定です。


それでは再来週の投稿をお楽しみに!

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